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SF因習村 ~宇宙で遭難したはずなのに、辿り着いたのは謎の因習が残る村でした~  作者: 澤田慎梧


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第十六話「覆水」(1)

 ロスロボスは開拓団の長達の提案を了承し、「共犯関係」が始まった。


 惑星の一画に人工湖と島を造り上げ、人類の居住区――否、「飼育箱」とし、霧の結界で閉ざし原生生物が入り込まぬようにした。決して泳げぬ湖も、人類と原生生物の交わりを防ぐ為だ。

 外部にはあくまでも人類による入植であると印象付ける為に、形ばかりの宇宙港を小島に建設した。


 一般の開拓団員にも「飼育」の件は秘匿された。

 ロスロボスは、あくまでも人道的な理由で大神村の建設を手伝ったことになり、いつしか「オオカミさま」と呼ばれ尊敬を集めるようになった。

 その一方で、長達とロスロボスは真実を知る「飼育小屋の管理人」が必要だと考えた。

 表向きは人類の代表として、その裏ではロスロボスの意志を伝える者として、村の地下に埋設された開拓船の管理権を持つ一族が選定された。それが村長一族の始まりである――。


「するってぇと、何か? 俺達はオオカミさまに飼われてたって訳か? 犬ッコロに? 人間様が!?」


 トウリが吐き捨てるように叫ぶ。恐らく、少なくない数の村人も同じ気持ちだろう。

 貧しいながらも、自分達の力で地道に生きてきたと思っていた。けれども、それは全てロスロボス――オオカミさまの掌の上での出来事だったのだという。そんな事実は信じたくなかった。


「そもそも! オオカミさま達は、人間を飼って何がしたかったんだよ!?」

「……彼らは、その身一つで惑星間を移動出来る力を持ちながらも、この惑星から版図を広げる意志を持たなかった。それ故に、人類との講和後も銀河連邦には積極的に参加せず、この惑星に引きこもったのだ。――だが、ある時、彼らの中に危機感が生まれた」

「危機感?」

「ああ。人類の進歩は速い。そしてその欲望には際限がない。かつては勝利したが、もしまた人類がロスロボスに牙を剥いた場合は、どうなるか分からない。――何せ、ロスロボスの生体情報を参考に、新しい技術を開発してしまう程だからな」


 村長が、チラリとトーマ達の方を見やる。

 先ほどリカルドが言った通り、マルチプル・スーツもエナジージェムも、更にはナノマシンまでも、ロスロボスの生体情報からのフィードバックを基に開発あるいは改良されたものなのだ。

 人類側がロスロボスの生体を念入りに研究していることは間違いない。ロスロボスが危機感を覚えるのは、当然の帰結と言える。


「耳の痛い話だね。監察官である僕でさえ、ロスロボスの存在を知らなかったんだ。銀河連邦の内部に、秘密裏にロスロボスを滅ぼそうと画策してる連中がいても、決しておかしくはないね」 


 やれやれと、リカルドがどこか他人事のように呟く。

 開示された情報によれば、ロスロボスは小型の個体でも宇宙戦闘機並みの攻撃力と機動力を持ち、大型の個体ともなれば大型宇宙戦艦を超える戦闘力を持つらしい。

 もしそんな存在が本気で人類に牙を剥けば……そう考える人々がいてもおかしくはないのだ。


「村長。もしや、たまにこの村へ来る二人組の商人の取引相手は、村長ではないのでは?」

「――私からは、何も言えないとだけお答えしよう」


 村長はリカルドの言葉を否定も肯定もしなかった。

 それで、リカルドも確信を得た。恐らく、その商人の真の取引相手はオオカミさま――ロスロボスなのだろう。

 取り引きしていたのは情報――銀河連邦の持つ最新の技術やその政治情勢に違いない。まともな商人ではないだろう。


「それともう一つ。村長、先程の貴方の足の速さは尋常じゃなかった。もしかしなくても、貴方は肉体強化型ナノマシンの移植を受けていますね?」

「……その通りだ」


 村長の言葉に、トウリのようにナノマシンの知識を持つ村人達の間にざわめきが広がる。

 他の村人への移植を禁止しておいて村長だけ施術を受けていたのなら、これもまたとんでもない裏切り行為だ。

 だが――。


「なるほど。村長一族が()()()()()()()()()()()()()()()という訳ですね」


 リカルドの次の言葉に、誰もが首を傾げた。

 一人だけナノマシンの恩恵を受けておきながら、「その身を犠牲にした」とはどういうことだろう、と。


「お、おいリカルド。俺達にも分かるように話してくれよ。なんでナノマシンを移植していたことが『犠牲』になるんだ?」


 トーマがその場を代表するように質問をぶつける。

 どうやら、彼も村人と同じく、相棒の先走りに置いてけぼりのようだ。

 そんな相棒の様子に、リカルドは「おっと失礼」とおどけるようにウインクしてみせた。


「トーマも覚えているだろう? 村長の一族は、『遥か昔にオオカミさまから力を分け与えられた』って話」

「ああ、前に聞いたな。それがどうした? ただの言い伝えだろ」

「トーマ、オオカミさまもロスロボスとして実在したんだよ。だったら、その言い伝えも事実だったと考えられないかい?」

「言い伝えが事実? つまり、どういうことだ」

「だからさあ、ナノマシンやマルチプル・スーツ、エナジージェムがオオカミさまの生体情報からのフィードバックから開発・改良されたものなら、その逆もまた然りってことさ。彼らは人類の技術を取り込もうとしたんじゃないかな。その為の()()()が――」


 リカルドが村長を、ホタルを、そしてトウリ達村人を順繰りに眺めていく。

 その視線の意味を理解した者は、果たしてその場に何人いたのか。少なくとも、トーマとトウリだけは正しく理解してしまった。


「……リカルド殿の慧眼(けいがん)には恐れ入るな。そうだ、私の体に移植されたナノマシンには、オオカミさまの因子が加えられている」


 ――ザワッと、村長の身体から風が吹き荒れたような感覚があった。


「恐らく、銀河連邦下に存在するどの肉体強化型よりも強力なものだ。そして、オオカミさま方は、私の肉体から得られた情報をもって、自己進化を目論んでおられるのだ」

「目論んでいる、ということは、まだ成功していない感じかな?」

「どうかな? 大神村が生まれてから既に数百年は経つ。既に何度もの『バージョンアップ』を終えているだろうさ。だがな――」


 村長は一瞬だけ皮肉めいた笑顔を浮かべ、しかしすぐに真剣な表情をリカルドに向けた。


「オオカミさまは、決して銀河連邦と事を構えようなどとは思っていない。あくまでも自衛の為だ。これだけは信じてほしい」

「……そりゃあね、信じるしかないでしょう。じゃなきゃ、ロスロボスの皆さんが、惑星の秘密を知った僕らを生きて返してはくれないだろうからね」


 チラリと、鳥居の辺りから村の様子を監視する巨大狼の群れを見やりながら、リカルドが漏らす。

 リカルドが銀河連邦の監察官だということは、村長を通じて彼らにも知られているはずだ。もし、村長が明かした話が彼らにとって知られたくないものなら、とうの昔にリカルドとトーマは処分されている。


(もしかすると、彼らなりの連邦への牽制なのかもね。それが裏目に出なければいいけど)


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