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第十四章 反撃・反目・別れ(2)

「うおおおおっ! どけどけぇ、わしに近づくと吹き飛ばすぞぉ! 死にたくなければ道を開けろぉぉぉ!!」


 バルガス将軍は周囲の敵を怒鳴りつけながら、敵の中央軍団のど真ん中を切り裂くように進んでいく。

 

 将軍に近づいた者は、敵味方関係なくまとめて吹き飛ばされる。だから自然と味方は将軍の後ろに集まり、将軍を先頭にした紡錘形の集団となって敵に切り込んでいく。


「うぉらららららーーーっ!」

 バルガス将軍と相前後して、ドラグナーら四人の軍団長たちも全員復活している。


 こちらは「ぐにゃぐにゃ自動追尾」によるワイドスパン攻撃でそれぞれの方向から、中央だけでなく左翼・右翼の敵も切り崩し、敵を追い払っていく。


 他方、いまやロゴス軍の武器による攻撃は、帝国全軍にわたりまったく効かなくなっている。校正技『ルビ打ち』への切り返しで、帝国の騎士や兵士の鎧が「防御力:神(物理)」のチート装備になっているからだ。


「くそっ、何をやっている! 敵の主力は全員、死に損ないではないか! 特殊効果も消滅させたはずなのに、いったいどうなっておる! ゼブラはいったい何をしておるのか!」

 ロゴス軍の遠征軍総司令官ノモス・ベックは大いに苛立っていた。


 それはそうだろう。圧倒的に有利な兵力差があるうえ、帝国軍の魔力攻撃はゼブラが押さえ込む約束なのである。それが敵に攻撃力で押され、敵の魔力も抑えられていないのだ。


 ついにベックのいる司令部から、正面から迫って来るバルガス将軍の放つ火柱が肉眼で確認できる状態にまで至ると、司令部要員の間にも動揺が広がり始めた。


 それだけではなく、左翼と右翼からも「うわーっ」という鬨の声や剣や槍のぶつかり合う音が、刻々と近づいてくる。


「司令部護衛部隊は予備兵力と連携して、ここ司令部を守れ! あと、参謀長はどこだ!」

「はっ、ここにおります」


「敵の魔力攻撃に対する防御が芳しくない。状況確認のために『校正協議会』の天幕に行くぞ。着いてこい!」

「かしこまりました!」


「いや、少し待て……うむ、そう言えば人質がおったな……参謀長、人質を連れて来い。いっしょにゼブラのところに連れて行く。早く連れて来い!」

「はっ!」


 やがて参謀長に連れて来られたのは、シフォンによって『記録の尖塔群』から連れ出され、密かにロゴス軍の遠征軍司令部に引き渡されていたネネであった。


「…………」

「おお、エルンスト1等書記官の専属秘書官殿。いや『伝説の校正官』ゼブラ・レッドラインのご令嬢、とでも言うべきかな。わしはロゴス軍遠征軍総司令官、ノモス・ベックだ。お初にお目にかかる」

「…………」


「ほお、秘書官ならそれなりの挨拶はできるのかと思ったが、だんまりか。キサマ、自分の立場を弁えているのか」


「……騙して人を拉致しておいて、立場の、なんの、と言われる筋合いはないわ! さっさと放しなさい! ただじゃ済まないわよ!」


「威勢のいいお嬢さんだ。いつまでその強気が保つか楽しみだな。これから父親の前でたっぷり泣き喚いてもらうぞ。楽しみにしておれ!」


「えっ?……お父さん?……お父さんに、会えるの?」

 ベックの言葉を聞いたネネは絶句した。

 その表情は動揺しているようにも、喜んでいるようにも、また絶望しているようにも見えた。


「ハハハ……まさか、そんなとんでもない『注釈アノテーション』を打つとはな……ハハハ、敵も、なかなかやる」

 『校正協議会』の天幕でゼブラは大いに笑った。


 事実(Fact)としては死んでいても「本人の主観としては死んでいない」という奇想天外な注記に意表を突かれ、もはや笑うしかなかったのだ。


「校正官、笑ってる場合じゃありませんよー。敵さん、こっちの司令部にかなり近づいてます。うちの天幕も危ないですよ。どうしますか?」

 エンがさすがに、ややソワソワしてゼブラに報告する。


「ふむ……では仕方がないな。エン・ニョウよ、ご苦労だった。おまえの仕事はこれで終わりだ。コンセサスに帰って『校正協議会』に報告してくれ。ゼブラは敵すべてを消し去り、自分も消えたと」

「こ、校正官?! それって……」


「そんな顔をするものではない。おまえはよくやった。客観的に敵のほうが強かったのだ。ただ俺もそのままでは負けてはやらぬ。それが俺の責任の取り方だ」

「校正官……」

「わかったら直ちに退去せよ。命令だ」


「……校正官、いやゼブラ様。どんな形でもいいですから、何とか生き残ってくださいよ。そしてまた一緒に仕事しましょうよ。俺、戻ってくるの待ってますから」

「…………」

「じゃ、先に行ってます! また会いましょう!」

 そう言うとエン・ニョウはピッ!と敬礼をしてから、身を翻して天幕から出て行った。


「さて、マダム。おまえにも苦労をかける。魔道ペンのあるじを失わせてしまうことを申し訳なく思うぞ。拙い主人で悪いな……」

「いえ、ゼブラ様。お気遣いには及びませんわ」

 マダム・グロサリアは淡々としていた。


「ゼブラ様はおそらく、校正奥義『一括全消去デリート』を発動されるおつもりでしょうが、発動したからといって校正官が必ず消えるとは限りません。わたくしの知る限りでも何人かの校正官は生き残っています」


「ありがとう。わかっている。ただその確率は、極めて低いこともわかっているぞ。だからおまえも無理はしないでくれ」

「…………」

 ゼブラはグロサリアに釘を刺した。グロサリアは唇を噛み黙って俯く。

「さて、ではそろそろ始めるとしようか……」


 とその時。

「ゼブラ、いったいどうなっておるのだ! 敵の魔力攻撃を抑えられておらんじゃないか。『伝説の校正官』は名前だけか?! さっさと敵を葬らんか!」


 ベック将軍が怒鳴りながら天幕に入って来る。

 参謀長もいっしょだが、なぜだかもうひとり、若い女を伴っている。


「ベック将軍、不甲斐ない戦いぶりで申し訳ない。だがご心配には及ばぬ。これから今いる敵、すべてを屠ってみせよう。ただ、ここにいると将軍にも危害が及ぶ。この天幕からは退去してくれ」

「逃げるつもりか、ゼブラ」

 ベックは憎々しげにゼブラを睨む。


「何を言われる将軍。これから敵を殲滅する危険な校正術式を発動するのだ。ここにいると巻き込まれるぞ。早々に退去した方がよい」


「そんなことでは、わしは誤魔化されん。そんな術式があるのならとっくに使っておるだろうに。時間稼ぎをしてわしらを欺き、その間に逃げるつもりだな。そんなことは許さん!」


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