scene62 人の力で
ざわざわとした小さな揺らぎが起きていた。
そのざわめきは一瞬で火が付き広がっていく。
「ザハル様が!!」
「そんな......!」
「勇者だ...勇者がやったんだ!」
町の人たちの視線が一斉に俺たちを見た。
その顔は...声は、決して感謝の色じゃはない。
「勇者を殺せ!!」
その声は憎悪に満ちた怒号。
ジョンは俺の耳元で低くつぶやいた。
「勇者様...どうやら逃げたほうがよさそうです」
「…確かに...ヤバイ状況だな」
「あなたたちはどうするの?」
サーヤとジョンは顔を見合わせ、すぐに答えた。
「俺たちも逃げます」
「ここに残ったら、ただじゃ済みませんから」
「そうだ勇者様この剣持っていてください。せめてものお礼です」
ジョンは俺に自分の剣を握らせた。
「ありがとうございました」
それだけ言うと、二人は人込みの中へと紛れていった。
群衆が押し寄せる中、俺たちは一斉に走り出した。
石畳を蹴り、路地へ飛び込み、追跡を振り切るように走った。
町の外れまで走り、ようやく足を止めた。
呼吸を整えながら空を見る。
確かにザハルは倒せた...倒せたけど...。
「俺たちの力じゃない」
俺のつぶやくような声にルナが静かに続ける。
「そうね。少なくとも勇者の力じゃなかった」
「魔族は人の力で...か。結果としてフレグラの言うとおりになったな...」
レディアナは腕を組み、考え込んでいる。
ルナは何も答えない。
ただ、視線を落とした。
レディアナがぽつりとつぶやく。
「あの二人...無事に逃げられてるといいが」
俺は即座に答えた。
「大丈夫だろ。だって俺たちが倒せなかったザハルを倒したんだ。あいつらなら、やれるさ 」
「…人の力で魔族を倒す…」
ルナが小さく繰り返すその言葉には、わずかだけど揺らぎが感じられた。
確かに俺たちには出来なかった。
それでも...。
「うーん、まあ、良いんじゃないか?俺たちが倒そうが、人が倒そうがさ」
「…まあ、そうなんだけど...」
ルナが小さく息を吐きながら、完全には割り切れないという表情をする。
…が否定もしなかった。
「まあ、考えてもしょうがねえよ。俺たち勇者はやる事は一つしかねえんだ。
さあ行こうぜ。次だ次!」
レディアナが笑っていた。
「そうだな。立ち止まってても仕方がない」
ルナが肩をすくめながら、前をむく。
「あなたは単純ね…」
その口元にはわずかな笑みがこぼれていた。
勇者という不安定な存在を、その意味が揺らぐなかでも俺たちは前に進み続けるしかない。




