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第222話 ESCAPE

 冷夏を家の中に導く無名と真弥。そこに広がっているのは、敵対していた新生物たち。

 リビングのテーブルに広げられる。豪華ではないが、満足に食べられる料理。勝手に冷蔵庫を漁って勝手に作り上げた料理の数々。

 キッチンを担当していた者の前半は劉子と瑠美奈が頑張って調理をしていた。けれど人生で一度も料理という分野に触れたことのない二人はてんやわんやとなった。イムが手に負えないと見張っていたのだが結局何かしら焦がした。

 料理なんてした事がない憐では手のつけようがなく、漸く丹下が手を加えて食べられるものになった。

 他の食料も鬼殻が調達してくれたりと、強盗のようなことをしているような気がするが、この街の住民は全滅だと鬼殻は街を見て回った結果を出していた。

 ならば、腐らせてしまう前に食べてしまった方がと結論に至った。


「なんのつもりですか」

「たんじょうびかい」


 戸惑う冷夏に瑠美奈が言う。


「たんじょうび、おめでとう。冷夏」

「誕生日。私の誕生日は今日では……」

「ああ、今日じゃない。だけど教会でしていた誕生日だって本当の誕生日じゃないだろ? 教会の使者だった冷夏はもういない、なんて都合が良いかもしれない。だけど、お前が来てくれるのを俺は信じてた」


