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No.38 デジャブの残響、あるいは記録の陥窞




 No.38 デジャブの残響、あるいは記録の陥窞




 最近、と言うかここ最近、私の中で確信に変わりつつあることがあるんです。


 ……映像放送局の人たち、絶対に私を「便利な都合のいい道具」扱いしてません!?


 確かに私は局員の中では新参者ですし、まだ入局して二、三ヶ月の新人ですよ? でも、いくらなんでもこれはあんまりです。


 プロのアナウンサーの方だって、地方の数十秒にも満たないミニコーナーの映像を撮るために、バラエティー番組さながらの過酷なロケをやらされるなんて噂も聞きます。


 それを考えれば、校内放送レベルの私はまだマシな方なんでしょうけど──。


 「なんで!? なんで私一人で体育祭と学芸祭の生徒たち一人一人から、感想を聞いて回らなきゃならないんですか!?」


 そんなの、全校生徒の携帯端末に一斉アンケートのフォームでも送りつければ一発で済むじゃないですか。


 そうやって私が半泣きで抗議したら、鶏島さんは実に胡散臭い笑みを浮かべてこう言ったんです。


 『大口さん。視聴者の“生の声”を直接肌で聞くことで、初めて見えてくるジャーナリズムの真実というものもあるんですよ。ええ、決して大口さんをいじめてるわけではないですからね? そこはパワハラだのモラハラだのと騒がれないよう、誤解なきようお願いしますよぉ。これも全て、君のインタビューの訓練のためなんですからね?』


 だったら局員みんなで手分けしてやればいいじゃないですか、と言いたいのを必死に飲み込みました。


 仕方ありません。私はしがない新人局員ですからね。


 はいはい、上の方の言うことには素直に従いますよ。


 ……とは言え。実際にマイクとボイスレコーダーを手に人の話を聞いて回るのって、やってみると結構楽しいんですよね。


 本筋の質問とは違う、他愛もない雑談をしてると、学院中の色々な裏話や面白い噂を知ることができたりして。


 もしかして、鶏島さんは私にこの「取材の楽しさ」を教えるために、あえてこんな過酷な千尋の谷に私を突き落としたのかな……?


 ──いやいや、騙されちゃダメだよ私!


 あの人、裏では他の局員の人たちから「ノリと勢いとハッタリだけで世渡りしてる中身スッカラカンの人」って満場一致で言われてたし! 危うく騙されるところでした。


 「ええっと、次の取材アポを取ってる人は……2ーCの、ああ、あの人ね」


 資料に目を落とす。


 学芸祭のステージ審査で、参加者全員に対して「オール5点」を出して周囲を騒然とさせた、一部で『ラッキーボーイ』なんて呼ばれている子だ。


 審査員としての意味はあるの? とツッコミたくなる採点だけど、結果的にあれはあれで、荒れそうだった現場を丸く収めるのに一役買ったらしい。


 うーん、あの人はあの人なりの完璧な「公平」の基準で行われた採点だったんだろうな。


 うん、そう思おう。


 そう自分を納得させて、学院内にあるレストラン、外にあるカフェテリアで件の相手と対面したのだけれど──。


 (……え? この人、こんなにやりづらい人だったかな……?)


 テーブルを挟んで向かい合った人物を前にして、私は冷や汗が止まらなくなっていた。


 別にね、威圧感があるとか、会話が成り立たない人とか、そういうわけじゃないんです。


 こちらの質問に対する受け答えは簡潔で、理路整然としていて、非の打ち所がないくらいしっかりしてる。


 だけど、ものすごく、息が詰まるほどやりづらい。


 何これ? どういうこと!?


 映像放送局に入ってから色々なタイプの変人に会ってきた私だけど、この人は群を抜いて「変わって」いる。


 会話の端々に人間らしい感情の揺らぎが一切ない。


 まるで、極めて精巧に作られた最先端の人工知能コンピューターの端末を相手に喋っているみたい。


 人間としての怖さじゃなくて、もっとシステム的な、違った意味での恐怖が背筋を這い上がってくる。


 これ以上まともなインタビューを続けるのは無理だと直感した私は、早々に質問を当たり障りのない定型文へと切り替えた。


 相手もこちらの意図を瞬時に理解したのか、受け答えはさらに極限まで簡潔なものへと移行していく。


 「……っ、ご協力ありがとうございました。インタビューは以上です」


 私は逃げ出すように、インタビュー内容が録音されているボイスレコーダーを手にし、そそくさとその場を離れようと席を立った。


 その時。


 ふと、私の脳裏を、奇妙な映像が静かに過った。


 ──あれ? 私は以前にも、一度、全く同じようにこのカフェテリアで、この人と一対一でインタビュー《対峙》をしていたような……。


 いや、あり得ないですよ。だって私が映像放送局に入ったのは9月からだ。


 それ以前の私は、自分の殻に閉じこもって、人とまともに話すことなんてほとんどなかったのだから。


 こんな風に誰かにマイクを向けるなんて、絶対にあり得ない。


 「……ただの、デジャブ、だよね」


 私は脳裏に過ったその強烈な違和感を、気の迷いだと言い聞かせるように頭の隅へと無理やり追いやった。


 そうして、背後に佇む「色のない瞳」をした人物に一礼し、私は足早にカフェテリアを後にしたのだった。








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