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第224話 ESCAPE

 イタリアの研究所から飛行機に乗って日本に帰国した無名たち。

 日本も混乱を極めていた。滑走路なんて飛行機で逃げようとした者たちがいるのか。使えない状態になっていた。

 無名たちは蔓の脅威が消えた事を知っているが世界の人々は違う。

 次いつまた金色の蔓が襲撃してくるか分からず外に出る事もままならない。

 御代志研究所の敷地なら、飛行機を着陸させることが出来るはずだ。仮に出来なくとも周囲は田んぼで問題はないだろうと操縦士に伝える。


 約半日のフライトの末に御代志町の上空。離陸する準備に入る。


「やーっと御代志っすか。長かった~」


 憐が背伸びをする。

 来た時とは違い随分と人数は減ってしまった。生きているだけ儲けものだ。

 もしかしたらまだ生きている職員や研究者がいたかもしれない。

 だがそこらへんはイタリアの研究所がどうにかするだろう。

 誰かが生きていたらいつか帰って来るに違いない。


「懐かしい! 御代志の駅だ!!」

「長期休暇の所為で同僚はカンカンだろうな」

「その分、仕事を頑張るよ。解雇されなかったら」


 無名と真弥はそんな会話をする。

 その横で劉子と瑠美奈は眠っていた。連日の緊張感が解けたのだろう。


「何かあれば、研究所が貴方を雇うと思いますよ」


 鬼殻が会話に入って来るが「やめておくよ」と真弥は断る。


「俺は民間人で良いよ。研究者になれるほど賢くもないしさ」

「謙遜しなくて良いでしょう? 仮にも宝玉の力から奪われたものを取り戻した人材ですよ? 研究者と言うより研究の媒体に」

「それ以上言えば本気で殺すことになるぞ、鬼殻」

「おっと……失礼。冗談です」

「本当に最悪な男ですね。見ていて反吐が出る。見たくなくとも貴方のその穢れに満ちた気配は鼻についてしまう」


 不機嫌な声色で累が言った。

 他者に迷惑しかかけないのにどうして生きているのかと辛辣になる。

 その言葉に満面の笑みを浮かべる鬼殻は「貴方に言われたくないですね」と言い返した。


「天使ならば愛のキューピットでもしていたら良いでしょう。ほら、絵画のように裸体になってくださいよ。日本では公然猥褻として逮捕されますから是非投獄されてください」

「そのいい分であるなら、鬼も日本で言えば、裸体であることに変わりないでしょう? 下着一枚で山を駆けまわる汚らわしい害獣です」


 鬼殻と累が言い合いを始める。くだらない口論をする二人を止める者はいない。


(こいつら、喧嘩になると偏差値が下がるな)


 無名は呆れ果てる。こんな二人に世界は滅ぼされかけたのかと思うと何も言えなくなる。



 御代志研究所に離陸すると佐那と周東ブラザーズが出て来る。

 瑠美奈がまだ寝ている劉子を引きずるように外に連れ出す。イタリアで車椅子を手に入れた丹下は一人で飛行機を降りる。


「おかえりなさい。皆さん」


 佐那が今にも泣きだしそうな顔をする。


「ただいま、佐那」


 瑠美奈が言うと「はいっ」と必死に笑みを浮かべる。


「ハンプティとダンプティ、報告」


 憐が欠伸をしながら尋ねる。


「突然、金ぴかの蔓が襲って来たんです!」

「僕たちが研究所を守ってました」

「はい。二人はよく頑張ってくれていました。途中で新生物を襲うようになって焦りましたが、さとるの洞察力で切り抜けることが出来ました」

「旦那は?」

「他の研究所と連携をとっている最中です」


 佐那から最低限の事を聞いて、「そんじゃ俺はホワイト隊の様子を見て来るっすよ」とその場を離れた。

 飛行機から降りて来た無名が佐那に向かって言う。


「佐那、話はあとで……。彼を無効部屋に連れて行く。許可を入れて置いてくれ」

「え、あ……はいっ」


 無名は累を特異能力の効力を無効にする部屋へと連れて行く為に佐那に確認を取る。そうしなければ、累は何か悪い事を企てるかもしれないからだ。

 勿論、そんな兆しはもうないとわかっていても誰も信用していない今の状況ではそう言った処置をとるしかない。


「おーい、無名君。彼女、お前の事を知らないんだからそんな我が物顔で言うなよ」

「え……あっ。悪い」


 いつもの調子で無名は佐那と話をしてしまって佐那は戸惑っていた。


「糸識さんのお知り合いですか?」


 廬を見て言うが、後ろ髪を掻いて苦笑する。


「えっと……佐那ちゃん、その男はA型0号、無名って言うんだ」

「え……A型0号って」

「そう。俺が本物の糸識廬。君と直接話をするのは初めましてだろ? そこにいる男は、俺のガワを借りていた男だよ」

「じゃあ、……えっ」


 佐那が混乱している所を瑠美奈が「あとで、はなすよ」と言った。



 無名の事を説明するには少しだけ難しい事に気が付いた丹下と廬が佐那をなんとか納得させて無名の単独行動が許された。

 累を隔離部屋に入れて、無名は溜息を吐いた。


「お兄様?」

「! 冷夏、ついて来たのか」

「はい。他の連中と一緒には、いたくありませんでした」


 無効部屋は所長の許可と信頼を得ている研究者しか開くことは出来ないようになっている。仮に冷夏が累のいる隔離部屋を知っていたとしても入る事は出来ない。


「そうだったな。皆所長のところ?」

「先ほどの女性が所長であるなら、そうです」


 今頃、無名とは何者なのか説明している頃だろうと行かなければと冷夏と共に歩く。


「ここが、鬼頭瑠美奈様が暮らしていた研究所」

「ああ、周囲は田んぼに囲まれて旧生物とも距離はかなりある。お前も少しは気楽に暮らせるはずだ」

「本当に馴染めるでしょうか。彼らが私を異動させるようなことになったら……」

「仮に異動命令が出ても筥宮研究所か、復興された浜波研究所だ。浜波研究所のやっている事もそこそこヤバかった気がするけど、丹下の事だからきっと戦う為に強くなる方法を探すはずだ」


