第5話 集う才女達
「やっぱり、これは……」
薄暗い倉庫の中、カイルはドグマからの指示を受けて、教会から奪った荷馬車の中から出てきた物資を確認していた。その中に紛れていたものに目が止まる。
「……これが事実だとしたら、本当に胸糞悪いな。」
ユユが強い嫌悪を込めた声で言った。
「うん。でもあの男ならやりかねないよ。」
カイルの表情は変わらないが、瞳に暗い影が宿る。
(これはあの男の心を崩すのに使える。)
カイルが考えていると、ユユの大きな耳がピクピクと動いた。
「……なぁ、カイル。なんか広間の方が騒がしくねぇか?」
「確かにそうだね。何かあったのかな?」
カイルが振り返ったのと同時に、倉庫の扉が乱暴に開けられた。
「カイル!こんなところにいたの!ちょっと来なさい!!」
苛立った様子のイレーネに呼ばれて、カイルは広間へ引っ張り出された。
広間に入った瞬間、カイルは目を見開いた。そこにいるはずがない人物の姿を見たからだ。
金髪のツインテールに緑の瞳。少女はカイルの姿を見つけると、カイルの方へ駆け寄ってきた。
「カイル!! 会いたかった! 私、アンタのために教会を捨ててきたんだから!」
少女、セイラはそう言いながら、カイルに勢いよく抱きついた。カイルは唖然としながらもその細い身体を受け止める。
「ちょ、ちょっとセイラ……!」
すぐ後ろから銀髪を揺らしながら、グレイスが真っ赤になって声を荒げる。
「いきなり抱きつくなんて非常識よ! ……わ、私だって……カイルのそばにいたくて来たのに……」
最後の一言は小声で俯きながら吐き出し、耳まで真っ赤に染まっていた。
二人の間に、マリナがウェーブした淡い茶色の髪を揺らしながら、ゆったりとした足取りで歩み寄ってきた。
「まぁまぁ、落ち着いて? ……カイル君、驚いたでしょう。私たち、三人で来ちゃったの。」
マリナはそっとカイルの手を取る。
「私たち、みんな貴方のそばにいたいのよ。」
「……? えっと……」
カイルは完全に困惑していた。
「ふざけんなあああ!! なんでこんな可愛い女の子が一気に押しかけてくるんだよ!?!? お前、どんな人たらしだよ!!」
怒りに満ちた声が聞こえてカイルが振り返ると、ライネルが髪をぐしゃぐしゃにかき乱しながら、床を踏み鳴らていた。
「羨ましいぃぃぃィィィ!羨ましいぃぃィィィ!モテ男は爆ぜろおおお!!!」
バルドが酒瓶を傾けながら呆れたように言う。
「……お前が一番爆ぜてるだろ。」
「うるせぇぇぇ!!」
広間で、カイルと少女達のやり取りを見ていたノアは抱えていた資料を握りしめて背を丸くした。
(あの人……やっぱり……すごくモテてる……)
そんな騒ぎの中、カイルは徐々に落ち着きを取り戻してきていた。
「……どうして、ここに?」
カイルの顔から微笑みが消え、静かに問いかける。
「決まってるでしょ!カイルと一緒に戦うためよ!アンタがいなくなった以上、教会なんかにもう用はないわ!」
セイラはカイルに抱きついたまま答えた。絶対にカイルから離れないという強い意思が伝わってくる。
グレイスは俯いたまま、少し震える声で続ける。
「……わ、私も。貴方の側にいたいの。そうじゃないと……落ち着かないから。」
マリナは穏やかな笑みを浮かべた。しかしそのオレンジ色の瞳には強い意思が宿っていた。
「私も同じよ。……私はカイル君に救われた。あなたが教会を離れるとしても、あなたを支え続けたいの。」
三人の視線が一斉に自分に注がれているのを感じながら、カイルはゆっくりと息を吐いた。
「……君たちは、俺とは違う。教会に力を認められ、大切にされていた。居場所もあったはずだ。
ここに来るということは、そのすべてを捨てることになる。教会を敵に回してまで俺と一緒にいる理由は……本当にあるの?」
冷ややかに聞こえるその声音に、三人は一瞬だけ息を呑む。だが、それでも誰もその場を動かなかった。
そんなセイラ達の様子をみたカイルは、彼女たちを見渡し、ふと、苦笑のような柔らかな笑みを漏らした。
「……ごめん、突き放すようなことを言って。本当は、すごく嬉しいんだ。君たちが俺を選んでくれたことが。」
その一言に、三人の頬が一斉に赤く染まる。
だがカイルはすぐに表情を引き締め、静かに告げた。
「けど、危険だ。もう引き返せない。……それでも来るというなら、俺が守る。絶対に。」
セイラが拳を握り、マリナが安堵の微笑を浮かべ、グレイスが小さく頷いた。
ユユが肩に跳び乗り、呆れたような声で言った。
「やっと素直に言いやがったな。……ほんっと、お前は厄介な籠絡士だ。」
カイルは答えず、ただ優しく微笑み返した。
「カイルの側にいられるのはいいけど、またあんたに会うとはね、生意気キツネ……」
セイラがうんざりとした顔でカイルの肩の上のユユを見る。
「こっちこそカイルにべったり三人娘にここでまた会うとは思わなかったぜ。どうせ発案者はマリナだろ?」
ユユの言葉にマリナがええ、と頷く。
「私が二人を誘ったの。でも、この辺りに拠点があるって推測だけで、はっきりとした場所まで分かってたわけじゃなかった。まるで、ここまで誰かが導いてくれたみたいで…」
その時、広間に重い足音が響いた。
「……おい、静かにしろ!」
その一言で空気が一瞬にして張り詰めた。ノクティスのボス、ドグマが姿を現したのだ。
巨躯に刻まれた無数の傷跡、荒っぽい声。それだけで広間が静まり返る。
「……ドグマ!」
羨ましいと叫びながら床を転げ回っていたライネルがびくっとして立ち上がる。
「お前ら……ここを酒場か何かと勘違いしてねぇか?」
鋭い眼光で一同を見渡した後、視線をカイルと三人の少女へと向ける。
「なるほどな。教会の聖女、氷の魔女、そして……古代魔術使いのお嬢ちゃん。三人まとめて聖教会を裏切って、ここに来たか。
教会の使いで来た様子でもねぇし、ここまでの通路を開けてはやったが……」
セイラはカイルから離れ、ドグマの前に歩み出る。
「あなたがノクティスのボスですね? 私はカイルのために教会を捨てました! 私にとって何よりも大切なのは、カイルの側にいることなんです!」
グレイスは頬を赤く染めながらも、毅然とした声で言う。
「……私も。カイルがいない教会なんて、ただの牢獄。私はカイルの側で戦いたい。」
マリナは静かに言葉を添える。
「私も同じです。私が一番苦しかった時、私を救ってくれたのはカイル君です。カイル君が教会と戦うなら彼を支えたいんです。」
ドグマはしばらく無言で三人を睨んだ後、豪快に笑った。
「ハハッ!いいじゃねぇか! 信念がある奴は嫌いじゃねぇ。
裏切り者? 上等だ。俺達は教会に抗う意思があるものを拒まねぇ!」
その言葉に、ノクティスの仲間たちが口々に賛同の声を上げた。
「今日からお前らもノクティスだ。覚悟を決めろ。裏切った以上、後戻りはできねぇぞ。」
「はい!」
セイラ達の返事が広間に響く。少女達のノクティスの一員としての日々が始まろうとしていた。




