第四章 激突!(2)
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「ほほう、なかなか壮観ですな、敵軍も」
「うむ、ヤツらも後がないからな。前にも増して必死であろう」
新たな場所に前線司令部の天幕を設置した後、バルガス将軍と騎士団の幕僚たちは高台に登り、想定戦場を眺めている。いつの間にか幕僚扱いになっているエルンと、そのお供のネネ、アンも同行している。
「ただ歩兵の密集度は以前よりかなり低い。長槍兵や弓兵が少ないのは、騎士団長殿がハデに吹き飛ばしたからでしょうな」
「コンラート殿、人聞きの悪い。それはバハラムやグリムウォールどもの手柄よ。若い者は派手に好き勝手やるからのぉ……」
「またまたご謙遜を。さてそうすると……あと厄介なのは魔導砲弾と強化魔槍と、騎士戦闘の大敵である落とし穴やぬかるみ対策か。そのあたりはどうじゃ?」
「は、ヴァイスハイト卿、どちらも万事抜かりなく対策を進めております」
「残るは敵の重騎兵連隊か。騎兵対騎兵となれば、最後は実力勝負だからな……」
「敵の最精鋭部隊で戦意も旺盛、ならば勝負は紙一重となるかもしれません。だが最後は我々が勝ちますぞ」
騎士団長周辺でそんな会話がなされる中、エルンたちはなかなかいつものやり取りを取り戻せないでいた。
まもなくバルガス将軍以下の戦闘員は、与えられた戦闘配置に着くべく移動を始め、エルンたちは前線司令部の天幕へと移動した。
本来ならバルガス将軍は前線司令部にあるべきなのだが、バルガス将軍ほか蘇った四人の騎士はいまや騎士団の主たる戦力だから最前線に配置されている。
大テーブルが置かれた広い前線司令部の天幕は、エルンたち三人の戦闘配置場所に指定されていた。
「……ええと、そのぉ」
「…………」
(気まずい……何を話して良いものか、このまま黙ってるしかないのか……)
「あー、どうやらわが軍が優勢そうで、まあ良かったよね? ねぇ……」
「…………」
(くっ! 空気が重い……)
「あらぁ? なに、この雰囲気。まるでお葬式みたいじゃないの? これから戦闘が始まるところだというのに、もっと景気良く元気よくいかないものかしら?」
「ルビチェック監察官!」
「……エルン、昨日言ったはずよ。私のことは『リリア』と呼ぶの。さあ、もう一度呼びなさい?」
「え、あ、えーっと……リ、リリア……監察官」
「違う! 監察官はいらない。ただのリリアで結構よ。さあ、もう一度!」
「あ、あのリリア……どうしてここに?」
そのやり取りにリリアは上機嫌だ。日頃は崩すことのない氷の微笑の口角が、いつもより三ミリほど持ち上がっている。
「あら、あなた聞いていないの?」
「えっ、何を……ですか?」
リリアは「んもう、敬語も不要なのに……」と少し口を尖らせた。
「不本意だけど、騎士団がこの天幕を私の戦闘配置場所に指定したのよ。監察官は文官だから戦闘時の配置は騎士団長の指示に従う。似たようなヤツらはまとめたほうが管理がしやすいってコトでしょ。それに……」
「…………」
リリアの話をネネは黙ってジト目で聞いている。昨日リリアに対する失言があったので、今日は自重しているのだ。
そんなネネの様子をチラリと見たリリアは「ふーん」と言い、つまらなそうな顔で続ける。
「それに、前線の戦闘状況がどんなふうなのか、最新の状況が見られないとエルンも書記官の務めが果たせないんじゃないかと思ってね」
「……この天幕に居てて、最新の戦闘状況を見るなんて不可能やろ」
アンが、ぼそっと呟く。
「あら? おまえ、昨日は黙ってたから喋れないのかと思った。もしかして、私が怖かったの?」
リリアが薄く嗤う。
「……エルンスト魔道書記官付き、魔道ペン辞書精霊アン・アンサー。首席監察官殿、以後お見知りおきを」
(アン・アンサーですって?……も、もしかして、あの?)
