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SF因習村 ~宇宙で遭難したはずなのに、辿り着いたのは謎の因習が残る村でした~  作者: 澤田慎梧


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第六話「禁忌」

 真っ暗な山道を、揺らめくランプの明かりだけを頼りに下っていくことしばらく。トーマ達はトウリの家へと辿り着いた。

 一間しかないシンプルなつくりで、土間にはカマドが、板の間の中央には囲炉裏があり、仄かに火が燻っている。

 家族の姿などは見当たらなかった。


「トウリは一人暮らしなのか?」

「ああ。俺の両親は小さい頃に死んじまってな。しばらくは村長の所で厄介になってたんだ」

「なるほど。ホタルさんがお前のことを『兄さん』って呼んでるのは、そういう事情か」

「ま、そういうことだ。さあ、何もない家だが、上がってくれ」


 トウリは木戸を慎重に閉めると板の間に上がり込み、囲炉裏に薪を足した。しばらくすると木の焼ける独特の香りが漂い始め、囲炉裏端が淡く照らし出された。


「電灯は使わないのかい?」

「あれは明るすぎてな。どうしても外に明かりが漏れるんだ」


 何か平べったいものを差し出しながら、トウリがリカルドの問いに答えた。平べったいものの正体は、どうやら藁か何かで編んだ座布団のようだ。

 クッション性は全くないが、尻の下に敷くと仄かに暖かった。


「――さて、すまねぇが酒は無しだ。ちと真剣な話なんでな」

「村長達には内緒でって話だったが、穏やかじゃねぇな。もしや、ゴサクさんの件か?」

「おうよ。二人はゴサクさんの件について、どう思う?」


 火箸で囲炉裏を整えながら、トウリが尋ねる。その表情は真剣そのものだ。

 揺らめく炎に照らし出されているせいもあってか、どこか凄みさえ感じられた。


「どう思うってのは、どういう意味だ?」

「言葉通りの意味さ。誰が下手人か……誰がどうやってゴサクさんをあんな目に遭わせたのか。二人の考えが聞きてぇ。特に、リカルドさんは医者なんだろ? 何か気付いたことがあれば、教えてくれ」

「気付いたこと、ねぇ。いくら僕が医者だと言っても、遠目に見ただけじゃ分かることは少ないさ。精々が、ゴサクさんは確かに亡くなっていた、くらいのものだ」


 リカルドが肩をすくめながら答える。念の為、ナビにもゴサクの遺体をスキャンしてもらったのだが、完全な心肺停止状態である、くらいのことしか分からなかったのだ。


「じゃあじゃあ、ゴサクさんをあんなにした方法に心当たりはねぇか? 何かの機械を使うだとか、その、ほら、体を強化するっていうナントカマシン?」

「ナノマシン?」

「そう、それだ。それがあれば、ゴサクさんを『はやにえ』にするくらい、出来るんじゃねぇのか?」

「まあ……出来なくはない、な。それよりもトウリ。お前よく、ナノマシンのこと知ってたな?」


 「文明の利器」が極端に排除されたこの村では、高度な機械は宇宙港くらいでしかお目にかかれないだろうし、ナノマシンに至っては村人への移植さえ行われていない。

 トウリが知っていることが、少し不思議だった。


「俺だって勉強してない訳じゃないんだぜ? 実はな、外の商人さんから色々教えてもらってるのさ」

「外の商人? 俺達以外にもこの村に来た外の人間がいるのか?」

「何年かに一度程度だがな。二人組の商人が来て、村長と何やら取引してるのさ。俺は村長の家で暮らしてたからな、そいつらとちょっと仲良くなって――それで、こいつをもらったんだ」


