scene64 沈黙
山奥...本当に山奥だった…。
「おいおい、こんなところに人って住めるのか?」
俺の率直な感想だった。
その道のりは厳しく、道なき道を行き、崖を登り川を越えた。
「すでに引退して仙人のような暮らしをしているはずだ」
「世捨て人じゃん」
「間違ってはないな」
レディアナは俺の言葉を否定しなかった。
こんな山奥の秘境に住む引退した魔法使い...楽しい会話が楽しめるって感じではなさそうだな。
深い森の奥...やっとの思いでたどり着いた。
人の気配が全く感じられない森の中にぽつんと朽ちかけた山荘がたたずんでいた。
俺たちはその前に立ち山荘を眺める。
風が木々を揺らし乾いた音を鳴らしていた。
ふと視界の隅に老人の姿が入る。
ボロ布のような衣服に髪も髭も伸び放題...ただの浮浪者のようにも見える。
これは、本格的に楽しい会話は出来なさそうな感じだ。
だが、レディアナは迷いなく老人に歩み寄っていく。
「魔族に...私の魔法が通じないんだが...」
静かだが声は鋭い。
「…何か知っているか?」
レディアナは老人の前に立ち。まっすぐに問いかける。
老人はレディアナをちらりと見ると小さく息を吐いた。
「さて…な。最近の世の中の事はよくわからんでな…」
「とぼけるな、ログレス」
老人の言葉にレディアナの言葉が鋭さを増し、空気が張り詰めた。
「…知って、どうする?その先に何がある?知らないほうが良い事もある。知らないほうがうまく行くこともある」
ログレスの問いにレディアナは即答する。
「何があるか、わからないから聞いている」
レディアナの声に迷いはない。
「無駄なだな...」
ログレスは鼻で笑った。
「知らなくて良い事は知らんほうが良い」
「良いかどうかは自分で決める」
レディアナは譲らない。
「レディアナも...勇者も...今は、おとなしくしているがよい」
「おとなしくとは、なんだ?何もせず魔族に屈しろとでもいうのか」
「そりゃそうだ。俺たちは勇者だ。魔族が目の前にいて勇者がおとなしくしてどうすんだよ。魔族と戦うのが勇者だろ」
俺の言葉にルナも腕を組みながら続く。
「そこまでは言わないけど...少なくとも、おとなしくする気はないわ」
俺たちの意志は明確だった。
前に進む。
前に進んで魔王を倒す。
それに対してログレスは深いため息をついた。
「…どうして勇者と言うのは、どいつもこいつも...」
呆れたように首を振る。
「ひどいバカだな」
「は?」
ルナが低めの声とともにログレスにつかみかかろうとするのをレディアナが止めた。
「まあ、勇者がバカかどうかは置いておいて...だ」
レディアナはさらに一歩、踏み込んだ。
「話してもらうぞ、ログレス」
ログレスはレディアナと視線を合わせる。
沈黙...。
森のざわめきが、やけにうるさく聞こえた。
やがてログレスは重い口を開いた。
「...知れば...もう元には戻れない」
その声は警告とも脅しとも違った。
ただその現実のみを伝える言葉だった。




