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第三章 監察官ルビチェック(2)

☆本日よりGW集中更新!朝夕2回更新となります☆お読みいただきありがとうございます☆いよいよ女監察官ルビチェックが登場し、話が大きく動いていきます☆

 さっそく、着任からこれまでの戦闘記録、行軍記録、軍備補充申請書、作戦会議の議事録、(問題の)戦死者報告書……などなどの一切をルビチェックに提出したエルン。


 その後、エルンとネネ、それにアンはそれぞれ別の天幕に移され軟禁状態にされた。バルガス騎士団長はじめ騎士団の面々とも接触を絶たれ、エルンはひとり孤独に過ごすことになった。


「それにしても、記録を提出してからもう三日になるのに何の音沙汰もないなんて。尋問すらないのが逆に不安でしかないよぉ……。監察官はいったい、何を考えているんだろう?」


 もしかして尋問されるその日がこの世とお別れになる日かも……と考えるにつけ、エルンは心の底からビビりあがっていた。


 それと同じ頃。

「これ……どう読めばいいの……どう理解すればいいのよ……もう全然わからないわ」


 リリア・ルビチェックは三日目の徹夜の朝を迎えて疲労困憊していた。リリアが仕事のために騎士団から徴発した天幕は、多くの過去書類や書籍で山積みになり、大テーブルは文例集と強壮剤の包み紙で埋まっていた。

 

 エルン・エルンストから提出された今回の戦闘関連記録は、これまで実施した他のどの戦闘記録監査の時より少なかった。だからリリアとしては「今回は楽勝! すぐに即決処刑だわ!」と思っていたのだが……。


 エルンの書く文字は良く言えば非常に個性的、ぶっちゃけ、のたうち回るミミズの死骸の這った後のような文字で、正直ドヘタといっても言い過ぎではなかった。

 おかげで解読がなかなか進まない。

 

 一般的に魔道書記官は流麗な文字を書く者が多く、そうでないにしても読みやすい文字を書こうと努力する人が大半だ。仕事柄リリアはかなりの悪筆でも読める実力がある。そのリリアでさえ、まるで異国の呪詛のようなエルンの変態文字の解読に苦戦している。


「まったく……最近の書記官教育はどうなってるのかしら……。こんなんでいいなら、私だって魔道書記官になりたかったわよ!」


 実はリリアはかつて魔道書記官になりたかったのだ。しかし生来の悪筆のために書記官を諦めた過去がある。自分が生来の悪筆であるがゆえ、大抵の悪筆は読めるというのがカラクリなのである。


 監察官ではその能力が大いに生きた。悪筆でごまかそうとした悪事を摘発した例もかなりある。しかしその能力をもってしても、エルンの悪筆は完全には解読できないのだった。


 徹夜三日目、これほど読みこなせないとなると、リリアの中にひとつの疑念が生まれていた。


「もしかしてコイツ、敢えて記録を一般人には読めないようにしている? わざと悪筆にすることで真意を隠しているのでは??」


 これまで数々の暗号化による記録の隠蔽や、わざと態度を偽り監察官を欺こうとするのを見破ってきた彼女の経験と実績が、彼女をしてエルンに対する疑念とある種の畏怖を感じさせ始めていた。


 そういう目で見ると、たしかに記録の端々の違和感や暗号らしき表現が目につき始める。

 

「この文書の始めの文字を繋ぎ合わせていくと……ほら、理法共和国の首都コンセサスと一文字しか違わない言葉が浮かび上がる……こっちは帝国四六四九式暗号に似せた表現が見られるわ……」


