scene61 武器の町
無数の刃が集束し襲い掛かってくる。
..体制を崩した。
完全に逃げ場を失った。
「セイ!」
レディアナの叫び声。
ここまでか...。
その瞬間だった。
__ザッシュッ。
鋭く、しかし肉が切れる確かな手ごたえの音。
ザハルの動きが止まっていた。
…?
視界の端にザハルが見える。
そのザハルに剣が突き立てられていた。
生贄になるはずだった女、サーヤはその手に持った剣をザハルに突き立てていた。
ほんの一瞬、だが確実に動きが”止まった”。
そのザハルの背後に男の影が滑り込んだ。
「ジョン!」
ジョンがザハルの背後で剣を振りぬく。
__ゴトリ。
巨大な首が、宙を舞い地面に落ちた。
静寂。
さっきまで荒れ狂っていた剣の嵐が、糸が切れたように地面に落ちていく。
乾いた音が響く中俺は状況を呑み込めなかった。
「これは...どういう…?」
息を切らしながら、ジョンは剣を握ったまま振り返った。
「勇者様...助かりました」
ジョンの顔には安堵と達成感が感じられた。
「…ふーん...そういうこと...ね」
ルナが目を細め二人を見る。
「生贄になるつもりはなかった...てことか」
レディアナが腕を組み呆れたように笑った。
サーヤは剣を引き抜きながら肩で息をする。
「ええ...絶対に彼が...ジョンが何とかするからって、隙を見てザハルを倒すからって...ふたりで決めてたんです」
ジョンはその言葉に苦笑する。
「…とは言ったものの、隙なんて全然出来なくて...」
サーヤが俺たちを見る。
「それでも、勇者様たちのおかげで...やっと隙が生まれました」
俺はしばらく茫然として言葉を失った。
「…利用されたのか...俺たち」
そして振り絞って出てきた言葉だった。
「...って言うかよ。ザハルだぞ?魔王軍十傑だぞ!そんな簡単に倒せるもんなのかよ」
ジョンは剣を見つめて静かに答えた。
「簡単ではありませんでした...だからこそ、この日の為にこの剣を、鍛えてきたんです」
「この町は武器の町ですから」
サーヤがうなずく。
俺は二人を見比べ眉をひそめた。
「いや...じゃあさあ、”生贄”は光栄って言ってたのって…」
「そんなことあるわけないじゃないですか、だって死んじゃうんですよ」
サーヤは一瞬きょとんとした後はっきりと言い切った。
「まあ、町の為にフリぐらいはしますけどね」
ジョンも肩をすくめはっきりと言い切る。
あまりにもあっさりとした答えに気持が付いていかない。
一回大きく息を吐く。
「‥‥なんだそれ...俺いらないじゃん」
一気に気が抜けその場に座り込んだ。
無数の剣の中で倒れているザハルを見た。
ザハルは人の手によって倒された。
「勇者じゃなくても...倒せる」
ルナが静かにつぶやいた。
「フレグラの言っていたこと...あながち間違いでも無いのかもな」
レディアナが小さく笑う。
俺は何も答えなかった。
倒れたザハルを見つめていた。
勇者じゃなくても...じゃあ勇者って何なんだよ。
自分の存在がより不安定になっていくのを感じた。