 特異能力を高め合うという意味では浜波研究所は新生物に良い環境かも知れない事を無名は言う。


「それに、多分、冷夏が異動するのは俺が異動を命じられるからだ。一緒にいるって約束しただろ?」

「っ……はい」


 冷夏は嬉しかったのか顔を赤くして俯いた。体温が上がってしまえば後遺症で溶けていまうのに、それすら愛おしく。兄と一緒にいる現実を実感する。



 所長室にて。

 無名が冷夏と共に所長室に訪れると瑠美奈、鬼殻、丹下、儡がいた。

 この場にいない者で真弥は宝玉の後遺症を残していないか検査に向かい。

 廬は、地下にいるであろう上司になる男に会いに行った。

 劉子は、眠る為に部屋に戻ったか、劉子も真弥と同じように精密検査をしている。

 イムも一時的にでも人に戻った事を伝えているか、客人として扱われているのだろう。

 ルートがどうしているか分からないが、手荒な事はしていない事は確かだ。


「状況を確認する前に、あたしの知っている糸識さんに謝りたいことがあります」

「俺に?」


 無名に謝罪をするという。一体何のことなのか分からずに首を傾げる。


「貴方を裏切り物として本部に連行してしまい、結果として大惨事になってしまい申し訳ありません。あたしにもっと発言の力があれば貴方を本部に連れて行かせるような事態にはならなかった……ごめんなさい」


 所長としての働きは満点と言えるかもしれないが、人としては、短いと言え恋人になってくれた人。信頼に値する人物を疑い、本部に売った。それがどれだけ丹下の差し金だとしても、もっと方法があったのだ。

 今更謝罪したとしても佐那の知る糸識廬と言う男は無名として姿を変えている。薄情で自身を責める。


「悲しいとは思った。だけど、仕方ないって理解してる」




 謝罪を終えて、佐那は事が起こった時から、今に至るまで頭の中で整理をつけながらに口を開いた。そこで間違いがあれば、鬼殻や丹下が訂正をする。


 新生物の廬が研究所本部に連行されて、それを機に新生教会が襲撃してきた。

 それもこれも、かつて無名として新生教会に身を置いていた男を見つける為だった。

 新生教会は計画通り無名をイタリアに連れて行くことに成功。その後、教会の神父である天理累は、鬼殻の抹殺を企てながら新生物の世界を作り出そうとした。

 ヒエラルキートップに新生物が君臨するようにと。そうする事でもう新生物が迫害されることがなくなる事を期待していた。

 しかし、無名を救出する為にやって来た本物の廬と鬼殻の活躍によって計画は破綻。だが、その後鬼殻と累の攻防戦や、冷夏の一時的な特異能力の暴走で氷や金色の蔓が教会、世界へと襲った。

 その最中に、無名が累に洗脳を受けていたことで鬼殻が無名に自身に特異能力を使う事を命じた。その結果、不完全な状態で無名が目を覚ました。

 累の思惑通りに事は動かなかった。累は、特異能力を強引に覚醒させようとして神、直毘神に身も心も掌握されてしまった。


 瑠美奈、鬼殻、そして冷夏の協力によって金色の蔓から影の蔓へと変化させてしまい。旧生物から新生物を襲うようになってしまった。けれどすぐに完全覚醒した無名が直毘神の情報を書き換え累と引き離すことに成功した。

 戦意喪失した冷夏と累、ルートを連れてイタリアから帰国。


 支離滅裂で突飛な話を真に受けることが出来ないが、新生物の存在が突飛であることを踏まえれば不思議な事じゃない。


 冷夏は重罪人であれ、直毘神を倒すことに貢献したことで罪は保留扱いにされた。


「冷夏さんの監視を糸識、いえ……無名さんがすると言う事ですが」

「問題があるなら、改善の策を考えるが」

「反感を買う人は少なからずいる事を承知してくれるなら、問題はないと思う……多分」

「平気だよ。彼、根性あるし、彼女だって他人の意見なんて気にしない。もっとも大好きなお兄様の悪口を言われたら、言った相手は氷漬けに遭うだろうけどね」


 丹下が面白そうに言った。


「正直に言えば、その天理さんの件は永久保留にする事が出来ます」

「どう言う事だ?」

「避難民に伝えているのは、これが最後の厄災であることです。厄災が終了していたと伝えたとして信じてくれる人はいないと思って……」


 細かい事は、後から切った貼ったをしなければならないが民間人に説明するのは厄災と一言言えば十分だと判断した。


 政府本部に連絡を入れて現在状況を確認する。


「何をするにも研究所が独断専行は許されないです。っと言ってもあたしはもう好き放題に言っているので何かするのなら、好きにしてください。責任は全てあたしが取ります」

「わぉ! いつからそんなカッコいい子になったんだい?」


 丹下は驚いた。佐那は波風立てずに過ごすタイプと思っていたが、まさか自分に責任が降りかかる事を受け入れてしまうとは意外だと驚く。


「入野さんは、浜波研究所の所長なので自己責任でお願いします」

「えー! もうないんだけど俺の研究所」

「再建するときいていますが?」

「誰から?」

「鬼殻さんから」


 名前を聞くと丹下は忌々し気に見ると笑みを浮かべた鬼殻が「事実でしょう?」と睨みすら気にせず言った。

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