第六章 転戦(1)
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「エルン殿! 本当によくやってくれた。このバルガス、騎士団を代表して心より御礼申し上げる。貴官は我が騎士団の誇りだ!」
「え、え〜っと……いったい……何が起こっているんですか?」
前線司令部は今や歓喜の極みにあった。喜びに湧くバルガス騎士団長以下の分団長や副官、参謀が居並ぶ中、その中心に、周囲の様子にキョドっているエルンがいる。
その横では満足そうな表情のリリア、複雑そうな表情のネネ、そして退屈そうな表情のアンが顔を揃えている。
エルンの活躍のおかげで、第二重装騎士団は正面に展開した理法共和国ロゴス軍を粉砕。多くの敵騎士を捕虜とし、この戦線での戦闘は終結した。
逃げた敵兵を追ってドラグナーらの一団が追撃戦を継続している以外、騎士団の戦力は今はすべて、これから始まる戦勝式典のため、前線司令部付近に集結している。
「……ハッハッハッ。いやぁ今回、貴官には本当に驚かされたぞ! 皆が皆そう言っておる! ここだけの話だがなエルン殿、貴官の開戦以来の仕事ぶりは、すべて皇帝陛下にもご報告済みなのだよ!」
エルンを喜ばせようと、バルガス将軍が密かにエルンに耳打ちする。
「なっ?! オレの仕事ぶりはすべて、こっ、皇帝陛下にご報告済み、なのですか?! ……な、なんでそんなことを?!」
「うむっ。だからなエルン殿、この後を楽しみにしておかれよ! ワッハッハ!」
バルガス将軍の満足そうな顔。それに対してエルンは絶望のどん底に叩き込まれる。
(終わった……こんなミスまみれの仕事ぶりを、すべて皇帝陛下に報告されてるなんて……それも今回は間違いなくオレの独断専行……バルガス閣下の許可なしにやらかしてる……)
これは……間違いなく処刑だ。
エルンは震えあがった。いくら止めようとしても、ガタガタと沸き起こる震えがまったく止まらない。
(書記官の仕事は何ひとつ真っ当にできてない。おまけにこんなにミスだらけ……なぜだか『生ける断罪』の即決処刑はかろうじて免れてきたけど……)
これだけ派手なやらかしをすれば、普通は即決処刑されてもまったくおかしくない。本来ならエルンは、もうこの世とお別れしていたかもしれないのだ。
(わざわざ皇帝陛下にオレのことを報告するだなんて……実は将軍閣下、オレに対して相当怒ってたんだな……その閣下があんな満足そうな顔をしているのは……)
これは、間違いなく終わった、とエルンは口の中で呟いた。
そんなエルンの気持ちなどつゆ知らず、ヴァイスハイト卿が天幕の外へとエルンを促す。
「さあ、エルン殿! 騎士たちが待ちかねております。皆に応えてやってくだされ!」
(騎士たちが待ちかねてる、って……まさか実は、今から騎士たちの面前で公開処刑なのか?!)
もはや人の話などまったく耳に入らないエルンは、やむなくバルガス将軍の後に続いて、震えながら天幕の外へと出て行った。
天幕の外は、戦勝式典の始まりを待ち構える人、人、人……。
エルンが天幕の外へ出るや、第二重装騎士団の騎士たちや兵士たちが「うわーーっ!」と一斉に歓喜の声を上げた。
(この盛り上がりは……オレはやっぱり、公開処刑されるのに間違いなさそうだ……)
周囲を圧する騎士たちの声を聞き、エルンの心は真っ黒な絶望に塗り潰される。
「うおーーー! エルン様、ばんざーい!」
「書記官殿ーっ! 書記官殿こそ、我らが誇りよ!」
「バルガス閣下ばんざーい! エルン書記官ばんざーい!」
「エルン! エルン! エルン! エルン……!」
その声は、エルンにはすべて自分をののしる声、殺せ!と叫ぶ声に聞こえる。エルンは脚がすくみ、徐々に前に進めなくなる。
「まったくドン臭いヤツね……ちゃっちゃと、歩きなさい、よっ!……と!」
エルンのすぐ後ろを歩いていたネネが、エルンの尻を蹴り飛ばす。
「うっ、わわっ……とっとっと!」
勢いよく前に飛び出したエルンはバランスを崩し、前を歩いていたバルガス将軍の前に倒れ伏す。
「おや書記官殿、大丈夫か?」
帝国の中でも偉丈夫のひとりに数えられるバルガス将軍に「ぬっ!」と大きな手を差し出され、思わずバルガスを見上げたエルンは、もはや観念した。
(あ……オレ死んだ)
固まって身動きもしないエルンを見たバルガスは、襟首をつかんで軽々とエルンを引っ張り上げると、そのまま自分の肩に担ぎ上げた。その瞬間、騎士たちの歓喜が大爆発した。
「第二重装騎士団ばんざーい! ばんざーい!! ばんざーい!!!」
バルガスはエルンを片手で支えながら、反対の手を振って誇らしげに歓喜に応える。
それに対しエルンはバルガス将軍の肩の上で、ただただ真っ青な顔をして虚空を眺めてうなだれ、現実世界からひたすら逃避した。
式典が終わり、改めて騎士団の作戦会議が前線司令部で開かれた。各分団長、副官や参謀が顔を揃える中、騎士団長バルガス将軍から伝達が下る。
「われらが戴く至尊のガレリアス帝国皇帝、ギルガメス・ド・レキシカ1世陛下にあらせられては、わが騎士団の今次の活躍を高く賞賛され、更なる活躍の場を与えられた! これより我々は新たな戦線へ向かうぞ!」
オオーッ、という自信とやる気に漲った声が一同から漏れる。
他方、バルガス将軍のすぐ隣という上席に座らされ、もはや書記官というよりも作戦参謀のような扱いをされているエルンは、いまだ抜け殻状態を脱してはいなかった。
「なおエルン魔道書記官殿は、5級書記官から2級書記官に特進。引き続きわが騎士団に同行いただける、とのことだ。エルン殿、引き続きよろしくお願いいたしますぞ!」
「…………」
バシバシとバルガス将軍に肩を叩かれ、エルンは無言のまま身体をぐにゃぐにゃと揺らす。その様子を天幕の端からネネは心配そうに、アンはおもしろそうに眺めている。
なおリリアも引き続き騎士団に同行する旨発表され、引き続きエルンの監視がその目的とされた。
こちらについては「さっさと宮廷に帰ればいいのに」とか「監察官はエルン殿のあら探しをするつもりでは?」という呟きが囁かれたが、正面きってリリアに逆らおうと考える者は誰一人としていなかった。
「さて、次に我らが向かう戦場なのだが……」
バルガス将軍が面を引き締めて一座を見回す。その顔つきに各分団長、副官らの間にわずかに緊張が走る。
「これから向かうのは帝国の北東端、すなわち『砂漠戦線』である! 敵、理法共和国軍は残兵どもをかき集め『砂漠戦線』に一大勢力を築きつつある。『これを一掃して決着を付けよ!』との皇帝陛下のご命令である!」
オオーッ!という雄叫びとともに「やってやるぜーっ!」、「ロゴスの卑怯者どもに目にモノ見せてくれる!」、「ギルガメス皇帝陛下に勝利をお捧げするのだ!」という声が前線司令部の天幕に響き渡った。




