表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF因習村 ~宇宙で遭難したはずなのに、辿り着いたのは謎の因習が残る村でした~  作者: 澤田慎梧


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/25

第十六話「覆水」(2)

「――村を閉ざし非文明的な生活を遅らせたのは、村の始祖達が望んだ『自然派』の生活を目指したことが一つ。もう一つは、オオカミさまが人間のより原始的(プリミティブ)な生態を研究したがった為だ」

「村の厳しい掟も、その一環ですか?」

「ああ。外の獣を狩ってはいけないというのは、オオカミさまからの要請だがな。彼らにとって、惑星の生態系そのものが種族の一部なのだ。――飼い犬が手を噛んでも多少ならば許すが、血が出るほどならば罰を与える。つまりは、そういうことだ」


 全てを語り終えたのか、村長が長い息を吐いた。

 気のせいか、その顔はげっそりとやつれ、数歳程老けたようにも見える。


 村人達の反応は様々だった。

 トウリのように、理不尽な自分達の生に納得がいかない者。

 オバちゃんのように全てを受け止め、達観の表情を見せる者。

 未だ戸惑いを隠せない者も、話をよく理解出来なかった者もいる。


「――約束の三時間まではまだ猶予があるが、リカルド殿とトーマ殿は早々に退去された方が良い。オオカミさまの気が変わらぬとも限らんしな。ホタル、トウリ。今頃は桟橋に舟が戻ってきているはずだ。二人を送って差し上げろ」

「な、なんで俺が!? 俺はまだ村長に言いたいことが――」

「トウリ兄さん!」


 村長の言いつけなど聞けぬとばかりに歯向かおうとするトウリを、ホタルがすかさず窘める。

 見れば、年配の村人達は今にもトウリに飛び掛かり縛り上げ、オオカミさまへの生贄に捧げんばかりの形相だ。

 ――もちろん、オオカミさまは平等に贄を選ぶと宣言したのだから、それが通るはずもないのだが。

 村長は、そんな彼らとトウリを遠ざけようとしているのだ。


「……分かったよ。でもよ、舟が戻ってきてるって、なんで分かるんだ?」

「あれはただの木製の舟ではない。湖を唯一渡ることが出来る特別性だ。オオカミさまのご加護により、漂流しても自動的に桟橋に戻るようになっている」

「道理でマンタが死んだ時、都合よく舟が戻ってきてたはずだぜ――なあ、村長。アンタ、本当にマンタとゴサクさんを殺しちゃいないんだよな?」

「無論だ。マンタはリカルド殿の推測通り、舟を手繰り寄せようとして湖に落ちたのだろう。……あの子は、一人で頑張ろうとする子だったからな」


 マンタを偲ぶように、村長が空を見上げた。

 大神村の上空はいつものような薄曇りではなく、青空が覗いている。オオカミさまが「霧の結界」を一時的に解いた為だ。

 そのせいか、見知らぬ生物が村の上を飛んでいた。鳥にも似ているが足が四本ある。この惑星の原生生物だろう。


「もう一つ。ゴサクさんの遺体が木の上から舟の上に移動したのは?」

「私にも詳細は分からん。だが、ゴサクがいい加減哀れだったので、遺体を我々のもとに戻してくれと、私からオオカミさまに上申はした。マンタの人形も出来れば返してやってくれ、とな」

「へぇ。返してくれただけにしちゃ、えらい演出だったがなぁ」

「オオカミさまの思考は人間と全く同一ではない。ゴサクの遺体を舟に乗せたのは、あやつが舟で対岸に渡っていったから、帰りも舟に乗せてやった……恐らくそんなところだろう。マンタの人形も、まさか木の上に戻してくれるとまでは、予想がつかなかったさ」


 村長が思わず苦笑いを浮かべる。

 オオカミさまの気まぐれで、古のミステリ小説のような奇怪な現場が生まれてしまったのだ。当時の村長の心中はいかばかりか。


「……真実てな、案外と拍子抜けなんだな。まあ、いいさ。――また後でな、村長。さあ、トーマさん、リカルドさん、行こうぜ」


 そのまま、トウリは振り向きもせず桟橋の方へと歩き出した。

 仕方なく、リカルド達もそれに続く。背後では、一部の村人達が殺気立っていたようだが、村長が諫める気配があった。


 長く不毛な「親子喧嘩」は、こうして終わりを告げた。


   ***


「ひょえ~! これがトーマさん達の宇宙船か!」

「ああ。フランシス・ドラケ号。最少乗員二名の小型航宙船さ」

「かっけぇな~! こんな乗り物で宇宙を旅出来たら、きっと楽しいだろうなぁ」


 ――霧が晴れている為、宇宙港への船旅はあっという間だった。

 今は、ロスロボス宇宙港の発着場からも大神村の姿がよく見える。鳥居の前に陣取るオオカミさま達の姿さえも、くっきり。


「ははっ、トウリならいつでも大歓迎だぜ?」

「本当かよトーマさん。へへ、その言葉、忘れないぜ」


 互いの拳と拳をぶつけ笑いあうトーマとトウリ。

 名前も性格も、どこか似ている二人だからこそ、馬が合った。一緒に宇宙へ出れば、きっと楽しい旅路が待っているだろう。

 だが――。


『村人の惑星外への退去は認められない』

「うっせーな! 分かってるっての……ったく。オオカミさまってのは、冗談も通じないのかよ」


 野暮なツッコミを入れた「ソレ」にトウリが悪態をつく。

 今、彼の傍らには三メートル程の大きさのオオカミさま――ロスロボスの個体が控えていた。監視役である。

 トーマ達が余計なことをしないか、無断で村人を連れ出さないか、見張りに来たのだ。


『シンイチの娘よ。お前は特に許可出来ん。我々も人間の恋愛感情を理解しないではないが……』

「お気遣いありがとうございます、オオカミさま。――ということで、トーマさん、リカルドさん。これでお別れです」

「ホタルさん……」


 ホタルがいつもの着物姿でペコリとお辞儀をする。

 トレードマークである赤いリボンが小刻みに揺れているのは、頭を下げたからではないだろう。


「あの、トーマさん。最後に……握手をしてもらってもいいですか? 私、最初にお会いした時、握手という習慣をよく理解していなくて……」

「もちろん。お安い御用ですよ」


 トーマがスッと手を差し出す。

 ホタルがその手を優しく握る。

 ――温かい。ホタルの白魚のような手は、とても温かかった。


 そのまま、永遠のような数十秒が過ぎ、二人の手は離れ離れになった。


「それでは、トーマさん、リカルドさん、お元気で。お二人のこと、きっと忘れません」

「じゃあな、お二人さん! ……短い間だったけど、俺の人生の中で一番騒がしい時間だったぜ!」

「ホタルさん……ずっと、君のことを忘れない! 絶対に! トウリも、どうか……どうか……」

「ほら、トーマ。最後なんだから湿っぽくしない! 二人とも、元気でね――またいつか、銀河のどこかで巡り合えると信じているよ――主のご加護を」


 名残惜しさを断ち切るように、リカルドが祈りの言葉と共に十字を切った――その時。


『エマージェンシー! エマージェンシー! 大気圏外に複数の未確認飛行物体を確認! 管制塔の指示を受け付けません! 惑星管理者は直ちに対応を開始してください。繰り返します、大気圏外に複数の未確認飛行物体を確認――』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