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第三章 監察官ルビチェック(1)

☆連載第5回です☆明日29日からはGW集中連載で1日2回更新予定です☆たぶん朝夕更新だけど、様子を見て朝昼になるかも☆お読みいただきありがとうございます!よかったらブクマと評価をよろしく!

「そういえば……復活したドラグナーたちが戦うとき、剣や槍がグニャグニャ曲がりながら敵を追尾するってバルガス将軍言ってたよね?」

 

 追撃戦に出たバルガス将軍の天幕を借りて療養しているエルンと、その世話をしているネネとアン。

 ネネが寝台の横でリンゴの皮を剥きながらそんなことを言う。


「ああ、たしかにそんなこと言ってたなー。それが?」

「バルガス将軍に炎属性が付与されたの、エルンが砂で羊皮紙を擦りすぎたせいだよね? ドラグナーたちを蘇らせたときもあんた……なんかやらかしたんじゃないの?」

「いやいやいや今回はオレ何もしてないって!」

 

「その話かいな……」

 エルンの頭が乗っている枕のすぐ横で腹這いになって魔導書を読んでいたアンが、魔導書から目を離さないままつまらなそうに呟く。


「ん? なんか知ってるのか? アン」

「まあな……エルン、自分その理由を聞きたいか?」

 アンがチラリとエルンを見る。その憐れむような表情にエルンは嫌な予感が背筋を駆け上がるのを感じた。


(これは、聞いたらダメなヤツだ……)

 エルンは察した。前にアンがこの表情をしたのは、誤字スペルミスしたせいでバルガス将軍が蘇ったのをエルンに説明したときだったから。


「いやー……オレは全然興味ないけどな――」

「え、知りたい! なんで今回はそんな属性ついてんの? 教えてよー」

 遮るようにネネが話に割り込んでくる。

 

「まァ、エルンにも説明だけはしとくかなぁ。魔道ペン使うとき、自分ほんまに気ィつけや?」

「えー? つまりつまりぃ今回もエルンがなんかやらかしたってことなのね?」


 ネネが嬉しそうに目を輝かせてここぞとばかりツッこんでくる。

(くそっ、ネネのヤツ!……ウザすぎ!)

「やらかしたっていうか……ま、不可抗力ってトコやな」

「不可抗力?」

 

「あの時エルンの側に魔導砲弾が落ちたやろ? エルンはその後も必死のパッチで魔道ペンを走らせとった。でも最後は意識を失ってグニャグニャの線描いとったやろ? たぶんそのせいや」


「え、無意識に描いたグニャグニャする線のせいで、ドラグナーたちにグニャグニャする攻撃魔法が付与されたってワケ?」


「たぶんな。だからエルン、おまえただでさえ字が汚いんやから魔道ペン使うときはよーく気ィつけんとあかんで」


 そんな話をしていた時。

「エルン書記官殿! エルン書記官殿はどちらにおいでですか?!」

 天幕の外から声がする。


「何者か?! 書記官殿はこちらでご静養中だ」

 天幕の入り口の警備兵が誰何する声が聞こえる。

「失礼しました、火急の用件でして。実は……」

 エルンを訪ねてきた人物と警備兵との間で何かやり取りがされている。ただ内容まではよく聞こえない。

 

「ははーん。これは……ついに来るべきものが来たっちゅうことやな……」

「はあ? 来るべきもの? なにそれ」

「まあ慌てんでもすぐにわかるわ……ほら」


「し、失礼します! エルン書記官殿、今よろしいでしょうか?!」

 入り口の警備兵が急ぎ天幕に入ってくる。警備兵は槍を地面に立てると直立不動の姿勢をとる。敬礼の代わりだ。

「……は、はい。なんでしょう?」


「先ほど紋章院から伝達あり。先の戦闘における魔道記録の検証のため、本騎士団に向けて記録監察官を派遣。今日明日にも担当監察官が到着の予定とのことであります!」

「えっ……?!」

「なお担当監察官は帝国首席監察官リリア・ルビ・ルビチェック殿とのことであります。報告は以上であります!」

 警備兵はそれだけ言い終えると、さっと身を翻して天幕から出て行った。

 

