No.41 歪む記憶、あるいは剥き出しの焦燥
No.41 歪む記憶、あるいは剥き出しの焦燥
最近、俺のダチの様子が変だ。
いや、最初っから変な奴ではあったけど、ここ最近の変さはちょっとレベルが違う。
北王子学院に編入してきた直後の繭住真って奴の第一印象は、正直に言えば「無機質でつまらねぇ奴」ってのが全てだった。
なんつうか、こっちがいくら声をかけても「ああ……」とか「そうか……」とか、中身のねぇ気のない返事ばっかりでさ。完全に俺との会話に興味がねぇって態度を隠そうともしなかった。
じゃあ、なんでそんな煙たがられるような奴を、俺がしつこく構ってたかって話だけど。
……まあ、俺自身の過去にちょっとばかし理由がある。
俺が中坊のころだ。俺の今の両親って、実は俺とは血が繋がってねぇんだよ。
簡単に言やぁ、俺の実の親父が幼稚園の時に事故で死んで、そのあとお袋が今のオヤジと再婚した。
だけどそのお袋も、俺が小学校の時に病気で死んじまった。んで、残されたオヤジが、俺が中坊の時に今の新しいお袋と知り合って再婚した。
そん時、思春期真っ盛りでひねくれてた俺は、オヤジとお袋に向かって最悪の言葉をブチちまったんだよ。
『血の繋がらねぇガキなんか、育てる義理はねぇだろう』ってな。
そのあとは、まぁ大喧嘩だ。
特に今のお袋は昔相当ヤンチャしてたクチらしくてさ。思いっきりぶっ飛ばされた。
マジで一瞬、意識が飛んだもん。
そんで頭に血が上った俺は家を飛び出して、あてもなく彷徨ってたどり着いたのが──『十王UNDERGROUND』の薄暗いライブハウスだった。
そこで俺は、音楽に出会った。
これだ、って思った。
マスターに土下座して「俺に音楽を教えてくれ」って頼み込んで、楽器の扱いを教えてくれるイカした師匠たちを紹介してもらった。
それから、いつも一人であぶれたみたいに遠くからライブを眺めてた健也をバンドに誘って。
そのあと勇馬がバカやりながらライブハウスを乗っ取ろうと殴り込んできたり、組んでたバンドが解散して一人で途方に暮れてた大和を仲間に引き入れたりして……。
そんで、冬の寒さが身に沁みる2月だって言うのに──。
……あ、れ?
おかしいな。汐音の奴と会ったのって、今年の11月……だよな?
なんで俺、いま一瞬、あいつと出会ったのを「2月」だと思ったんだ? なんで雪景色が見えんだ?なんだこれ?
あーくそっ、頭が変になりそうだ。まあいいや、細かいことは。
とにかく、そん時の汐音の奴は、薄着のまま一人で公園の片隅で、寂しそうに、だけどものすげぇ歌を歌ってたんだ。だから健也にすぐ電話して、汐音を俺たちのバンド仲間に無理やり引き入れた。
ああ、くそ。俺、頭が悪いからよ、うまく説明できねぇんだけどさ。
つまり何が言いたいかっていうと、俺のダチ──繭住はよ。
当時の俺や、俺のバンド仲間みたいに、「世界から一人ぼっちで取り残されちまった」ような気がしたんだよ。
だから、ほっとけなかった。
どれだけウザがられようが、煙たがられようが、とにかく構い倒してやった。
その甲斐があったのか、最近のダチは少しずつ「人間味」っていやぁいいのか、そういう感情みたいなもんが顔に出るようになってきてたんだ。
俺たちのライブを見て、あいつ、確かに熱くなってたはずなんだ。
なのに……また戻っちまった。
あの、何も映してねぇガラス玉みたいな目をした、無機質なダチに。
いや、もしかしたら、前よりもっと酷い状況かもしれねぇ。
今のあいつは、生きてる人間っていうより、ただ息をして動いてるだけの精巧なマシーンだ。
あいつのために、俺はいったいどうしたらいい?
頼むから誰か教えてくれよ……。




