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SF因習村 ~宇宙で遭難したはずなのに、辿り着いたのは謎の因習が残る村でした~  作者: 澤田慎梧


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第七話「後継」

「おはようございます」


 翌朝。ホタルが二人を起こしにやってきた。逗留四日目ともなると、最早お馴染みになりつつある光景だ。

 ホタルの頬が腫れていやしないかと心配したが、木戸を開けて現れたのは瑞々しいもち肌そのもので、二人はそっと胸をなでおろした。


「今日はお食事をお持ちしましたので、こちらでゆっくり召し上がってくださいね」


 そういいながら、風呂敷に包まれた重箱を差し出すホタル。

 どうやら、昨晩のこともあり村長と同席しなくても済むように気を遣ってくれたようだ。


「温かいご飯じゃなくて、申し訳ありませんけど」

「とんでもない! 毎日おいしいご飯を作っていただけて、嬉しいですよ!」


 内心では「そろそろ肉が恋しい」と思っていることを包み隠して、トーマが満面の笑顔で重箱を受け取る。

 そんな相棒の調子の良さをよそに、リカルドはホタルがどこかそわそわしていることに気付いた。


「ホタルさん、また何かあったのかい?」

「……その、実はモモトの具合があまり良くなくて。後ほど、リカルドさんに診ていただけないかと」

「お安い御用ですよ!」

「こらこら、なんでトーマが返事するの? もちろん、全く問題ないけどね」

「ありがとうございます。あの……出来たらトーマさんもいらしてくれませんか? あの子、すっかりトーマさんに懐いたみたいで」

「もちろん!」


 ホタルに頼られたのがそんなに嬉しいのか、トーマが大きな音がするほど強く自分の胸を叩きながら言った。


(……やれやれ。どうやらホタルさんは、トーマがどうすれば喜ぶのかしっかり把握してるみたいだね)


 もしこの二人が様々な障害を乗り越えて結ばれたとしたら、きっと「カカア天下」になるだろうな等と、リカルドは益体もない感想を抱いてしまった。


   ***


 朝食が済んで一息ついたころを見計らって、ホタルが二人を迎えに来た。

 モモトの部屋は母屋の隅、広い縁側のある日当たりの良い部屋だ。表から回り込めるので、村長と顔を合わせずに向かうことが出来た。


「あ、トーマさん、リカルド先生。来てくださったんですね」


 二人を出迎えたモモト少年の顔色は明らかに悪かった。寝床に入ったまま、脇息(きょうそく)に肘をついてどうにか身を起こしているような状態だ。

 彼の傍らには、遊びに来たのか、はたまた看病に来たのか、ヒャッカの姿もある。


「おはようモモト。ヒャッカも。二人は仲が良いんだな」


 トーマがにこやかに話しかけると、ヒャッカは「まあね」と返しながらその可愛らしい頬を染めた。どうやら、モモトと「仲良し」と言われて少し照れているらしい。


「ヒャッカは、僕の唯一の友達なんです。外にあまり出られない僕に変わって、色々なことを教えてくれるんですよ」

「なるほど。頼りになる相棒ってところだな!」


 「外に出られない」という言葉に内心で心を痛めつつも、トーマはそれをおくびにも出さず、笑顔でモモトとヒャッカの頭をくしゃくしゃと撫でた。

 本人が毅然としているのだから、下手に同情するそぶりを見せるのは違うと思ったのだ。


「ふむ、それじゃあヒャッカには、僕がモモトを診察してる間にも一緒にいてもらおうかな。具合が悪い時、素人でも確認出来る部分を教えてあげよう」

「ほんとう? 金髪のお兄さん」


 リカルドの言葉に、ヒャッカが目を輝かせながら喜ぶ。少しでもモモトの役に立ちたいのかもしれない。


 その後、リカルドはモモトの体を丁寧に触診したり、胸や背中に直接耳を当てて聴診したりしながら、ヒャッカに簡単な医学知識を教えていった。

 もちろん、それですぐにモモトの体調回復の助けになる訳ではない。だが、近くにいる者がいち早く以上に気付くことで、助かる命もある。リカルドの狙いはそこにあった。


「ふむ。少し体温が低すぎるみたいだね。白湯に、出来れば生姜をすったものを入れて飲ませてあげると、少し楽になると思う」

「生姜ですね? すぐに用意します」


 ホタルが慌ただしく部屋を出ていく。どうやら、この村にも生姜はあったらしい。

 何せ、近代的な医薬品が全くないのだ。古の民間療法や食事療法に頼るしかない。


 ややあって、ホタルが湯呑に生姜湯を入れて戻ってきて、ゆっくりとモモトに飲ませ始めた。しばらくすると、モモトの蒼白だった顔色に少しだけ朱が差した。どうやら効果覿面らしい。