 トウリが懐から巾着袋を取り出し、中に入っていたものを二人に見せた。

 それは古ぼけた一冊の本だった。タイトルは「よく分かる銀河連邦」。


「へぇ、紙の本とは珍しい。ちょっと見せてもらっても?」


 リカルドはトウリから本を受け取ると、しげしげと興味深そうに眺め、パラパラとめくって目を通した。

 かなり読み込んであるようで、随分とよれよれになっている。


「なるほど。これは初等教育で使うきちんとした教材だね。内容は少し古いけど、確かだよ。でも、この手の本は村では御禁制なんじゃ?」

「そりゃあな。他の連中には内緒にしてくれよ」


 リカルドから本を返されると、トウリはまた巾着袋に丁寧にしまい込み、懐へと入れた。

 どうやら、そこが一番安心な隠し場所ということらしい。


「この本のおかげでな、俺は村の色々な『おかしな部分』に気付けるようになったのさ。例えば、電気だ。この村は見ての通り、電気が通ってる。だが、発電施設が見当たらねぇ。宇宙港から送電してるのかと思いきや、そっちから電線が繋がってるようには見えねぇよな?」

「そうだね。電線の起点は村長の家だ」

「だろ? そうすると、村長の家に発電施設があるはずだよな。だが、俺はあの家で数年間暮らしてたが、そいつを見たことがねぇ」


 確かに、とトーマとリカルドも相槌を打つ。

 村長の家は立派だが、発電施設があるようには見えなかった。


「後は、まあ、下水だな。村では『下水は湖に流され、オオカミさまの力でキレイになる』って教わるんだが……あの生き物もろくに見えねぇ湖に垂れ流して、本当にキレイになると思うか?」

「ふむ。湖に自浄作用があるかどうかは何とも言えないね。ただ、自浄作用があるとしても、ただ垂れ流しているのなら排出口の付近はかなりの悪臭が漂うはずだけど、それは見受けられない。この村は清潔そのものだしね」


 リカルドは先日、往診で村の中を見て回った。その際に強く感じたのは、村の清潔さだった。

 地球やその他の開拓星でも寒村への往診をしたことがあるが、上下水の不備によって衛生状態が悪い場所も多かった。が、この村にはそれがない。


「つまり……どういうことだ?」

「トーマ……。銀河連邦の教育を受けた君が、それはないだろう。トウリはね、どこかに下水処理施設があるんじゃないかって言ってるのさ」

「おお、なるほど!」


 相棒の血のめぐりの悪さに頭を振りながら、リカルドは改めてトウリと向き合った。


「つまりトウリ、君はこう考えているんだね? 『この村では発電施設や下水処理施設が意図的に隠されている。他にも隠された施設や機械があるんじゃないか』と」

「さっすがリカルドさんだ、話が早い。『自然派』とか言っておいて、その実この村は『文明の利器』で持ってるに違いねぇのさ。で、村長はそれを必死に隠してる」


 必死かどうかは別として、村長が都合の悪いものを村人に隠していることには、リカルドも同意だった。

 この辺境では、マテリアル・キューブはかなりの貴重品のはずだ。それを気前よく提供してくれた所を見るに、この村のキューブの貯蔵量には余裕があるらしい。

 それは定期的にキューブを消費し、また補充しているからではないか。


 先ほどトウリが言っていた、「数年に一度訪れる外の商人」の存在も、それを裏付けているように思える。


「ああ、なるほど。つまりトウリは、村長が隠し持ってる何かの機械で、ゴサクさんをあんな目に遭わせたって言いたいのか?」

「そうさ。数年間一緒に暮らしたから言えるんだが、あの人にはおおよそ人の情ってもんがねぇ。俺もホタルも、そりゃあ厳しく躾けられたし……何より、モモトが不憫でならねぇ」

「モモト? モモトがどうかしたのか」

「あいつはな、見た目通りに身体が弱いんだよ。だから村長は、あいつを跡継ぎにするどころか、見向きもしねぇ。いないもんみてぇに扱ってるのさ」


 モモトと村長の様子を思い出し、トーマはなるほどと思った。

 楽しいはずの夕食の時間にも親子の会話はなく、モモトはどこかおどおどしていた。彼にとって、父親は畏怖の対象でしかないのかもしれない。


「しかしなぁ、いくら掟を破ったからって、村長が村人であるゴサクさんをわざわざ殺すもんかな? しかも、俺達っていう部外者がいる間にさ」

「トーマさん達がいたからこそ、じゃないのか? 外の人間から見ても『オオカミさまの仕業』としか思えないようなことが起これば、オオカミさまへの畏敬の念も深まると考えた、とかさ」

