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第五章 エルン、本領発揮(1)

☆本日2回め更新です!☆さあ、いよいよ本格戦闘に突入! エルンがどんな戦いぶりを見せるか!☆明日5/2からも2回更新続きます!お楽しみに☆よかったらブクマ&評価よろしくお願いします!

 ノクスとグリムウォールに引っ張られるように突出した騎士たちはみな異変を感じていた。足元を何者かに捕らえられるような、泥沼に脚を取られるような、そんな感覚。


 目の前に展開している、黒一色に塗り潰された敵の重騎兵連隊に近づこうとするがなかなか近づけない。逆に敵軍は徐々に速度を上げながら、こちらへ接近しつつある。


「おいノクスよ、何か様子がおかしくないか?!」

 馬が前進する速度が極端に落ち、異変に気づいたグリムウォールがノクスに声をかける。


「グリムウォール殿もそう感じられるか……俺の勘違いでは無さそうだな……あっ!」

 ノクスの乗った騎馬の金属製のあぶみが何の前兆もなく、ボロッ……と崩れて落ちる。

「!!」


 危なく馬身を両脚で強く挟み、かろうじて落馬を堪えるノクス。ただ周辺の騎士の中には堪えきれずに落馬する者もいる。

 

「な、なんだ、これは……!」

 落馬した騎士が戸惑うように叫ぶ。

 見れば鋼鉄製の鎧の各部が粉々になって破損している。兜や面頬、槍の穂先などもボロボロ崩れている。


 ノクスの抱えていたランス(騎槍)もいつの間にか根元から崩れ、脱落した。

「鉄が……脆くなってる?! 軽く触れるだけで崩れるぞ! いったいどうなってんだ!!」

 ノクスのその叫びが聞こえたかのように、敵の速度が更に上がった。


 周囲では落馬が続出している。沓やハミが崩れ、騎馬が言うことをきかない。

 やむなく下馬し、敵に対して剣を抜くも、剣はボロボロと崩れていく。

 唸り声や恐怖に満ちた叫びが渦巻く中、重騎兵連隊は刻々と近づく。


 その様子を前線司令部の天幕で焦りながら凝視しているエルン。

「いったい何が起きてんだ? 騎馬が騎士から離れて勝手に走っていくぞ……騎士たちは何やってんだ? もはや敵が近い。武器で応戦しないと……」


脆化ぜいか呪印じゅいんは、あらゆる金属の結合を緩める。馬に付けとるあぶみとかハミなんかも、きっと粉々になっとるやろ。罠に嵌められたな……」

(剣や槍なんかの武器は使いものにならん。このままやと、みんな敵に撫で斬りにされるぞ……)

 

 見る間に、それまで濃厚だった紫色の瘴気は薄まり消えていく。

 後に残されたのは、ボロボロの鎧と途中で砕けた剣を構えた哀れな騎士たちの姿だ。


「くそっ! こうなると自分自身の力だけが頼りだな! ノクスよぉ、こりゃあ、地獄までの腐れ縁になりそうだなぁ……」


「グリムウォール殿よ、そりゃあお断りだ! 貴殿よりずっーと若い、このノクス様がここはなんとかしてやる。お年寄りの貴殿は、落馬したやつらを助けながら将軍閣下と合流してくれや!」


「……このバカノクス! 何を言うか! わしはまだ三十代になったばかりだと言っておろうが! そもそも居残りは年上の者の役目じゃ! 若造のおぬしこそ命大事に、周りの人間を助けながら下がれ下がれ!」

 

 天幕には声こそ聞こえないが、ボロボロの鎧で、先端が欠けた槍で、半ば崩れた剣で、騎士たちはなお、敵の重騎兵連隊に立ち向かおうとしている。


 その向こう、黒色の重騎兵連隊は怒涛の勢いで、ノクスやグリムウォールたちに肉薄するところまで近づいて来ていた。


「なんとか……誰かなんとかしてくれよ! ……リリア、あんた首席監察官なんだろ。魔力でなんとかならないのかよ……アンだって魔道のことは、オレよりずっと詳しいよな? なんとか、助けられないのかよ!!!」


「…………」

 誰も何も言おうとしない。

 エルンの中に、それに対する苛立ちと沸々とした怒り、そして悲しみが無いまぜになった激しい何かが、心の奥底から湧き上がる。


 ……と、その時。

 エルンに、とある考えが閃く。

 まさに天啓であった。

(……そ、そうだ! これなら……これならイケるかもしれない! オレはヤバいかもだけど……それでもみんなを助けられるなら、一回も十回も同じだ!)


「アン、『軍備補充申請書』だっ! 『軍備補充申請書』を準備してっ! 今すぐに!」

「え、そんなん今どうするつもり――」

「エルン! これを使いなさい!」


 リリアがどこからか羊皮紙を取り出す。エルンがサッと目を通すと、たしかに『軍備補充申請書』の書式だ。


「ありがとう、リリア!」

 エルンは『軍備補充申請書』を大テーブルに置くと、魔道ペンを手にする。彼は震える手で、支給品の武器リストに『剣』と『鎧』と書こうとした。せめて新しい剣と鎧があれば、彼らは死なずに済むかもしれない。

 

「エルン、まさか勝手に武器の補給申請を書くつもりなの? ここにはそれを許可できるバルガス将軍はいないのよ? 書記官の独断専行は重罪よ! わかってんの?」


 ネネが止めに入るのを無視して、エルンは『軍備補充申請書』に魔道ペンの震える先端を触れさせようとする。

(書かなきゃ……丈夫な鋼鉄の『剣』と『鎧』を、今すぐみんなに……!)


 叫ぶネネのすぐそばで、アンは冷静に状況を見極めようとしていた。

(さて……魔道ペンを手にしたからには、エルンは何か書くやろ。完全に独断専行や。そのときルビチェックがどうするか。まさか『軍備補充申請書』に書いた瞬間、現行犯で即決処刑やないやろな?!)


 アンはこの瞬間のリリアの表情を見ようと、リリアの方を振り返った。

「あ……」

 

(ふ……やっぱりか……ま、そうやろうとは思とったけどな……)

 リリアを見たとたん、アンは一目で状況を理解し、破顔した。


(監察官、しかし、その表情はなんやねん……)

 その時リリアは、両手を胸の前で組み合わせ、頬を紅潮させて、うっとりした表情でエルンを見つめていたのだ。


(あんた『生ける断罪』なんやろ? あんたのその顔、どう見ても単なる『恋する乙女』にしか見えへんのやけどw。草生えるわー)

 

(ああエルン、あなたはまた定められし残酷な運命に、その麗しい文字で反逆を書き加えようと言うのね……理屈ロジックではなく、情熱パトスで……)

 リリアは恍惚とした甘美な感覚に身を委ねていた。


(そんなあなたは、いま、誰よりも輝いているわ。そしてその反逆が、またしても奇跡を起こすきっかけになることを……私もまた信じているわ!)

 

 ついに、エルンの魔道ペンが羊皮紙にその先端を触れた。ペン先からインクが流れ始め、エルンの個性的な、飾らずに言うと極めて読みにくい、暴れるようなミミズ文字が、羊皮紙に定着してゆく。


(書くんだ……とにかく、書くんだ!……まず『剣』。剣はソードだ。次に『鎧』……は、なんだっけ……たしかアーマーだよな?……うん、これで、これでどうだっ!!)

 

 エルンがそれらを書き終えたとたん――「どぉーん!」という爆発音とともに、映像を映していた歪んだ空間がまばゆい光に包まれた。


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