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SF因習村 ~宇宙で遭難したはずなのに、辿り着いたのは謎の因習が残る村でした~  作者: 澤田慎梧


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第四話「祟り」(1)

 翌朝、トーマとリカルドの目覚めは爽快そのものだった。

 飲み慣れぬ酒をしこたま浴びたので二日酔いが心配だったが、どうやら無事に体内ナノマシンが解毒してくれたらしい。

 どちらかと言えば、硬い布団のせいで体中が痛いのが困りものだった。村の中でも上等な布団を用意してくれたようだが、そこは宇宙時代の快適ベッドに軍配が上がった。

 と――。


「おはようございます。もう、起きてらっしゃいますか?」


 二人の目覚めを見計らったかのように木戸が叩かれ、ホタルが声をかけてきた。

 もしや、二人が起きた気配があるまで木戸の前で待っていたのだろうか。


「おはようホタルさん!」


 昨日の今日ですっかり仲良くなったのか、トーマが気安い雰囲気で答える。

 朴念仁の相棒にもようやく春が来たか、等とリカルドが苦笑していると、木戸が開きホタルが姿を現した。

 が、一人ではない。彼女の傍らには、十歳くらいの男の子が立っていた。酷く痩せた色白の少年である。


「ホタルさん、そっちの子は?」


 何気なく尋ねたトーマに対し、少年が少し怯えたような表情を見せる。どうやら人見知りらしい。


「私の弟で、モモトと申します。ほら、トーマさんとリカルドさんにご挨拶を」

「……モモト、です」


 少年――モモトが消え入りそうな声で挨拶する。精悍な印象のある村長とは似ても似つかない。目鼻立ちにホタルの面影があるので、もしかすると二人とも母親似なのかもしれなかった。


「弟は宇宙の生活に興味があるらしくて……もしよろしければ、お二人にお話を聞ければと」

「もちろん、かまいませんよ! リカルドもいいだろ?」

「僕もかまわないけど、ほら、村長からの頼まれごともあるから」

「頼まれごと?」

「村の人達を診て回るってやつさ」

「あー」


 どうやらトーマは、酒を飲んでひと眠りしたら忘れてしまっていたらしい。困った相棒だった。


「ホタルさん、村の人達の診察は、早速今日からでも回っていきたいんだけど」

「それでしたら、私がリカルドさんをご案内しますね。トーマさん、申し訳ありませんが弟のことをお願いしても?」

「もちろんです!」


 トーマが鼻息を荒くしながら答える。そこに、ホタルと一緒にいられないことを残念に思う影はない。

 こういうところは、この青年の数ある美徳の一つだった。


   ***


 トーマを残して、リカルドはホタルの案内のもと、村へと下っていった。ちなみに、ナビも一緒だ。

 昨日は気付かなかったが、村長宅から村の方に向かって電線が伸びている。恐らくは送電線だろう。ホタルの話では、電気は照明くらいにしか使っていないらしいが、それでもほぼ全戸に行き届いているのだという。

 リカルドが驚いたことは他にもあった。この村には電気だけでなく、上下水道も通っているらしい。かなり原始的かつ簡易的な水道ではあるが、これもほぼ各戸に整備されているそうだ。


(上水はともかく、下水はどうやって処理しているんだろう?)


 まさか湖に垂れ流しという訳ではないはずだが、宇宙港まで下水管が通っている様子もない。となると、残る可能性は――。


「リカルドさん? どうかしましたか」

「ああいや、この村は清潔に保たれているなと、感心していたんですよ」

「そうなんですか? 私はここしか知りませんから、よくは分からないのですが」

「ええ。自然主義の村と言うのは地球にもありますが、文明の殆どを否定しているせいで、衛生状態が悪く環境への悪影響も強い場合があるんです。でも、この村は違う」


 実際、リカルドは「自然派」の人々が運営する村へ往診に行ったことがあるが、それは酷い有様だった。

 自然分解を称する、ただ垂れ流しの便所。

 化学農薬を使わないせいで、虫による食害や病気が蔓延した畑。

 井戸水や川の水に頼っている為に、飲用水は不潔そのもの。

 それで取り返しのつかないくらいに健康を害してから医者に頼ってくるのだから、たまったものではなかった。


 しかし、この村は違う。

 衛生状態の悪い集落に特有の悪臭は感じられないし、何か質の悪い感染症が蔓延しているようにも見えない。

 原始的な見た目に反して、衛生管理が行き届いている証拠だった。


 その後、リカルドはホタルの案内の元、各戸を回って簡単な診察をこなしていった。

 幸いなことに、大きな病気や感染症の気配はなく、リカルドはほっと胸をなでおろした。

 だがやはり、栄養状態はすこぶる悪い。特に動物性たんぱく質が足りていない印象だ。

 それと、気になることもあった。


(……この村、子どもの数が極端に少ないね? やれやれ)


   ***


「おう、おかえり」


 夕方。往診を終えて離れに戻ると、トーマが上機嫌といった感じで出迎えた。

 彼の前にはモモトと、更にもう一人見知らぬ少女がいた。モモトと同い年くらいの、おかっぱ頭の女の子だ。


「トーマ、そちらは?」

「おう、モモトのダチでヒャッカって言うんだよ。ほらヒャッカ、こいつが相棒のリカルドだよ」

「は、はじめまして! わぁ……本当に髪の毛が金色なんですね!」


 金髪が珍しいのか、ヒャッカがその大きな瞳をか輝かせてリカルドを見上げる。

 新鮮な反応で、なんだか気恥ずかしかった。


「あらあら、ヒャッカまで。トーマさんに宇宙のお話を聞いていたの?」

「うん! モモトくんと一緒に、いっぱい! いーっぱい! お話してもらったの!」


 病弱そうで大人しいモモトとは対照的に、ヒャッカは身振り手振りも大きく、元気そのものと言った感じだ。

 だがその一方で、やはり栄養状態が悪いようにリカルドには見受けられた。村で見かけた子ども達と同じだ。


「あのねあのね! 宇宙には、まるっきり水しかないお星さまもあるんだって!」

「まあ、そんな星があるのね。今度お姉ちゃんにも教えてね? ……さあさあ、ヒャッカ。もう夕方だからおうちに帰りましょうね。お話はまた今度」


 ホタルが空を指さしながらヒャッカの頭をなでる。

 空は相変わらずの薄曇りだが、その色は橙と紫の中間のような、何とも言えない夕暮れの色に変わっていた。


「は~い。モモトくん、トーマおにいちゃん、またね~」


 元気よく走り去るヒャッカを見送ると、ホタルとモモトの姉弟も母屋へと戻っていった。

 後にはトーマとリカルド、ナビだけが残される。


「――さて。リカルド、何か気になることはあったか?」

「この村が清潔だってことくらいかな? あと、子どもの数がやけに少ないね。モモトとヒャッカを含めても一桁だと思う」

「なるほど? ……ナビ、船の方はどうだ?」

『既に宇宙港のシステムからマテリアル・キューブを受領し、修理に入っています』

「オッケー。修理に必要な期間は?」

『順調にいけば、二週間ほどで完了します』

「二週間、か……」


 急ぐ旅ではない。各所への連絡もナビがやってくれたらしいので、問題もない。

 だが――。


「『ホタルさんとは、あと二週間しか一緒にいられないのか~』かい?」

「茶化すなよリカルド」


 トーマは頬を染めながら抗議したが、リカルドはニコニコと笑うばかりだった。



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