scene67 認識
砦を包む煙と、王国軍の進軍。
その光景を前に俺は言葉を失った。
これまで信じてきた前提が音を立てて崩れていく。
勇者が勇者として戦うはずの相手が人の手によって倒されている。
その現実に俺の思考は混乱していた。
「言ったわよね。勇者は必要ないって」
混乱している俺の思考を引き戻すその声。
背後から聞こえたその声は振り返らずともわかった。
「ティア...こんなタイミングで出てくるとは...お前の仕業か?」
「私は何もしてませんよ。ただ...勇者が無駄だということが証明されつつあるのでお伝えに来ただけですよ」
ティアは視線を砦に向ける。
「無駄かどうかは、自分で決める。あなたが決めることじゃないわ」
ルナの鋭い声にティアが首をかしげる。
「不要だと思われtも、ですか?」
「おい...なんだこいつは...?」
レディアナが苛立ちを隠さず声を上げた。
ティアの視線が初めてレディアナに向いた。
その表情はわずかに揺らいでいるように見えた。
「...そうですか...認識してしまったのですね…自分が勇者であるという事を...」
ティアが静かな声で続ける。
「せっかく...人として...」
「せっかくとはどういう意味だ?」
レディアナの眉がより苛立ちをぶつけるように言い放つ。
レディアナの苛立ちにティアは答えず深くため息をついた。
「残念です...それでも本当に、あなたたち勇者は不要です」
ティアは視線を砦に戻した。
「人が...動き始めたのですから...」
その言葉と同時にレディアナが地を蹴った。
「待て」
掴みかかろうとしたその瞬間...。
ティアの姿は、霞のように消えた。
そこには何もなくなった。
レディアナは舌打ちをした。
「消えたぞ...あいつは...なんだ?」
俺は首を横に振る。
「わからん...ただ、勇者の敵だってことはわかる」
それが唯一わかっている確信。
俺は視線を砦に戻す。
「でもよ。わからない事を考える前に...さ」
俺は拳を握った。
「今目の前で起こってることを確認するほうが先だろ」
ルナが俺の言葉にうなずく。
「そうね」
砦では今なお煙が立ち上り戦いの音が聞こえている。
不要と言われようが何だろうが勇者として戦う。




