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第十三章 アカシックの戦い(4)

「よし、敵は怯んだぞ! 今こそ敵兵を蹴散らすのだ! 我に続けーっ!」


 『おさ』たちの出現で士気が下がったと見るや、帝国軍の軍団長たちは奮い立った。軍団長たちは敵という敵を斬りまくり、倒しまくる。


 もともと勇猛で知られるドラグナー、バハラム、グリムウォールらが本気で突っ込めば、大半の敵は粉砕される。


 軍団長の活躍で勢いづいた三つの軍団の騎兵たちが、軍団長に引っ張られるようにロゴス軍の大軍に突入し、当たるを幸い、周辺の敵を薙ぎ倒し、斬り倒す。

 

 三人の軍団長の活躍は圧巻であった。

 彼らが蘇ったときに、エルンが意識せず付与してしまった特殊効果――剣や槍がグニャグニャ曲がりながら敵を追尾する攻撃――は、いまだ健在。


 うっかり触れれば、追尾する相手以外の敵も倒してしまうワイドスパン攻撃に、ロゴス軍は見る間に数を減らしていく。

 

「特殊効果付与のある敵騎兵が、わが中央軍を蹂躙中。特殊効果は……なんか変な効果が付与されてますよ。狙った相手にぐにゃぐにゃした斬撃が追尾する、というヤツ。どうやったらこんな効果が付与できるんだろ?」


 長らく検字官を務めるエン・ニョウでも見たことのない種類の特殊効果が付与されていることに、ゼブラは内心、戦慄を禁じえない。


 エルンが倒れる直前に、偶然ぐにゃぐにゃの線を書いたことが特殊効果の原因とは、さすがのゼブラにも想像がつかなかった。

 

(この敵はこれまで戦ってきた相手とはまったく違う。戦闘に関する根本的な思想や哲学が異なり、攻撃の出方が読めぬ、わからぬ……危険だ、危険すぎるぞ、エルン・エルンスト!)


「ゼブラ様、次はどういたしますか? ご指示を」

 マダム・グロサリアがゼブラの指示を仰ぐ。


「……敵のうち、先頭切って戦っている三人、あの特殊効果を持った三人は捨ててはおけぬ。特殊効果の強制除去を行なう。校正名『二重線削除ストライクスルー』、あの三人の勇敢な騎士たちの特殊効果を除去せよ!」


「承知しました、ゼブラ様……『二重線削除』にて敵の主力三騎士の特殊効果を除去します……発動!」

 

 たちまち赤い二列の光が戦場を貫き、二列並行した状態で三人の軍団長を薙ぎ払うと、ドカン!という爆発音が響き渡る。


「なにっ? くっ! これは……身体が……動かん……」

 あれだけ敵兵をなぎ倒してきたドラグナーが急にその場に膝を付き、崩れ落ちる。


「おおっ、何だ? わからんが今だっ、敵の軍団長が倒れたぞ! 仕留めろ、仕留めろっ!」

 周囲にいた敵の騎士や兵が、ドラグナーが倒れるのを見て殺到する。


「う……うぬっ……」

 剣や槍が次々とドラグナーに突き出され、ドラグナーは防戦一方になるが、反撃する体力、気力がなく、抵抗できない。

 

 校正技『二重線削除』の発動により、ドラグナーからは不死という属性と、ぐにゃぐにゃの斬撃追尾という特殊効果の両方が削除されてしまったのだ。


 もはやドラグナーは蘇る前の満身創痍の状態で、かろうじて「防御力:神(物理)」のチート装備があるおかげで命を長らえている状態であった。


 バハラム、グリムウォールも同様で、その腹心の部下たちが必死に戦っているものの、少し前までの勢いはまったく衰えている。

 帝国軍はじわじわとロゴス軍に追い詰められ始めた。


「うらああああああああっ!!!」

 三人の軍団長が泥にまみれ、追い詰められる中、総騎士団長バルガス将軍の率いる精鋭の一団が、混戦の中になだれ込んで来る。


「帝国の者どもよ! ここが正念場ぞ! 戦え戦え戦えーっ!」

 ノクス率いる騎士連隊も負けじと敵を押し返す。

 バルガス将軍は炎属性をフルに発揮して、攻め入る敵をドカン、ドカンと派手に吹き飛ばす。ノクスは追尾斬撃で敵を倒しに倒す。


「『二重線削除』……発動!」

 非情にもここで、ゼブラとグロサリアの校正技『二重線削除』が再度発動する。

 赤い二列の光線が、今度はバルガス将軍とノクスの身を正面から貫く。

 

「なにっ?!……く、くそっ、力が……入らぬ……」

「お、おおぅ……なんだ……くぅっ……」

 赤い光線が貫いた瞬間、三人の軍団長と同様、バルガス将軍とノクスもあっという間に満身創痍となる。ふたりは並んでガックリと地面に膝をついた。


 わあっ!という声とともに、それを見たロゴスの騎士や兵が、たちまちふたりを取り囲む。総騎士団長の親衛隊や精鋭たちがなんとかふたりを救おうと激戦を繰り広げるが、ふたりの姿はもはや見えなくなった。


「バ、バルガス閣下!」

 『歪んだ空間』からその様子を見ていたエルンは、悲鳴に近い絶叫を上げた。


「バカな……バルガス閣下が倒れられた?! う、うそだろ!」

「これは……むっ」

 何かを言おうとしたアンが、一瞬ためらいを見せて言い淀む。


(おそらく敵は、校正技『二重線削除ストライクスルー』を発動して、エルンが蘇らせた騎士たちの特殊効果を消し去ったんやろうが……)


 気づかれぬよう、チラリとリリアの横顔に視線を送るアン。

(監察官は、エルンがバルガスを蘇らせ、炎属性を付与したことを知らんのやないか? 今ここで迂闊にそんなことを口にすれば……エルンがどうなるか……)


「これは……特殊効果を除去する校正技『ストライクスルー』ね」

「な、なんやと?!」

「え、『ストライクスルー』?」

 リリアの発言を聞いたアンとエルンが同時に叫ぶ。

(監察官、この技を知っとったんか? まさか将軍たちのことも……?)


「『ストライクスルー』は、魔力によって特殊な属性を付与された場合にその効果を消し去る技。書いた文字を二本の取り消し線で取り消すみたいに、発動時に二列の光線が出るのが特徴」

 リリアがさらりとエルンに解説する。


「実際に見たのは初めてですけれど、二度も見たらわかりますわ。はっきりと赤い二重の光線が見えましたもの、間違いない。そうでしょ? アン・アンサー」

「あ……ああ、そうやな」


「これでバルガス将軍たちに掛かっていた特殊効果は消えたでしょうね。鎧には幸い、エルンが『ルビ打ち』で返した「神」の効果が発動してるから、手傷は負ってないとは思うけれど……。これからどうするのエルン、アン?」


(まさか、わかっててエルンのやった特殊効果付与を見逃したんか……さすがルビチェック。『生ける断罪』の眼力には恐れ入る)


 密かにアンがリリアの凄さに舌を巻いたとき、そのリリアのほうから、可愛らしい声が聞こえてきた。


「あ、あの……リリアさま。その……急いでお知らせしたほうがいいかなっ?……って思うことがあって……。パピのお話、聞いてくれますか?」


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