scene65 召喚
ログレスが深く長い息を吐いていた。
その吐息は諦めにも似た覚悟の色を感じさせた。
「本当に良いんだな...後戻りが出来なくなる...それでも良いんだなレディアナ」
その声は静かだが力強かった。
ログレスがレディアナをまっすぐ見る。
「知るために来た」
短くそれでも力強く答える
ログレスは目を閉じゆっくりと語り始めた。
◆25年前
王城の奥深く、重厚な石の間に巨大な魔法陣が描かれていた。
無数の魔法使いが魔法陣を囲み幾重にも詠唱を重ねていた。
空気は張り詰め、そこにはわずかな揺らぎすら存在していなかった。
王はその姿を少し離れた所から見ていた。
「今度こそ大丈夫であろうな?」
低く重い声が部屋に響く。
問いに答えたのは、若き日のナザエル。
その表情は好奇心を隠し切れない様子だった。
鋭いまなざしで魔法陣を観察する。
「はい...今回こそは...最強の勇者を」
儀式が進み魔力が収束していく。
空間が歪み魔法陣の光が増していく。
「……27人目の勇者を!」
魔法陣が眩く輝く。
光が弾け空間が裂ける。
そして、それは魔法陣より現れた。
沈黙、その場にいた誰もが言葉を失った。
王はゆっくりと立ち上がった。
「これは...どういう事だ…?」
王の視線の先にあったものは...小さな赤子だった。
鳴き声すら上げず、ただそこに存在していた。
ナザエルの顔が歪んだ。
「...失敗...なのか‥?」
王はその言葉には答えない。
ただ静かに赤子を見つめる。
そして...。
「…育てよ」
「…は?」
王の言葉にナザエルが素っ頓狂な声を上げた。
王は赤子を見つめたまま。
「我が子として育てよ」
誰もその言葉には背くことは許されない命令であり決定だった。
◆現在
ログレスの言葉は続いていた。
「その...赤子の名は...」
静寂とともに息を飲んだ。
「レディアナ」
思考が追いつかなかった。
俺もルナも言葉を失い、だだ、じっとレディアナを見る、
レディアナは何も言わない。
ただ深く何かを見つめていた。
しばらくの沈黙...風の音だけが聞こえる。
ルグレスが重い口を開く。
「知らないほうが良いこともある...そういう事だ」
「そうは思わんな」
ルグレスの言葉にレディアナが短く返す。
その言葉に迷いは感じられない。
「むしろ...腑に落ちた...どうりで王家の人間と気が合わんわけだ」
乾いた笑みを浮かべる。
「どこかで感じていた違和感...王家の中で相容れない何か...それが今はっきりと形になった。それだけの事だ」
「...大丈夫...なのか…?」
レディアナは一瞬目を閉じてから肩をすくめる。
「問題ない」
短い答えの中にわずかな揺らぎが感じられた。
ルナが静かに口を開く。
「勇者27号...噂には聞いていたけど...」
レディアナが横目でルナを見る。
「いい噂か?」
「悪くはないわ」
ルナは淡々tの答える。
その声に皮肉はなかった。
「そうか...」
レディアナはふっと小さく笑った。
「自分が何者なのか分るのは悪い気分ではないな。やるべきことも明確になったしな」
状況ははっきりした。
「勇者が三人そろってやることは変わらんな」
「相変わらず単純ね」
ルナが肩をすくめる。
「だが、それでいい」
レディアナが口元をゆがめる。
俺たちは自然と同じ方向を向いていた。
やるべきことは一つ...竜魔王を倒すこと、それだけだ。
何も変わらない。
俺たちは前に進みだした。




