25
白い石の廊下は、思っていたより長かった。
壁は古いのに、崩れてはいない。模様みたいな彫りが途中で欠けてはいるけれど、ところどころ修復されていた。ここには人の手が入っているのだと、歩くだけでわかる。
私は足音を殺しながら、薄い光の続く先を進んだ。
曲がり角をひとつ過ぎたところで、声と音がはっきりとした。
私は壁に身を寄せ、そのまま近づいた。
通路の先は、吹き抜けに面した広い回廊になっていた。
その真ん中で、三つの影が何かと戦っている。
短い声で指示を飛ばす女が一人。
大柄な男と、細身の若い男。
大柄な男が、大剣を横に振る。前へ出ようとした獣が弾かれる。もう一人の男は、槍とも杖ともつかない長い棒を構えていた。必死に、足を止めずにいる。
その後ろで、女が両手を前へ出した。
青白い光が、指の先からふわりと広がる。
思わず見入った。
火じゃない。
雷でもない。
もっと静かなものだった。
白い靄が、薄い膜になって空中へ伸びる。丸く、なめらかで、壊れそうなくらい繊細なのに、飛びかかった獣の爪先をきちんと逸らした。空気そのものが硝子みたいに鳴る。
「……きれい」
小さく漏れた。
『へえ』
頭の奥で、ベルザリアが言った。
女の足元に散った光は、すぐには消えない。青白い粒になって、砕けた床の上をしばらく漂う。まるで小さな星屑が呼吸しているみたいだった。
そのあいだに、大柄な男が踏み込み、細身の男が横へ抜ける。
「ネア、右!」
叫び声が飛ぶ。
その呼びかけに応じて、女が手首を返した。今度は光が細い糸になり、下に滑っていく。獣の脚へ絡みつき、一瞬だけ動きを止める。大柄な男がその頭を蹴り飛ばした。
でも、押し切れてはいない。
相手は狼に似ていた。けれど脚が長すぎる。胴は痩せ、首だけがやけにしなやかで、爪が石床を引っかくたび、そこだけ白い煙が上がる。
三匹、四匹、向こうの暗がりにもまだ影が揺れていた。
大柄な男が前へ出すぎる。
細身の男はまだ怖がっている。
女が出したものは美しいけれど、防ぐたびに薄くなる。
三人とも頑張っている。だけれど、見ていてわかった。
このままだと崩れる。
細身の男の足元へ、獣が低く滑り込む。棒を下ろすけれど間に合わない。そこへ大柄な男が肩からぶつかって、二人まとめて倒れ込んだ。爪が床を焼き、白い煙が立つ。
女が短く何かを呟いた。
その瞬間、彼女の周りにまた青白い光が灯る。今度は前より大きい。薄い円が幾重にも重なり、花弁みたいに開いて、三人の前へ壁を作る。
幻想みたいだった。
壊れかけた回廊の中で、そこだけが別の夜空になったように見える。
けれど、次の獣がその光へ突っ込んで、壁は細くひび割れた。
私は槍を握り直した。指先にだけ熱を込める。
出ていって助けた後どうするか、なんて考えない。考える前に、足が前へ出ていた。
『助けるのね』
ベルザリアが言った。
「助けたい」
『そう』
止めはしなかった。
回廊の向こうで、青白い光がまた砕ける。細い悲鳴がした。大柄な男が再び前へ出る。獣の群れが、そこへ一気に雪崩れようとしていた。
私は床を強く蹴った。




