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第二章 蘇る騎士たち(2)

☆おはようございます。連載第4回です☆GWにもあと2日で突入! 今日明日、学校に仕事にがんばろうね!☆本日もお読みいただきありがとうございます!☆

 エルンは迷いに迷っていた。この男、昔から優柔不断でヘタレなのだ。


 だがその辺をよく知るネネにも抜かりはない。ネネの手によって、いつの間にか大テーブルの上には『戦死者報告書』がセットされている。


 その羊皮紙の横には、魔道ペンを差し出すかたちで抱え込んだアンが、エルンにペンを取らせようと待ち構えていた。


「ああ……うーん、でもなぁ……いややっぱり……ここが勝負どころかも……あー、でも待て待て、人としてどうなんだろう……いや、それでもなあ」

 

(ほんま、じゅんさいなやっちゃなー。たまらんで)

 顔こそニコニコしているが、アンは内心イライラしていた。辞書精霊になって数百年。さまざまな魔道書記官と行動を共にしたが、こんな刺激的な経験をする機会は滅多にない。このチャンスを逃したくないのだ。


(エルンそこや! ビビらんとペンを取れ! うちらといっしょにおもろいことやろうや!)

「…………まあ、そう、だよな」


 まるでアンの心の叫びが聞こえたかのように、エルンは右手を大テーブルの上に乗せた。そして肘から先をのろのろと動かすと、ついにエルンはアンの抱え込んだ魔道ペンを中指、人差し指、親指の三本で絡め取る。


((やった!))

 アンとネネの心の二重奏が響く中、エルンは羊皮紙にペン先を近づける。

 と、その時。


「敵襲だぁっ、敵襲っ!! 敵の奇襲攻撃、夜討ちだーっ!」

 天幕の外に響き渡る、警備兵たちの叫び声。


 続いて魔導砲の着弾による凄まじい衝撃が三人の身体を襲い、すぐにズズズドドドドーン!という連続する重低音が周囲を圧する。


 まさにエルンは『戦死者報告書』のバリアン・ドラグナーの欄に、最初の『D』という文字を書き込んだところだった。

「あ、やっぱナシ! やっぱダメだよ、死者を冒とくしちゃ!」


「何言うとる! このままやと、エルンおまえが死ぬかもしれんのやで! 今、生きるか死ぬかの瀬戸際や! 生か死かどっち選ぶんや?! エルン!」

「うー、死に、たくは……ない……けど……ちくしょー! えーい!」

 

 連続する着弾の衝撃で、ペン先がまるで、以前の動画を再生するように羊皮紙の上を踊るのをエルンは見た。


 ペンは再び、不安定な二つの『e』を生み出し、そして最後に力強いがいびつな『d』で締めくくる。

 『Deed(功績)』

 非常に読みにくくはあるが、新たな蘇りに繋がる単語が完成した瞬間、羊皮紙がカッと強い白光を放つ。


「あ……ついにやっちゃった……自分から書いちゃった……」


 エルンたちのいる前線司令部の天幕から右翼前方、騎士バリアン・ドラグナーの「遺体」が収められている霊安所がわりの天幕から、突然爆発的な音が響く。


 遺体の傷口という傷口から光が溢れ、メキメキメキ……という音と共に肉が盛り上がり、傷を塞いでいく。


「う、うおおおおおお! 戦さが……戦さが俺を呼んでいる! 功績が、漲る力が……俺をヴァルハラから地上へと呼び戻したもうたのだ!!」


 上半身を跳ね上げるようにして騎士ドラグナーは身体を起こし、そのままの勢いで天幕の中に立ち上がる。


 そして天幕内に転がっていたハルバード――斬ったり叩き割ったりもできる万能槍の一種――を脇に抱え込むと「行くぞおおおおお!」と叫びながら天幕を飛び出し、敵の群れに正面から突っ込んで行った。


「あわわ、仕方なくだから! 仕方なく書いたんだよ! オ、オレまだ『D』しか書いてなかったし? なんなら『Dead(死亡)』って書こうと思ったのに、魔導砲弾の着弾のせいで――」


「エルン! 次よ、次! 次書いてっ!」

 いろいろ言い訳をしようとするエルンに対して、必死の表情をしたネネが彼の胸元にしがみつく。

「……えっ?」


「これ敵の攻撃が強力すぎるわ。バルガス閣下とドラグナーの復活だけじゃきっと戦線を支えられない! もっとどんどん蘇らせないとわたしたちも絶対ヤバいわ! だから書くのよエルン! もっと書いて!!」

「で、でも監察官が……」

 

 ドカーン、ドカーン! ヒュルルルル……ボーン!!