「……へー、いちおう自分の立場と礼儀は弁えてるのね。誰かさんとは違って」
リリアの皮肉にネネが「ぐぬっ!」っと奥歯を噛み締める。アンは目顔でそれを宥める。
「そもそも戦闘記録の基本は、司令部への伝令報告を正確に残すことや。伝令報告やから実際に起きている戦闘状況とは時間差がある。前線司令部では『今この時』の戦闘状況など、正確にはわからん」
「あら、よく出来ました。そのとおり。通常の前線司令部における戦闘記録は伝令報告をもとに作られるわ」
「なら、なんで……」
「話は最後まで聞くものよ。私言ったでしょ、『通常の前線司令部における戦闘記録は』って。ここは、通常の前線司令部じゃない」
「は? ここは前線司令部や。バルガス将軍がそう決めたんやから――」
「たしかにそうね。だけどバルガス将軍はここにはいない。それが、ここが『通常の前線司令部じゃない』っていう理由。辞書精霊、おまえその意味がわかる?」
「…………」
「前線司令部に司令官がいなかったとして、伝令報告は来るのかしら?」
「あっ……そうか!」
エルンは気がついた。
「バルガス将軍がいない前線司令部には、戦況を知らせる伝令報告は来ない。伝令報告が来なければ、書記官の仕事である戦闘記録や死亡者報告書は作れない……これはマズいよ」
「そう。ここでは魔道書記官の仕事は出来ない。戦闘記録の不作成は書記官を即決処刑にできるほどの重罪よ。だからと言ってニセの戦闘記録を作れば虚偽報告で処刑は確定。だから……」
リリアがエルンを見つめ、イタズラっぽく言う。
「だから、私が正しい戦闘記録を作れるようにしてあげようと思ってね。だって私、エルンの即決処刑の判決文にサインしたくないもの……」
(いやいやそんなことをかわいく言われても……なにせ相手は、あの『生ける断罪』だ。発言や外見がいくらかわいくても、ヤツはこちらの生殺与奪の権利を握っている。慎重に対処するに越したことはないぞ、エルン)
エルンは気を引き締め、油断なく身構える。
リリアは持参してきた重そうな魔道六法をどさり、と大テーブルのうえに置く。それからその本の真ん中より少し後ろあたりを開くと、何かを唱えながら漆黒の魔道ペンで、開いたあたりをトントン、と軽く叩く。
すると六法の上の空間が歪み始め、不思議なことにその歪みにどこかの風景が浮かび上がってきた。
「あれ? これは……どこかで見たような……」
「これって……さっきまでいた高台から見た風景に似てない?」
黙りこくっていたネネが思わず口を開く。
リリアが頷く。
「あれ? そう言えば、あの子はどこにいったのかしら?……ああ、ごめんなさい、こっちの話。ええ、そうよ。これはさっきバルガスやあなたたちが登った、高台から見た戦場の今の風景。両軍の配置と動きが見えるかしら?」
「確かにこれはよく見える。これなら敵味方の戦いぶりや情勢が一目でわかるな。戦場から離れていても、戦闘記録を残すのにまったく問題なさそうだ。すごいですね、ルビ……あっ、リ、リリア」
「……ま、いいでしょう。私の呼び方には早く慣れてね、エルン」
リリアはそう言うと、改めて説明する。
「遠方の映像を魔道六法の上に映す技術を一般的に『歪んだ空間』と呼んでいるわ。ある程度の能力がないとこの技は使えない。今のエルンがいくらがんばっても無理よ。だから、今回私が助けてあげることに感謝なさい」
「あ、ああ。ありがとう……リリア」
リリアはにんまりと微笑む。
「さあ、そろそろ両軍の動きが活発になるわよ。エルンにアン、戦闘記録の準備はいいかしら?」




