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SF因習村 ~宇宙で遭難したはずなのに、辿り着いたのは謎の因習が残る村でした~  作者: 澤田慎梧


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第二話「寒村」(2)

 宇宙港のある小島から大神村のある大島までの移動方法は、驚くべきことに木製の小舟だった。船尾に年季の入った櫂が括りつけられており、動力はそれしかないらしい。


「お客人、何やらバタバタしているようだが、大丈夫かね?」

「あ、すんません。その、ちょっとうちの船のAIがですね――」


 トーマが言い訳しかけた、その時。彼らの背後に、霧の中から小さな影が姿を現した。

 四足歩行のしなやかな小動物――猫だった。

 白黒のハチワレ猫が、ひょっこりと歩いてきたのだ。


「お客人……生物の無断持ち込みは銀河連邦法で禁止されているのでは?」

「ち、違うぞ村長! 俺もこんな猫は知らない!」


 渋面を作る村長に、慌てて言い訳をするトーマ。

 だが次の瞬間、その場にいた全員が一様に言葉を失った。


『失礼。私です、私』


 ハチワレ猫が流暢な共通語を操って見せたのだ。


   ***


「――ったく。お前ならお前と、先に言ってくれよ、ナビ」

『申し訳ございません』


 ハチワレ猫――に擬態したナビの移動端末がペコリと頭を下げる。

 とても愛らしい仕草だったが、中身がナビなので、トーマには愛嬌の欠片も感じられなかった。


「ナビ殿。村の中で言葉を話すのはやめていただきたいのだが」

『心得ております、村長。この四人以外の前では、見事に猫を演じ切って見せましょう』


 見本を見せるかのように、ナビが「にゃ~お」と可愛い声で鳴いてみせる。

 ホタルは早速ナビが気に入ったのか、その頭を優しく撫でていた。


 『村人に文明の利器をみだりに見せない為に機械の持ち込みを制限するのなら、生き物に擬態すれば問題ないでしょう』というのが、ナビの考えだった。そこでナビは、大神村にも数匹ほど生息する猫に擬態した、という訳だ。

 ちなみに、猫の生息情報は宇宙港の管理AIから得た情報らしい。AI同士、密な連携をしているようだ。

 虚をつかれたのか、それとも許容範囲だったのか、村長も渋々といった感じでナビの入村を了承していた。


 今、彼らは湖上の人となっていた。

 村長がギコギコと櫂を漕ぐと、小舟が滑るように湖面を進んでいく。周囲は相変わらずの霧で様子は窺えない。

 日の光さえも遮られているのか、はたまた透明度が低いのか、水面下の様子も全く見て取れなかった。


「お客人。あまり身を乗り出して水面を眺めていると、落ちますぞ」

「――っと、これは失礼。天然の湖なんて、久しぶりだったもので。どんな生き物が棲んでいるのか、気になりましてね」


 興味深そうに水面を眺めていたリカルドが、村長の言葉に顔を上げる。

 医者であり、生物学もかじるリカルドとしては、未開の惑星の原生生物に興味津々だったのだ。

 だが――。


「この湖は、《《オオカミさま》》の縄張りだ。生き物は殆どいないし、万が一水の中に落ちれば、命の保証は出来かねる。気を付けていただきたい」

「オオカミさま……? なんですか、それは」

「……後でお話ししましょう」


 それっきり村長は口を噤んでしまった。

 リカルドは助けを求めるようにホタルの方を見やったが、彼女はたおやかに笑うばかりで何も答えてはくれなかった。

 そのまま、しばらくの間、舟の上を沈黙と櫂のきしむ音だけが支配した。


 それから数分が経った頃だろうか。不意に霧が薄くなり、舟の向かう先に大きな影が見え始めた。

 陸地だ。


「ほら、トーマさん、リカルドさん。村が見えてきましたよ」


 ホタルが行く先を指さす。すると、薄くなっていた霧がさあっと晴れ、村の全貌が一気に姿を現した。

 大神村の在る「大島」は、島全体が一つの山になっているような島だった。

 島全体は深い緑に覆われており、森が聳え立っているような印象だ。

 湖岸の桟橋の前には大きな石の鳥居が立っていて、その先には広い道が切り開かれ、その両端にぽつぽつと粗末な木造の家が軒を連ねている。


 道はそのまま斜面を進み、しばらく登ると今度は蛇行を始め縫うように伸びていっている。

 その先には、おそらく段々畑だろうか、素朴な石積みと木々ではない緑が見て取れた。

 段々畑より上の方にも幾つかの住宅があり、その更に先は山林のみが広がっているようだった。


「はあ~。なんて言うか、古い映画の中でしか観たことねー村だな」

「映画? 映画と言うと、あのフィルムを映写機で投影して観るものですか?」


 トーマの独り言に、すかさずホタルが反応する。物静かな雰囲気があったが、どうやら饒舌な方らしい。


「映写機……? ああ、地球時代のプロジェクターか。機械は禁止なのに、映画はいいのか?」

「全ての機械が禁止という訳ではないんです。私達の暮らしは、地球時代の二十世紀頃をモデルにしているので」

「二十世紀……第二次世界大戦辺りだっけ?」

「ええ。その頃の、極東の島国の山村の暮らしを再現しているのだとか」


 なるほど、とトーマは思う。

 確かに、遠目に見える家々は、その頃を舞台にした古い映画に登場するものとよく似ている。

 「極東の島国」というのは、日本のことだろう。村長とホタルが着物に身を包んでいるのも、それ故かと納得した。


「お客人、舟を桟橋に寄せる。少し揺れるから、気を付けてくれ」

「おっと、いつの間に」


 気付けば、小舟は既に桟橋へと接舷しようとしていた。

 村長は櫂を器用に操ると、小舟を桟橋にピタリと寄せて停止させた。揺れはしたが、本当に少しだった。

 そのまま、村長がひらりと桟橋に飛び移り、係留ロープで小舟を固定する。ホタルも意外な身軽さで桟橋に飛び移ったので、トーマとリカルドもそれに続いた。

 ――そして、改めて村の方を見やった。


 あれだけ濃く漂っていた霧が、不思議なことに村の中には殆ど見受けられない。視界は良好そのものだった。

 空は雲で覆われているが日の光は十分に差し込んでいて、薄暗いこともない。

 湖上から見えた石の鳥居は思ったよりも巨大で、重機を使わずに建てたのなら大したものだった。


 鳥居の向こうには、村を貫く広い道が切り開かれているが、その両側は鬱蒼とした森になっている。

 枝葉の形から推測するに、原生植物ではなく地球から持ち込まれた常緑樹のようだ。

 豊かな緑をたたえ、天高く伸びて――。


「お、おい。……おいおいおい! あれは……あれは、なんだ!?」


 鳥居の近くに聳える一際立派な巨木。その幹を舐めるように視線を上げたトーマの目に、信じられないものが映っていた。

 巨木の先端、鋭く伸びた梢に、何か大きなものが突き刺さっていた。


 だらんと伸びた手足。

 干からびた頭。

 腹を梢に刺し貫かれ、不格好なブリッジをしたソレは、明らかに人間の死体だった。


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