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No.36 迷子の残光、あるいは小さな手繰り




 No.36 迷子の残光、あるいは小さな手繰り




 最近、ネネの周りはいっぱい変わりました。


 先ず、パパとママのケンカは……ううん、少しまだするけど、前ほどじゃなくなりました。


 あと、パパもママも、ネネの言葉をちゃんと最後まで聞いてくれるようになってくれたんです。


 それは、おじいちゃんと──あのボランティアのお兄さんのお陰です。


 そういえば、最近はお兄さんの姿をちっとも見なくなりました。


 前はよく、ネネと同じボランティア活動で合っていたんですけど、どうしたんでしょう? 病気でもしちゃったんでしょうか。


 ネネ……ちょっとだけ、心配です。


 「ネネちゃん、どうしたの?」


 お部屋のなか、お友達のさりちゃんが、様子のおかしいネネの顔を覗き込んで心配そうに声をかけてくれました。


 でも、ネネは「ううん、なんでもないよ」と言って、さりちゃんの気づかいをちょっとだけ無下にしちゃいました。


 ……あ。ネネは、わるい子です。


 だからなのかな。


 最近、あの「ネコさん」の夢も見なくなっちゃったのは……。


 前はよく、夢の中でネコさんと一緒に、わるい子とする人たちをメッって、しかっていたんです。


 ネコさんはいつっも「めんどくさいなぁ」って言ってたけど、それでもちゃんとネネと一緒にいてくれました。


 だけど、いつのまにかネコさんはいなくなちゃいました。


 ……そういえば、ネコさんがいなくなったのって、パパとママのケンカが少なくなったころだったかな?


 もしかして、ネコさんもパパたちを仲直りさせるお手伝いをしてくれたのかな。


 もしそうなら、ネコさんにもちゃんとお礼がいいたいな。


 「紗羚さり。入ってもいいですか?」


 トントン、と小気味いいノックの音と一緒に、お部屋のドアが開きました。


 「お姉ちゃん? いいよー!」


 さりちゃんが元気に答えると、「失礼しますね」と優しそうな女の人が入ってきました。


 さりちゃんの一番上のお姉さんです。


 その手には、とってもいい匂いのするお皿が乗っていました。


 「クッキーが焼き上がりましたから、持ってきましたよ」


 「わーい! お姉ちゃんのクッキーだ! ネネちゃん、一緒に食べよう!」


 さりちゃんのお姉さんは、とっても綺麗な人でした。


 ネネはお礼を言って、温かいクッキーを一口かじります。


 サクッ、として、ふわっと甘くて……おいしい。これ、お店で売ってるクッキーじゃない、手作りだ。


 ネネは嬉しくなって、お姉さんに再度「とってもおいしいです!」ってお礼を言いました。


 「ふふ、どういたしまして。お口に合って良かったです」


 上品に微笑むお姉さんを見て、ネネはふと、頭の中で小さなひらめきが浮かびました。


 さりちゃんのお姉さんは高校生。


 確か、あの大きな『北王子学院』に通っているって言ってたはず。


 だったら──あのお兄さんのこと、知ってるかもしれない。


 「あの、お姉さん。北王子の学院にいる、ボランティアのお兄さんのこと……知ってますか?」


 「ボランティアのお兄さん? ええっと、ごめんなさいね。その人のお名前、わかるかしら?」


 お姉さんに優しく聞き返されて、ネネははっとしました。


 ──あ。ネネ、今まで一度もお兄さんの名前をうかがったことがなかったって、今になって気づいたんです。


 名前がわからないんじゃ、探しようがありません。


 ネネが自分のうっかりにしょんぼりしていると、お姉さんは困ったように眉を下げて、でも優しく言葉を続けてくれました。


 「どんな見た目の人かわかる? 北王子の生徒さんだったら、特徴がわかれば探せるかもしれないから」


 ええっと、ええっと……。ネネは一生懸命、お兄さんの顔を思い出します。


 「お姉さんのような、お兄さんです!」


 「え? 私のようなお兄さん? 私、そんなに男性に見えるかしら?」


 「ああ!? そうじゃなくて! ええっと、女の人のようにも見える、すっごく綺麗な男の人です!」


 「ふふ、なるほどね。中性的な人、ってことね。あとは何学年の人か、何部の人かわかる?」


 ……ごめんなさい。それは、ネネにはわからないです。


 なんだか無理なことを頼んじゃった気がして、ネネは小さくなって言いました。


 「あ、あの、ムリに探さなくても大丈夫です。ネネ、困らないので……」


 「いいのよ、気にしないで。気長に探してみるわね。もし見つけたら、紗羚ちゃんに伝えておくから」


 「あ……ありがとうございます、お姉さん!」


 こうして、ネネがずっと気になっていたお兄さんの行方がわかるかどうか、少しだけ進展しました。


 もし、どこかでまたあのお兄さんに合えたら──今度は絶対に、きちんとお名前を聞いておかなきゃ。


 ネネは小さな胸の中で、強くそう心に決めたのでした。














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