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第八章 ねじ巻きとスイーツ(4)

「そうしたいのはヤマヤマですが、戦闘の停止を敵に伝達する方法がありません! だからといって戦わなければ、こちらがやられてしまいます。いったいどうしたらよろしいのでしょうか?!」


 そんなやり取りがエルンの耳に入った。

(はっ! もしかしてこれは……オレが今回の失点を回復する、千載一遇のチャンスなのではっ?)

 それまで『s』一文字のミスに落ち込んでいたエルンは、俄然奮い立った。


「バルガス閣下、ここはオレに任せてください! オレが必ず敵軍の侵入を防いでみせます!」

「おおエルン殿! 助けてくれるのか? 頼んだぞ!」

「はい、お任せください!」


「アン、もう一度『戦闘報告書』を使うぞ。魔道ペンをくれ!」

「どうするつもりや? 敵はかなりのスピードでこちらへ向けて移動中やぞ」


「……敵の進行方向手前に『砂の壁(Sand Wall)』を作って、こちら側への侵入を防ぐのはどうだ?!」

「よし、わかった。『デザート戦線(Dessert Front)』の手前八百メートル付近に、『砂の壁』を出現させるんや! 今度はうまいことやれよ?!」

「おうよ、任せろっ!」


「デザートせんせん、てまえ八百メートル。すなのかべ……」

 エルンは『戦闘報告書』の上で魔道ペンを必死に走らせる。もう少しで全てを書き終えるところまで来た時。


「……ちょっと、ちょっとどいてくれ! 通してくれ、意識不明の重体患者なんだ! そこを通してくれ!」

 そう言いながら後ろから割り込んできた兵士に押されて、エルンの肘に兵士の腕がコツンと当たる。

「あっ……」


 その拍子に『Sand』の『d』の文字のあとに、『a』と『e』と読めそうな瀕死のミミズの這い跡のような線が続き、その後に『Wall』という単語が書かれた。

 

「あ、あれっ? 『Sandae Wall』……って、書いちゃった……かも……?」

「サンデー・ウォールやて? 訳すなら『パフェの壁』っていう意味になるが……なんやそれ?」

「パ、パフェの壁……あー、なんかまたオレやらかしちゃった……かも……?」

 

 エルンが書き終えた瞬間、羊皮紙からはいつものようにカッ!と白い光が放たれ、ドゴーン!という大きな爆発音が戦場に響き渡る。

 本来なら、敵の突入を遮る砂の壁がその場に出現するはずだった、のだが。


 ズズズ……という大質量が滑り落ちるような音が空から響くと、黄色味を帯びたクリーム色の巨大な塊と真っ白で不定形なふわふわした塊が、雪崩れのようにゆっくりボタリ、ボタボタッ、ドサーッと敵の上に降り注ぐ。


 クリーム色の塊はバニラアイス、ふわふわした白い塊はホイップクリーム。

 さらには真っ赤な巨大チェリー、バナナの輪切りや大量のチョコレートソース、コーンフレークも相次いでどさり、ボタリと降り注ぐ。


「つ、冷たっ! か、身体がベタベタして甘い匂いがする! うわっ、目っ、目が開けてられんっ!」

「た、たすけてくれーっ! トッピングのチェリーが重すぎて……つ、潰されるぅ」

「コーンフレークのガサガサが痛い……そこにチョコソースがまろやかに絡みついて……もうイヤだぁ……」

 

 突入して来た騎馬連隊を中心とする敵の最後の精鋭部隊は、クリーム色と白と茶色の入り混じったドロドロとした半固体・半液体や、チェリーやバナナ、それにコーンフレークの混合物の中に次々と飲み込まれていく。


 精鋭部隊といえど、こんなとんでもない質量による飽和攻撃にはなす術なく、されるがままに甘く甘く包み込まれていったのだった。


 砂漠戦線の戦いは、歴史上類を見ない「パフェへの埋没」という恐るべき場面をその最終局面として、ここに決着を見せる。

 わずかに残っていた理法共和国軍の残存兵は、総司令官以下全員が完全に戦闘意欲を喪失、第二重装騎士団に無条件で投降した。


 いまや味方の騎士や兵士たちは、投降した敵兵の武装解除にてんてこ舞い。

 バルガス将軍は、ヴァイスハイト卿らの幹部とともに敵の総司令官との会見に臨んでおり、これまた多忙を極めていた。


 粉砂糖と化した砂漠の砂や、ガトーショコラと化したサレパランは、今はもとの砂や岩山に戻っている。

 パフェに埋没した敵の騎馬連隊も、埋まった砂から助け出されつつあり、大きな犠牲は出ていないらしい。

 

 自軍の犠牲者もこれだけの規模の会戦としては極めて少ない。人の出払った前線司令部の大テーブルに座り、『戦死者報告書』の記録業務をまともに終わらせることができたエルンは「ふぃーっ……」とため息をついた。

 その正面の席には、手のひらを自分の頬に当ててエルンの仕事ぶりをうっとりと眺めるリリアの姿。

 

「……死を象徴する砂漠に、生の謳歌の象徴であるデザートを。エルン、あなたはこの不毛な争いに『ティータイム』のような平和をもたらしたのね。……この事実は、私が最高にスウィートな形式で世に広めますわ」


(『最高にスウィートな形式』ってなんだよ? ……いやいやコイツにツッコんだら負けだ……ま、そうは言っても礼だけは言っとくか)

 

「リリア」

「えっ? は、はい」

(ええっ? な、なになに? 私のほうを真剣に見て呼び捨てにするなんて初めてのことじゃないの?……急になんなの! こんなのドキドキするじゃないっ?!)


「リリア……ありがとう」

(◯*◎△〜〜!!! ナニナニナニこれーっ!)

「……出撃直前、ネネを責任もって守るって言ってくれて、本当にありがとう。おかげで安心して戦いに臨むことができたよ」

「…………」


(なによ、アイツの話なの? あー、ドキドキして損したわ……)

「まあね。理法共和国に今回勝ったからって、簡単には『これから仲良くしましょう』なんて絶対ならないわ。だからレッドラインの末裔がいたら将来役に立ちそうだし、あなたにも恩を売れるからしただけのことよ」

 リリアはフン、と言って突っ張った。女の意地だ。


「あなたは素晴らしい。これからあなたは救国の英雄に祭り上げられるでしょう。でも気をつけて。ロゴス側は決して黙ってない。次の戦いがきっと起こる。そのとき、あなたが帝国の先頭に立って戦うことになるわよ」

「……オレが先頭に立ってロゴスと戦う? オレ、デビューしたての新米書記官だぜ? そんなわけ――」

 

「エルンスト2級魔道書記官殿! エルンスト書記官殿はおいでですか? 至急便で紋章院から帝都への出頭命令書が届いております! エルンスト書記官殿!……」


「ほら言ってる先から、さっそくお呼び出しのようね。ニューヒーロー誕生!というところかしら。帝都ではさぞ皇帝陛下がお待ちかねのことでしょうね!」

 

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