 報告を聞いたエルンは絶句した。戦闘記録と賞罰を管理している紋章院の動きが想定より早すぎる。しかも担当が最悪だ。


「な、なんでよりによって『生ける断罪』……リビング・ガベルがオレの担当なんだよ」

「今日明日にもここへ来る言うたか? ヤバいな……対策してる余裕がない」


「ルビチェック……だっけ? それって誰さ? 『生ける断罪』? わたしよく知らないんだけど……」

 エルンとアンの深刻な様子を見て、ネネが不思議そうに尋ねる。

 

「……ああそうか、ネネは理法共和国出身だからな。まあ知らないのは無理もないか」


「ルビチェックはな、むかーしからこの国の魔道記録を司る一族や。特に記録監察官は歴代この一族が独占しとる。中でも当代のリリア・ルビチェックちゅう女傑は、若いながら情け容赦なく即決処刑するんで有名や……」


「それで付いた二つ名が『生ける断罪』。リビング・ガベルのガベルっていうのは、裁判官が叩く裁判槌のことで……って、そんなこと言ってる場合じゃないよ! 早く逃げなきゃ! 今ならまだ間に合うかも……」


 その時、遠くのほうが急に騒がしくなったかと思うと、その喧騒があっという間にエルンたちがいる天幕まで近づいてきた。


「……お、お待ちください、勝手に進まれますと困ります! 帝国精鋭の第二重装騎士団として、紋章院には厳重に抗議いたしますぞ!!」

「もう来よったか。エルン、ひと足遅かったようや」

「えっ?!」


 バッ!と天幕の入り口の布が跳ね上げられ、監察官の戦時正装に身を包んだ女性、というか少女が入ってきた。


 目つきが尋常じゃないほどに鋭く、周囲を睥睨する視線の圧力が半端ではない。美形ではあるが、表情は凍りつく冷たさを湛えてわずかに口角が上がり、その不遜な態度と相まって少女とは思えない威厳を滲ませている。


 天幕内にエルンの存在を見つけると、彼女はエルンの目を覗き込むようにしながら口を開く。

「魔道書記官エルン・エルンスト……とはあなたのようだな。お初にお目にかかる。監察官のリリア・ルビ・ルビチェックだ。今回の戦闘にかかる記録監査に罷り越した」

 

 後ろから追いかけるように入ってきた男性は、たしか騎士団の総務官だったか。怒り心頭、真っ赤な顔で監察官に抗議している。


「こっ、このようなやり方、絶対に認めませぬ! 後ほどバルガス騎士団長からも断固抗議を申し上げる! ただでは済みませんぞ!」


「……ただで済む済まないは騎士団の総務官ごときが決めるものではない。こちらで決めるのだ。これ以上あれこれ口を出すのであれば、監察官権限を行使するのみだが……さて総務官殿、どうされるかな?」


「くっ!……この仕打ち……覚えておかれよ!」

 総務官は悔しそうな顔をして身を翻すと、ドスドスと大股で天幕の外へ出て行った。

 

 それを冷ややかに見送ったルビチェックは、改めてエルンに対して命じる。

「さて、エルンスト書記官殿。これより今回の戦闘記録についての臨時監査を行う。辞書精霊と協力して、直ちにこれまでの一切の戦闘記録の提出をお願いするぞ」

「は、はぁ……」


「なお、提出する記録は正確を期すこと。一文字たりとも不正確なものを提出した場合、重大な処分に繋がる。怠りなきようにな」

「……万が一、正確じゃなかった場合はどうなるの?」

 ネネが面白半分にルビチェックに質問する。

「…………」


 誰だおまえは、とでも言うように、ルビチェックは一瞬ネネを睨みつけたが、フッ、とあざ嗤うように言った。


「以前に私が訪れた村では、わずか一文字の誤りのためにその村が廃村になったことがあったな。正しい記録の重要性に比べれば、廃村など些細なことだ。今回、騎士団が解散にならぬよう、せいぜい気をつけることだな」

 

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