第二章 蘇る騎士たち(1)
☆連載第三回です☆お読みいただきありがとうございます☆明日月曜日、明後日火曜日も朝更新!☆29日祝日からGW中は朝夕二回更新予定です!☆ブクマ、評価をお待ちしています!
「おお、そなたはエルン殿の専属秘書官だったか。場にそぐわぬ女性が居るので不思議に思っておったが……。まあよい。それでなんじゃ?」
「直答をお許しいただきありがとうございます。わたくし、ネネ・レッドラインと申します。以後、お見知りおきを」
右の手のひらを左胸に当てて腰から上を傾ける文官の戦地礼をしてから、ネネは一同に向き直った。
「えっとですね、書記官の戦地における魔道情報の開示は魔道情報保護法で禁じられているんですよ。騎士団長閣下のお尋ねでもそれをバラすと、エルン様の首と胴が泣き別れになるんです。勘弁してやってください」
そう言うと、ネネはペコリと頭を下げる。
それを聞いたエルンは、口あんぐりだ。
(う、うそだろ? たしかにネネの言うとおりだけど、相手は騎士団長閣下だぞ! そんな言い訳なんか通用するワケが……)
「む、そうなのか? それは困る。この時節はコンプラは大事だ。エルン殿がいなくなっては次の書記官が着任するまで魔道記録が作れぬことになるからな。わかった、すまぬエルン殿、先ほどの質問は忘れてくれ」
(えーっ、通用すんのかーい?! 将軍閣下もコンプライアンスが大事?!)
内心、ひとりツッコミをするエルン。
思わずネネのほうを見ると「どうだ」みたいな顔で元の椅子にふんぞり返っている。それでも助かったエルンは、片手でネネを拝むポーズを見せ、窮地を救ってくれた秘書官に感謝を示すのを忘れなかった。
「……どこの分団も人的損失が非常に大きい。騎士団長閣下のご活躍があっても、これでは戦線を保つのがやっとです。このままではわが騎士団は早晩ジリ貧になりましょう」
ヴァイスハイト卿が騎士団の現状をそう総括する。たしかに各分団からは主力級の騎士の死亡の報告が相次いでいる。いずれエルンは、これらの騎士たちの死亡報告を書かねばならない。
(そんなにたくさん亡くなっているのか。とはいえ、不謹慎で申し訳ないけど『戦死者報告書』をたくさん書くのは結構大変なんだよな……)
「うーむ、勇猛な戦士がかなり死んでおる。ドラグナーにバハラム……なに、グリムウォールにノクスもか! 歴戦の勇者がこれほど欠けるとは……。せめてひとりやふたりでも蘇ってくれぬものかのう、このわしのように……」
「…………」
「せめてひとりやふたり、蘇ってくれぬかのう……」
「…………」
「せめてひとりやふたり、蘇って――」
「……あのう将軍閣下、私を見ながら同じ発言を繰り返されましても。私としても、その、困るのですが……」
「いやなに書記官殿、特に深い意味はないのだ。ただわしとしては、そうなると良いなー、すごく良いなーと思うだけでな。のう、コンラート殿」
「は、騎士団長閣下のおっしゃるとおりかと。そうなるとよろしいかと思います。いや、むしろ大変によろしい。書記官殿もそう思われるのではないかな?」
「…………」
集まった分団長や副官らも、お互い顔を見合わせて頷き合ったりしている。
その後は特段の意見は出ることなく、明日早朝からの反攻の段取りを決めてから作戦会議は散会した。
「くーっ! 将軍閣下のプレッシャー、きっつー!」
騎士団長や分団長らが各々の天幕に戻っていく中、前線司令部の天幕にはエルンとネネ、それにアンの三人だけが残っていた。
エルンはさっきまで将軍や分団長たちが座っていた会議用の大テーブルにバンザイの姿勢でうつ伏せになり、ストレスからか意味もなく頭をぐりぐりしている。
「なに、あの『ひとりやふたり、蘇ってくれぬかのう……』って。それをオレをじーっと見て三回も繰り返されてもさぁ……。あれ何ハラ? オレ、もうやだよー……」
将軍の気持ちはわからなくはないが、将軍が蘇ったのはたまたま。それもミスによるもので意図的に蘇らせたわけじゃない。そもそも意図的にそんなことしちゃダメなのだ。
この一件だけでも監察官に目を付けられるかもしれないのに、とエルンは頭を抱える。
「ねえねえエルン、もういっそのことさぁ騎士団長の言うとおり、死んだ人を復活させちゃったらどうよ?」
ネネが突然とんでもないことを言い出した。
「おまえ何言ってんだよ! そんなことしたらオレたちみんな確実に処刑だぞわかってんの? おまえもアンも一連托生なんだぞ?!」
「いや、だってさー、エルンすでにひとり死者を復活させて禁忌を破ってるわけじゃん? 秘書官辞めるーとかわたしも騒いだんだけどさ、よく考えてみたら何を今さら、って感じでさあ」
「まあ、たしかに……そうなんだけどさ……でも死者をもて遊ぶなんてダメだろ。どう考えても死者をボートクすることにならない?」
「どうせアウトなんだったら、死者の冒とくだろうと、禁忌を破るの一回だろうと十回だろうと、もう関係なくない?」
「う、うーん…」
「ネネ、よう言うた。今うちも同じこと考えとったんや。意外と気が合うなー」
「ハ、ハァッ?! アンもそっちに前向き?? みんな倫理観どうなってんの? なぜに?」
「そう、一回も十回も関係ない。うちもそう思たんや。それにな、それエルンにとってもいくつかメリットあるんやで」
「オレにもメリット、だって?」
アンはニヤリ、と笑った。その悪辣な笑みは、例えて言うなら越後屋がお代官様に小判のたっぷり入った菓子箱を手渡すときのようだった。
「まず第一に、エルンが『戦死者報告書』に書かなならん死人が減るっちゅうこと。復活した奴らがバルガス並みに活躍するなら、以降死ぬ人は確実に減るやろ。そしたらおまえが報告書を書く量は、めっちゃ減る」
「むぅ……」
「次に、バルガスには間違いなく大感謝されて、騎士団内でのおまえの評価はぐっ!と上がる。精鋭騎士団の団長の推しがあれば、褒美でも昇格でもなんでも思いのままや」
「ぬぬぬ……」
「三つめは、不死の騎士が何人も戦うんやったら、まず確実に戦いには勝てる。そうなればこの騎士団は救国の英雄になるっちゅうことや。その場合エルン、おまえは英雄中の英雄や。名誉はおまえの独り占めやぞ」
「ん、んふぅ……」
話を聞いているうちに、エルンはなんだか鼻息が荒くなってきた。モラル的にはどうかと思うが、アンの話に乗るほうが自分にとって良いのではないかと思えてきたのだ。
ネネの言うように自分はもう、一度は禁忌を破っている。これを監察官に指摘されればどうせ極刑は免れない。
ただ監察官と言えど所詮は帝国の官憲。もし皇帝がエルンを救国の英雄と認めたりすれば、監察官はエルンを処刑することはできないだろう。加えてバルガス将軍もきっとエルンを擁護するはずだ。
「ねえねえ。どうどう? やる? やっちゃう??」
「エルンよく考えや。一生に一度の大チャンスかもしれへんぞ。幸運の女神の前髪は掴めるときに掴まんと、二度と掴むことはできへんのやで!」