「すご~い! 金髪のお兄さん、魔法使いみたい!」

「あはは、残念ながら魔法使いじゃなくて医者だけどね。それに、これはあくまでも対症療法だ。モモトを一時的に楽にすることは出来ても、根っこから病気を治すことは難しい」

「お薬があれば、治るんでしょうか?」


 ホタルが縋るような目でリカルドに尋ねる。

 村長に少し背いてでも薬を求めそうな勢いだ。

 だが――。


「残念ながら、モモトのは病気というより体質の問題なんだ。先天的に身体が弱い。そうだね、それこそ、ナノマシンでも移植すれば改善出来るんだけど」

「あっ――」


 リカルドの答えに、ホタルが一瞬にしてシュンとなる。

 トーマが「少しは空気を読め」と肘鉄を入れたが、リカルドはあくまでも冷静に医者として話を続けた。


「なぁに、無理をしなければ命がどうこうなる訳じゃないさ。たっぷり栄養を摂って、無理しない程度に毎日身体を動かしていれば、大人になる頃にはもっと丈夫になっているよ」

「本当ですか? 宇宙旅行にも、行けるでしょうか?」

「……無理をしなければ、ね」

「そうですか……じゃあ、頑張らないと」


 モモトの顔に年相応の笑顔が浮かんだ。

 明確な目標は、時に下手な治療よりも人間に活力を与えるものだ。モモトの場合が、まさにそれなのだろう。


「ははっ。なあモモト、大人になったらいっそのこと、ヒャッカと一緒に村を出ちまうってのはどうだ? 大神村の外に出ちまえば、ナノマシンを移植したって誰も怒らねぇしさ」

「ちょっと、トーマ。あまり無責任なことを言わない」

「無責任どころか、現実的な提案だぜ? 成人してれば亡命なり転籍なりの申請が出来る。なんなら、俺らが後見人になれば手続きもスムーズだぜ?」


 どうやら、トーマは茶化しているのではなく本気のようだった。

 もしかすると、ホタルを連れ出す算段の前振りなのかもしれない。

 だが、トーマは忘れているようだが、この惑星の首長――即ち村長の許可を得ずに住民の亡命や転籍を手引きすれば、銀河連邦裁判所に訴え出られる可能性もある。少々リスキーな話だった。


「あはは、それもいいかもですね」


 だが、当のモモトはトーマの言葉を半ば冗談だと受け取ったのか、あまり真剣に受け止めていないようだった。

 更には――。


「でもトーマさん。確か、ナノマシンって新生児の時に移植するものじゃないんですか?」

「基本的にはそうだな。よく知ってるな、モモト。村長から教わったのか?」

「いいえ、トウリ兄さんから……あ、これは秘密でお願いしますね」

「もちろん、誰にも言わねぇよ」


 どうやらモモトも、トウリ経由で外の知識を得ていたらしい。


「でもな、モモト。ナノマシンの移植ってのは、何も赤ん坊の頃じゃなきゃいけないって訳じゃないんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。例えばリカルドみたいな医者が使う治療用ナノマシンは、短時間だけ体の中で活動するタイプで、これは年齢関係なく使える。そうはいかないのは、常駐型のナノマシンだな。単純にナノマシンって言った場合は、こっちを指すことが多い」


 常駐型ナノマシンは、基本的に生涯にわたって体の中で活動し続ける。その為、免疫系と干渉しないように新生児の内に移植するのが安全だ。

 逆に言えば、一次成長を終えてからの移植にはリスクが伴うことになる。


「だが、成人してからでも移植出来ない訳でもねぇのさ。数か月から数年かければ安全に移植出来るし、適性値の高い人間は数日から数週間程度で済む場合もある」

「適性値?」

「稀に、ナノマシンに対しての拒絶反応が少ない体質の人がいるのさ。あとは、新生児の時になんらかの理由で移植を途中で中断した人間とか、やはり諸事情あってナノマシンを途中で除去した人とかね」


 リカルドがすかさず補足する。

 この大神村のように、住民にナノマシン移植を行っていない自治体は、実はそこそこある。その為、成人になってもナノマシン移植を可能にするノウハウが確立されているのだ。


「そうですか。後からでも、ナノマシンは移植出来るんですね」


 呟きながら、モモトが縁側の向こうに視線を向けた。

 土ばかりの庭の先には、大神村の長閑な景色が広がっている。

 すぐ近くにあるのに、モモトには簡単に手が届かない箱庭だ。


「もし、僕がナノマシンを移植して健康な体になれば……お父さんはもっと、僕のことを見てくれるんですかね」


 誰にともなく呟いたモモトの言葉に答えられる者はない。

 ただただヒャッカだけが、その小さな手をモモトの手に重ねて、ぎゅっと握りしめるだけだった――。


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