 いまや前線司令部の天幕の周辺には、魔導砲弾が雨あられのように降り注いでいる。


 ドドーン! ドガッ、バリバリバリッ!! ビュオーッ!!! パラパラパラ……

「キャーーッ!」

 ついに天幕の入り口が吹き飛ばされ、爆風の直撃を受けたネネが横っ飛びに薙ぎ倒される。


「ネネ?! だっ、大丈夫かっ?!」

「わたしは大丈夫っ! このままだとみんな死ぬわよ! だから書いて! 書くのよエルン・エルンスト!」

 

「――チックショー、こうなったら書いて、書いて、書いて、書きまくってやる! アン、羊皮紙をこっちに寄越せっ!!」

「あいよっ! ……それっ、エルン受け取れぇっ!」


 かろうじて大テーブルにしがみつき全身を使って羊皮紙を押さえていたアンは、なんとか立ち上がると力の限り羊皮紙を引っ張り、その勢いでエルンの手元に羊皮紙を投げた。


 外からの爆風で飛ばされそうになる羊皮紙をどうにか掴むと、エルンは左手で羊皮紙を大テーブルに押さえつけ、魔道ペンを振りかざして猛然と書き始めた。

 

 『Deed』! 『Deed』!! 『Deed』!!!

 エルンが瀕死のミミズがのたくったような汚い文字で『Deed』と書くたびに、羊皮紙は白く強い光を放つ。そしてその都度、天幕の外には巨大な爆発音が響き渡る。


 ヒュルルルル――ドゴーン!!!

「うわああああああっ!」

 何度目かの白い光のあと、ついに前線司令部の天幕に砲弾が直撃した。砲弾は天幕の天井を貫き、エルンが座っていたすぐ横に着弾した。


 エルンは半ば気を失いながら、なおも執念で魔道ペンを走らせたがそれはもはや文字にはならず、グニャグニャした線が描かれただけになった。

(くそっ、オレをこんな目に遭わせたヤツに……せめて一撃……どんな形でも追っかけて……うーん……)


「ネネ……アン……」

 ふたりの安否がよくわからないまま、エルンの記憶はそこでブラックアウトした。


「……ルン、エルンっ!」

「おお、書記官殿が気がついたようだ。大丈夫か?」

「…………ここは……あれ、オレは……生きてる……のか?」

「よかった……もうそのまま……目覚めないかと……心配させて、このバカエルンっ!!」

 

 エルンがうっすら目を開く。布張りの天井を柱が支えているのが見える。その手前で上からエルンの顔を覗き込んでいるのは、心配顔のバルガス将軍と目に涙をいっぱい溜めたネネだ。ネネは頭に包帯を巻いている。


 ぽたり、とネネの涙がエルンの頬に落ちる。あれ、昔もなんかこんなことあったな……とエルンはぼんやり思い出す。いつのことだっけ?


「……あの、敵は、どう……なりましたか?」

「うむ、敵はわれらの反撃を受け、昨日以上の大打撃を被りこの地を撤退した。現在わが騎士団主力は逃げる敵を追撃中じゃ」

「そう、ですか。それは……良かった」


「……エルン魔道書記官殿」

 バルガス将軍が態度を改め、エルンの手を握る。

「あ、痛っ!」

「ああ、すまぬ。そんなつもりはなかったのだ。許せ」

 バルガスはエルンから慌てて手を離した。


「……ええ、わかってます……大丈夫です」

「ドラグナーやバハラム、グリムウォール、そしてノクスをヴァルハラから蘇らせたのは貴官であろう?」

「いっ?!」


「ああ、コンプラ問題があるから、貴官の立場ではそれを認めることはできんのだったな。でもわしには自分の身をもってわかっておる。あれができるのは貴官だけだ。改めて礼を言う。よくやってくれた」

「…………」


「四人とわしを中心とした反撃で、優勢だった理法共和国軍は総崩れとなった。四人は、持っている剣や槍がグニャグニャと曲がりながらも敵を追いかけていくという特技をもって敵を粉砕した。あれも貴官の付与魔法だろう」

「え、あ……」


「ああ言わんで良い、言わんで良い。わしにはわかっておる。貴官はこの戦いの最大の功績者だ。すべてが終われば必ず貴官の活躍には報いる。今はゆっくり休むが良いぞ」


 そう言うとバルガス将軍は、腰の剣を抜き放って一度顔の前に挙げ、すぐ剣先を斜め下の地面付近まで振り下げる「剣の敬礼サリュート」をエルンに行うと、黙って天幕を出て行った。

 

 前夜の爆発音の重なりがまるで嘘だったかのように、この天幕の周囲は静まり返り、今はわずかに鳥の鳴き声が聞こえるだけだった。

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