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SF因習村 ~宇宙で遭難したはずなのに、辿り着いたのは謎の因習が残る村でした~  作者: 澤田慎梧


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第十四話「大神」

「な、なんだぁ!?」


 その水柱は、山の中腹にある村長の家からでもはっきり見えた。

 目測にして十数メートルの高さだ。明らかに人力によるものではない。


「間欠泉……? いや、まさか湖底に火山口が?」

「……この地に火山はない。あれは、もっと別のモノだ」


 リカルドの言葉を、村長がすかさず否定する。

 その口ぶりは、水柱の正体を知っている風であった。

 巻き上げられた大量の水が豪雨のように村へ降り注いでいく。その間にも水柱は段々と勢いを失っていったのだが――。


「……おい。水が吹きあげた所に、なにかいるぞ」


 トウリが指さす先――水しぶきが上下に交差する只中に、「それ」は居た。

 と言っても、はっきりとした形は見えない。水しぶきが、巨大で透明な「それ」を避けるようにして、その姿を浮かび上がらせているのだ。

 「それ」は湖上からゆっくりと大島の方へと近付いているように見えた。


「――いかん!」

「あっ、待てよ村長!」


 村長が我に返ったように叫び、駆け出す。

 すかさずトウリが追いかけようとするが――速い。村へと至る坂道を疾風のように駆け下りていく。トウリは全く追い付けず、村長はあっという間に姿を消した。


「おい、リカルド。村長のあの速さ……」

「ああ。人間業じゃないね。ともかく、僕らも村の方へ向かおう。……トウリとホタルさんは、ここに残った方がいい」

「じょ、冗談じゃないぞ! 俺も行く」

「私も参ります。村長の娘として、何が起こっているのかを見届ける義務があります」


 四人は静かに頷き合うと、村長の後を追った。


   ***


 村は静かな混乱の只中にあった。

 突如、湖から上がった水柱。そして、その中から現れた巨大で不可視な「何か」。人々はそれらをあんぐりと大口を開けて見上げ、逃げることも忘れていた。  


「何をしている! 早く家の中へ避難するんだ!」


 トーマ達が村長に追い付いた時、彼は村の只中で必死に避難を呼びかけていた。

 だが、村人達は誰も動こうとしない。湖からゆっくりと上陸しようとする「何か」への畏れか、自分に二本の足があることも忘れたかのように、動こうとしない。


「やっと追い付いた……。村長、あれは一体何なんだ?」

「トーマ殿、リカルド殿。ホタルとトウリも来てしまったか。四人とも、どこか屋内に避難しなさい」

「だからぁ! あれは何なんだよ!」


 村長の、答えにもなっていない答えにトウリが激昂した、まさにその時。


 ――ァァァァアアアアアッ!


 どこからか、人の叫び声のようなものが響いてきた。

 しかも段々と大きくなっている。だが、きょろきょろと辺りを見回しても音の主は見当たらない。

 だが。


「上だ!」


 いち早くトーマが叫び、四人も空を見上げる。

 ――少し遠くの空、ちょうど鳥居の上空辺りに、()()()はいた。

 遥か上空から地上へ向けて、一直線に墜ちてくる、四つの影が。

 それらが放つ叫び声のような音は、ドップラー効果も加わり段々とその大きさと高さを増し――唐突に終わりを告げた。


 四つの影がそれぞれ、高い木の突端へと降り注ぐ。鈍い、何かが砕ける音がした。

 見れば、四本の木の突端に、不出来なオブジェが生まれていた。

 ゴサクの時と同じ、はやにえが。

 その正体に、トウリが気付く。


「イチロウタ! モンジ! サブロウ! モリヤ!」


 それぞれの名前と顔は一致しない。だがトーマとリカルドは、彼らが対岸へ狩りに出ていた青年団のメンバーなのだと静かに悟った。

 金縛りにあっていた村人達も、トウリの言葉の意味を理解した者から順に叫び声を上げ始める。村の中に、悲鳴の不協和音が響く。


「……あの四人、一体どこから降ってきたんだ?」

「僕はそれよりも、『どうやって降ってきたか』に興味があるね」


 スカイダイビングよろしく高高度から降ってきた四人。

 その四人が狙いを過たず、揃いも揃って木の突端に突き刺さった。明らかに自然の技ではない。

 何者かが、狙って四人を落としたのだ。


 そうこうしている間に、巨大な「何か」は遂に島への上陸を果たしていた。

 最早、水しぶきは収まりかけ、不可視のそれの輪郭はぼやけているはずだった。だが、なんということだろうか、「何か」の輪郭はぼやけるどころかますますはっきりとし、むしろ向こう側の景色の方がぼやけ始めていた。


「おいおいおい、あれは光学迷彩じゃないのか?」

「ああ。あの巨大な『何か』は今まで光学迷彩で姿を隠していたんだろうね。それが、解けかけている――見ろ!」


 バチバチと音を立てながら大気が振動する。

 巨大な「何か」の周囲に、一瞬プラズマのような閃光が走る。

 そして――人々は見た。そこに現れた偉大なるモノの姿を!


「でっけぇ……狼?」


 我知らずトウリが呟く。

 そう、そこに現れたのは純白の毛並みを持つ狼としか呼べない姿をした獣だった。

 だが、明らかに大きい、恐らく十メートルはあるだろう。少なくとも地球の狼ではない。

 ――そもそも、動物は光学迷彩で姿を隠したりは出来ない。


「村長、いい加減教えてください。あれは……あの巨大な狼は何者なんですか!?」


 リカルドの必死の問いかけにも村長は答えない。

 見れば、その身体は細かく震えている。それは恐怖故か、はたまた違う感情か。

 と――。


『聞け』


 地の底から響くような低音が、村を駆け抜けた。

 その場にいた者達は驚愕した。今の言葉は、間違いなくあの巨大な狼から発せられていた。流暢な共通語だった。


『お前達は愚かにも禁を破った。空腹に耐えかねての狩りなら大目には見よう。だが、いたずらにこの惑星の命を消費することは、決して許されない』


 ズシンッ! と音を響かせて、巨大狼が一歩踏み出す。


『これより、オオカミの名において罰を与える。――二十の命を贖うがよい』



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