 教会で冷夏を強く政府に勧誘しなかったのもきっと自分の所に来てくれると信じていたからだ。来なかったら、来なかったで規定に則り対応するだけだった。


「……」

「仲間とか、友だちとか、今更そんな都合の良いことは言えない。これからも一緒にいる為に、俺はお前ともう一度やりたかった。あの日をやり直したかった」


「サプラーイズ、です……」

「劉子ちゃん、寝ちゃうんだけど。早く食べようよー」


 丹下がうとうとと舟を漕ぐ劉子がテーブルに頭をぶつけないように支えている。


「冷夏、お前が必要だ。俺たちと一緒にいてくれ」


 真弥が冷夏の両肩を掴んで部屋の奥に連れて行く。特等席と言うように飾られた椅子に座らせて「珈琲と紅茶、どっちがいい?」と尋ねて来る。

 狼狽える冷夏を余所に瑠美奈と真弥が甲斐甲斐しく皿に料理を移しては冷夏に味を見て欲しいと提案する。

 少し前まで殺し合いをしていた相手と食事など毒を盛られていると勘ぐってしまう。だが、近くで無名も腰掛けて瑠美奈のおすすめであるパスタを皿に移して躊躇なく口にする。


「少し、しょっぱいな」

「やっぱり! 塩の入れ過ぎだって言ったんすよ!」

「……劉子は知らないです。ニンニク入れたヤローがいるです」

「あれー。それって俺のこと? ニンニクパスタ美味しいじゃん?」

「朝日が拝めると思うなです」

「こわっ……」


 目を覚ました劉子が丹下を睨みながら苦手なものが入っていない料理を口にする。

 その様子を見ながら冷夏は、取り分けられたパスタを口にする。無名の言っていた通り少ししょっぱいが、食べられないほどじゃない。


 居心地が悪いと思っていた矢先「なんだ。私を置いてもう始めているのか」と不機嫌な嗄れ声が聞こえた。そちらを見るとルートが杖を突いて二階から下りて来る。


「ルート。貴方様も生きていたのですか」

「吸血鬼の彼女に命だけは取られなかっただけ」


 少し意外だと目を見開いた。


「お前さんの誕生日をするとかで、私も手を貸したものだ」

「貴方が?」

「なんだ? 意外か? 老齢を侮るなかれ。私とて孫の喜ぶ姿を想像しながら準備をする」

「誰が孫ですか」


 冷夏はルートの孫になった覚えはないと顔を顰める。


 ルートは劉子の慈悲で生かされた。

 特異能力のない新生物は暴走しやすい傾向にある事が分かり、ルートを基準にこれから特異能力を得られなかった新生物について研究に協力する事を条件に生かされている。


 そんなルートは「ほれ、これでも食べると良い」と飴玉を冷夏に渡して来た。


「……はあ。もう調子が狂ってしまうじゃないですか」

「たのしくない?」


 瑠美奈が心配そうな表情をしている。


「ええ、とても……楽しいと思うわけがないでしょう。貴方とは命のやり取りをしていたのですよ? それなのにどうして仲良く食卓を囲っているのですか」


 全く理解出来ないと冷夏は瑠美奈に言う。


「でも、いまは……なかよくできる」

「……少し、お話をしても?」


 席を外して二人で話がしたいと冷夏は言う。瑠美奈は断る事なく頷いた。

 ワイワイと賑やかな家から瑠美奈と冷夏は出る。


 夜風に当たる事で冷夏は少しだけ気が楽になる。


「申し訳ございません。折角私の為に準備したと言うのに」

「だいじょうぶ、だれもきにしてないから」


 この誕生日会を銘打っているだけで皆、空腹で何か食べたいかのんびり騒ぎたいだけだと瑠美奈は知っている。無名の為にわざわざ準備するなど馬鹿らしいと半分は思っているだろう。


「わたしは、あなたをてきだとおもってないよ。ほんとうに、むかえいれたいとおもってる」

「ええ、貴方はそうなのでしょう。貴方のように寛大な方は私を受け入れると仰ってくださる。ですが、それは貴方様だけでなのです。お兄様や貴方様だけが私を受けれる。実際に貴方様たちの研究所などに向かった際に私に向けられる視線は恐怖と理解出来ます。未登録の新生物の末路を私は知っています」

「まつろ?」

「……数年ほど前に、私は遠征でアメリカにある研究所に行きました。勿論、隙があれば襲撃をするつもりでしたが、下見程度で終えてしまいました。それは兎も角、その研究所に赴いた理由は、私たちの仲間。教会に身を置いていた者が見つかってしまい連れて行かれてしまったのです」


 アメリカの研究者に新生教会の信徒が連れ去られた。救出の為に冷夏はアメリカに赴いた。その結果、未登録の新生物の末路を見てしまった。


 台に固定され機械を取り付けられた結果、精神は崩壊して発狂した。

 特異能力が暴走して制御が利かなくなった瞬間、その新生物は脳細胞が死滅した。

 死体は焼却炉に押し込まれて骨すら残されなかった。


「未登録の新生物。一から管理されていない私たちは迫害される未来しか残されていない」

「わたしがそんなことさせない。けんきゅうじょではそんなことしない。やくそくする」

「約束ですか。……私は臆病者です。その言葉すら信用できない」

「なら、もしやぶったら……あなたをきずつけるようなことがあったら、わたしがあなたのみかたになってけんきゅうじょをはかいする」

「貴方が?」

「うん。わたしのいしにはんするから……もうだれもしなせたくない。みんなをたすけたいとおもうから」


 冷夏が信用できないのなら、そんな事が遭ったなら瑠美奈は冷夏の味方となり研究所どころか政府を壊滅させると宣言する。


「みんなにもいうよ。みんながはんたいしても、わたしはじっこうする」

「……それが強者の余裕ですか」

「わがままなだけ……あまやかされたい」


 我儘に生きていきたい。心を殺すことはもうしたくないのだ。


「わたしはたしかに冷夏とちがって、たくさんのものをあたえられてきた。めぐまれているってじかくもある。おにのこだから、ゆるされているところもある。そのきょうぐうをひかんしようなんておもわないよ。ぜんぶ、冷夏のいうとおり……めぐまれているのにそれいじょうをもとめる。それがわたしだから、鬼頭瑠美奈のありかただから」


 だから、冷夏が悲しい思いをしているのなら助けたいとも思う。

 それがかつて殺し合っていた相手だとしてもだ。


「わたしがいちばんきらいなのは、おにいちゃんだけだから」

「……変な人ですね」



 彼女たちの話を密かに聞いていた男が二人。


「相変わらずなのか、随分嫌われてるな? 鬼殻」

「ふふっ。仕方ないでしょう。両親を殺しているのですよ? 私以上に彼女に嫌われることが出来る人物など決して現れないでしょうね」


 クスクスと笑う鬼殻だったが何処か空元気に見えた。

 瑠美奈に何か遭ったら向かおうとしていた鬼殻とそれを止めた無名。

 何事も無さそうだと先に家に戻る。

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