 パラパラと書類をめくったリリアは、ある行軍記録のところで手を止める。

「そしてこちらは……高度に暗号化された古代魔導言語のようね……この複雑な術式も、正しく読み解かれることで真の意味を持つ」


 リリアは古代魔道言語の発音を再現しつつ、魔力を込めて音読する。その途端、なんとリリアの天幕に強力な防御魔法がかかった。


 リリアは勝ち誇ったような表情をして、あのマヌケ面した書記官の顔を思い浮かべる。


「ふっ、世間は騙せても私を騙すことはできないわ。こうなったら直接尋問して泥を吐かせてやる! 『生ける断罪』の二つ名にかけてね。見てなさいエルン・エルンスト!」


 記録の提出から四日目、ついにエルンに対して尋問がなされることになった。


(ああ、今日が自分の短かった人生の最終日になるのか……やっぱりあのマークシート式の書記官試験で、歴代最高点数で合格したのがオレの人生の頂点だったなぁ……あれが記述式なら、字がヘタなせいでオレの合格は絶対無理だった……)


 昨夜、軟禁中の天幕で翌日の尋問を知らされ、一睡もできないまま朝を迎えたエルン。差し入れられた朝食も喉を通らないまま、ついに尋問の時間を迎えることになった。


「監察官リリア・ルビ・ルビチェック殿、通られます」

 天幕入り口の警備兵がエルンに監察官の到着を告げる。程なくリリアがエルンの天幕に入来する。紋章院の徽章をつけた屈強な護衛兵を一名伴っているのは、万が一に備えての処置だろう。


(な、なんだよこんな恐ろしい顔の乱暴そうな兵まで連れてくるなんて……これはますますオレの命をここで絶つつもりなのか……?)

 

 恐怖のあまりガタガタ震えているエルン。表情も固くひきつり顔色は真っ青だ。あまりに怯えきったその姿を見て、リリアは逆に気持ちを引き締める。


(かつて尋問した嫌疑者たちでこれほどの怯えを示した者はいない。この極端な怯えぶりは逆に演技なんじゃないの? エルンスト、あなたは明らかに怪しいわ。私をそう簡単に騙せると思ったら大間違いよ!)

 

 大テーブルのうえに分厚い魔道六法を開き、その横に持参した資料を置くと、リリアはエルンに対して宣言する。


「それでは尋問を始める。これよりこの場は紋章院の認めた秘密法廷となる。ここでの発言、証拠をもとに被疑者の処分が決定される。なおその過程は一切公開されない。その決定権限は監察官に属することを記憶せよ」


 リリアは尋問開始に際して、被疑者に必ず告知すべき言葉を淡々と口にした。

「…………」

 エルンの反応はない。リリアはハッ!とした。

 

(こ、これは、この状態はいったい?……まさかコイツ、すでに『無』の状態に入っている?!)


 エルンはリリアに対する極度の恐怖と昨夜一睡も出来なかったことが相まって、もはや白目を剥いて口を開け、よだれを垂らした失神状態になっていた。


 そんなエルンの心と身体の状態を知るはずもないリリア。予想外の事態に彼女は動揺を隠せない。


(ま、まさかっ、尋問に対してそんな手で来るとは?! エルン・エルンスト……コイツ……侮れないっ!)

 尋問相手の巨大な影を感じて、リリアは戦慄する。

 

 紋章院の屈強な護衛兵といえども、尋問の相手がいきなりこのような状態になっているのは経験したことがないのだろう。蓬髪髭面の陰から薄気味悪そうにエルンを見ている。


「コイツを起こしなさい! 今すぐ!」

「はっ!」

 護衛兵はエルンの首筋を後ろから掴むと、そのまま高く持ち上げ、エルンを顔面から大テーブルへと叩きつけた。


「ぐえっ! いっ、痛ってぇ……」

 あまりの痛みに、失神状態だったエルンが意識を取り戻す。その一瞬で大テーブルはよだれと涙と鼻水でぐしょぐしょだ。魔道六法や資料にも飛沫が散っている。


「……エルン・エルンスト書記官」

 リリアの声は、冷えたナイフのようにエルンの鼓膜を撫でた。

「一度しか言わないからよく聞きなさい。これから行う私の尋問に対し、すべて真摯に、かつ正確に答えること! ここに監察官リリア・ルビ・ルビチェックの名をもって命じます!」

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