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SF因習村 ~宇宙で遭難したはずなのに、辿り着いたのは謎の因習が残る村でした~  作者: 澤田慎梧


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第五話「早贄」(1)

「お二人とも、もう起きてらっしゃいますか?」


 翌朝。トーマ達はホタルのそんな声と共に目覚めた。気のせいか、どこか慌てた感じだ。


「……おはよう」


 トーマが素早く飛び起き、返事をしながら木戸を開ける。

 現れたホタルの顔面は、蒼白そのものだった。


「何か……あったのか?」

「はい。その、村の入り口で大変なことが。村の皆さんも集まっているので、お二人にも来てほしいと、父が」

「分かった。ってことだ、リカルド。キリキリ起きてくれ」


 未だ寝ぼけ気味だったリカルドを叩き起こしてから、トーマはホタルと共に村の入り口へと向かった。

 遠くに、ざわざわと人々がざわめく音が聞こえる。何か騒動があったことは、想像に難くなかった。


 駆け足気味に村の入口まで辿り着くと、そこは既に黒山の人だかりとなっていた。

 見れば、皆一様に同じ方向を向いている。どうやら、例の「はやにえ」の刺さった巨木の方を見ているらしい。

 トーマとリカルドもつられるようにそちらを見やる。木の梢には、相変わらず例の人形が不格好なブリッジの姿勢で突き刺さっている――が、何かがおかしい。


「あれ……? あの人形、この前見た時と着てるもんが違くねぇか? なあ、リカルド。……リカルド?」


 リカルドからの返事はない。見れば、彼は険しい眼差しを「はやにえ」へと向けていた。眼鏡の弦をしきりに撫でているのは、内蔵された望遠機能を使っているからだろう。

 そして――。


「トーマ、落ち着いて聞いてくれ。あれは()()()()()()

「はぁ? だって、この間は人形だって――」

「だから、君も今言った通り、着ているものも違うだろう? 今あそこに刺さっているのは、前に見たのとは別のモノだよ――本物の、人間の死体だ」

「なっ!? じょ、冗談だろ?」


 相棒の言葉が信じられず、トーマは思わず乾いた笑いを浮かべてしまう。だが、リカルドの眼差しは真剣そのものだ。とても冗談を言っているようには見えなかった。

 ――そこではたと気付く。集まった村人、とりわけ老人達がしきりに何かを口にしていることに。


『お怒りじゃ……オオカミさまがお怒りじゃ……!』


 ブツブツブツと念仏のように、多くの村人がオオカミさまへの畏れの言葉を口にしていたのだ。


「おいおいおい、まさか本当に、オオカミさまとやらのバチが当たったってのか? そもそも、あそこに突き刺さってんのは誰なんだ?」


 流石のトーマも気圧されたのか、少し後ずさりながら誰ともなく尋ねる。

 すると――。


「あれは()()()()()()、お客人」


 背後から答えが返ってきた。見れば、いつの間にやら村長がそこに立っていた。

 普段から寄っている眉間のしわが、今は更に深く刻まれている。


「ゴ、ゴサクさん!? あれは、ゴサクさんなんですか?」

「ええ、残念ながら。先程、目の良い人間に確認させました」

「トーマ。村長の言う通り、あれは間違いなくゴサクさんだ」


 すかさずリカルドが村長の言葉を追認する。

 昨晩一緒に酒を酌み交わした相手が、今はあんな無残な姿をさらしている。とても信じたくない事実だが、最早否定出来るものではなかった。


「は、早く下ろしてやんなきゃ!」

「どうやってだい? トーマ」

「どうやってって。クレーンか何かを使えば」

「お客人、残念ながらこの島に重機の類は存在せんのだよ。宇宙港にならあるが、こちらまではとても届かん」

「あっ……ん? じゃあ、例の人形はどうやってあそこに刺したり、回収したりしてたんだ?」


 そう。つい昨日までは同じ場所に、マンタ自慢の「死体人形」が突き刺さっていたはずなのだ。そして、「はやにえ」代わりの人形は、以前から行われている風習だという。

 ならば、木の突端に人形を突き刺し、また回収する方法はあるはずなのだ。

 だが――。


「ト、トーマさん……オイラの人形は見た目ほど重くないんすよ。子どもより軽いくらいだ。難儀はするけど、背に抱えて木さ登るくらいは、なんとか出来る。んだども、大の大人さ抱えて木のてっぺんまで登れって言われたら、とても無理っす」


 人ごみの中からマンタの控えめな声が聞こえた。見れば、トウリの傍らで小さくなって震えていた。

 ご自慢の「死体人形」が、一夜にして本物の死体に化けてしまったのだ。気が気ではないのだろう。もしかすると、既に他の村人から「犯人」と疑われた後なのかもしれない。


「トーマ。どちらにせよ、遠目にも死後硬直が始まっている。木の上に登ったとしても、あの遺体を引き抜いて回収するのは、難しいと思うよ――人間業じゃ、ね。村長、よろしければ僕らの船を使って回収出来ますが?」

「いや……それは最終手段とさせて頂きたい。これ以上、村の禁を破れば、更なるお怒りを買うかもしれん」

「お怒り……? 一体誰の?」


 どこか詰問するような口調でリカルドが尋ねる。

 村長は意に介した風もなく、静かにその答えを口にした。


「決まっているでしょう。()()()()()()()()()。ゴサクをああしたのも、オオカミさまに違いない」


   ***


 ゴサクの家族の話によれば、彼は昨晩遅くに誰にも告げずに家を出たのだという。

 愛用の弓矢一式も見当たらず、どうやら狩りに出かけたらしい。

 ――狩りを行う際には村長からの指示や許可が必要だ。だが、村長はそんな指示は全く出していない。つまりゴサクは、無断で狩りに出たということになる。


「話はそれだけに留まりません。実は、宇宙港と行き来する為の舟が、今朝から見付からないのですよ。恐らく、ゴサクが使ったのでしょう」

「舟を? ということは、ゴサクさんは湖を渡った、ということですか?」

「恐らくは」


 リカルドの言葉に頷くと、村長は村人達の注目を集めるように手を二度叩き、おもむろに口を開いた。


「聞け、皆の衆! どうやらゴサクは禁を破って、対岸へと狩りに向かったらしい! その結果がこれだ! オオカミさまは常に我々を見ていらっしゃる。そして、掟を破った者には容赦などしない! ゴサクの死を戒めとして、今一度気を引き締めてもらいたい……以上だ」


 よく通るバリトンボイスが村に響き渡り、誰もが俯き無言になった。

 オオカミさまへの畏れを口にしていた老人達も口を紡ぎ、今は大地に平伏するように項垂れている。

 天を見上げているのは、気の毒な死体となったゴサクのみだ。


 そのまま、村人達は一人、また一人とその場を後にし始めた。

 ゴサクをそのままにしていくことに後ろ髪引かれるのか、村人達の動きは緩慢で、トーマはまるでゾンビの群れを眺めているような気分になった――。


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