「ふーむ……」


 トウリの推理には一定の理がある。だが、トーマはどうにもしっくりこなかった。

 まだよく村長の人となりを知らないせいかもしれないが、ホタルの父親がそんな酷い人間だとは思いたくなかったのだ。


「実はさ、村の若い衆の間でも村長への不信は高まってるんだ。中には、『みんなで掟破りをして村長をあっと言わせよう』って言ってる奴もいる」

「おいおいおい、それは穏やかじゃないな。少し早まり過ぎじゃないか?」

「分かってるさ。だがな、もしゴサクの件が村長の仕業なら、より多くの人間が掟破りをした場合にどう出るか……興味はねぇか? まさか、全員皆殺しにするはずもねぇだろ? そんなことしたら、村は本当に終わりだからな」


 トウリの言葉に危うさを感じながらも、トーマもリカルドも、それ以上何も言えなかった。

 所詮二人はよそ者なのだ。


   ***


 ナビに先導されながら帰路に就くと、二人はすぐにおかしなことに気付いた。

 村長の母屋に明かりが灯っていたのだ。


「……お早いお帰りですな、お客人」


 その明かりに照らされる影法師が二つ。

 村長とホタルだった。


「勝手に出歩いては困る、と最初に申し上げたつもりですが?」

「面目ない。少し夜風に当たりたくなったもので」


 丁寧な口調ながら、どこか威圧的な村長。

 それに負けじと、リカルドも飄々とした態度で堂々と嘘を吐く。

 トーマはこの手の腹芸が苦手なので、そんな二人のやりとりをはらはらしながら見守っていた。


「まあ、いいでしょう。一度は不問に付します。だが――ホタル。お前にもお客人をきちんと()()するよう、申しつけていたな?」

「はい、お父様」


 ホタルが村長に向き合った、次の瞬間。

 「バチンッ!」という派手な音が村の夜空に響き渡り、ホタルの華奢な身体がぐらりと揺れた。

 村長がホタルの頬を平手打ちにしたのだ。


「ア、アンタ! 娘に手ぇ上げるたぁ、どんな了見だ!」


 言うや否や、疾風のような速さで村長に駆け寄り食ってかかろうとするトーマ。

 だがその時、暗闇に揺れる赤いリボンが、二人の間に割って入った。


「トーマさん、いいんです。私が悪いんですから」

「ホタルさん……!」


 ホタルが打たれた頬を手で押さえながら、その華奢な体をトーマに預けるようにして押し留める。

 折れそうな程に細い儚さと、少女から女になろうとしている肉の柔らかさを感じ、トーマは少しだけ冷静さを取り戻し、矛を収めた。


「……いや、勝手に出歩いた俺達が悪かった。だがな、村長。自分の娘に手を上げるような奴は、信用されねぇぞ」

「ふん、お気楽な独り身の小僧が、吠えますな」

「まあまあまあ、二人とも! 夜も遅いから、この辺にしよう!」


 売り言葉に買い言葉か、再び険悪になりそうな雰囲気を壊すように、リカルドが馬鹿みたいに明るい声を出しながら、二人の間に割って入る。

 村長はそのまま、険しい表情を変えずに踵を返すと、草鞋をぺったんぺったん鳴らしながら母屋へと消えていった。


「ホタルさんも大丈夫かい? 結構派手な音がしたけど、良ければ診せて?」

「いえ、大丈夫です。音は派手でしたけど、大して痛くはないので」


 ホタルはトーマと密着していたことに今更気付いたのか、驚くべき速さでパッと離れると、もう片方の頬を染めながら俯いてしまった。

 どうやら、父親に平手打ちされたことよりも、トーマと密着したことの方が彼女にとって一大事だったようだ。


 リカルドは「へぇ、これは本当にトーマに春が来たのかもしれないね」と思いつつも、この村を覆う不穏な雰囲気を前に、素直に喜ぶことが出来なかった。


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