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無資格勇者  作者: 南蛇井


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54/60

scene54 存在の概念

俺は本気だった。

完全に消し炭にしてやる。

手をかざして、呪文を紡いだ。

魔力を練り上げる。

全力だ。

全力で炎を出す...しかし何も起きない。

炎は生まれなかった。

俺の出した魔力はその存在を消され、なかったことになった。

「くそっ...出ねえな」

「だから言ったでしょう?35号あなたは私にすら勝てない。」

フレグラがゆっくりと歩み寄ってくる。

「この世界で、あなたは無力」

無力...その言葉が俺の心に鋭く突き刺さる。

ルナは視線を落とし何かを思案してるようだったがふと口を開いた。

「魔族は...この魔法を知っているということかしら」

その質問にフレグラは首をわずかに傾けた。

「”知っている”......というより...」

フレグラの瞳にわずかな愉悦が浮かんでいた。

「正確には...この魔法…」

魔法陣が、さらに強く脈動し部屋全体を震わせていた。

「魔族固有の魔法よ」

「魔族固有だと...?」

その一言の重さ...。

ジャンガル戦での無効化

力の遮断。

背筋に冷たいものが走る。

すべてがつながっていく。

「...つまり...最初から俺たちは…竜魔王には...」

絶望という感情が押し寄せてくる。

「ええ、そうよ。勝てないわ」

フレグラが言葉を続ける。

「あなたたちの力は魔王には...無効」

無効という言葉が俺の心に重くのしかかる。

じゃあ何のために俺は...ここに...。

「そもそも、無効化の魔法は、魔族のものよ」

フレグラの言葉にルナが、小さく息を吐いた。

「なるほどね...」

視線を伏せ、何かを思案するようにつぶやく。

「だから...歴代の勇者が魔族に倒されてきたわけね」

「理解が早くて助かるわ。賢いのは嫌いじゃない」

フレグラは満足げに微笑みルナを見る。

「それで?研究の成果は?」

「…まだ途中よ」

静かに言いながら宙に魔法陣を描く。

「だけど...一つだけわかったことがあるわ」

「それは?」

ルナの問いに、フレグラは俺たちを二人を交互に見ながら答えた。

「あなたたちが…”人間ではない”ということよ」

空気が止まり言葉に詰まった。

「なっ…何言ってんだよ!どう見ても人間だろうが!」

俺は声を荒げながら全身を前に出した。

「そうだな。こいつらが人間じゃないとしたら、何だというのだ?私と何にも変わりがないぞ」

レディアナも即座に反論をする。

だが、フレグラは首を横に振る。

「人間なのは見た目だけよ」

ルナは目を細め慎重に答える。

「...構成する物質が違う...と言うことかしら?」

「その通りよ」

フレグラは即答し言葉を続ける。

「あなたたち二人は、人間とは異なる物質...構成要素で出来ているのよ」

構成要素だと...?まったく納得がいく回答ではなかった。

「ふざけるなよ。俺だってちゃんと人の親から生まれてるんだぜ。何が構成要素だ!」

「転生前は…ね」

フレグラの冷静な返事は俺に次の言葉を出させなかった。

「あなた...どうやってこの世界に来たのかしら?身体は?魂は?」

「…それは…」

その問いに対しての答えを俺はもっていない。

どうやってこの世界に来たのか?

気が付いたらこの世界にいた。

記憶はある。

だが今の俺とのつながりを証明するものは…ない。

記憶の俺と今の俺…それが同じである事の証明...それをする事は出来ない。

「回りくどいのはいいわ。結論を言って」

ルナが苛立った声で口をはさんだ。

「今...楽しいところなのに...せっかちね」

フレグラは軽く肩をすくめる。

「あなたたち勇者...それは異世界の”意識”だけがこの世界に来ている存在、精神体...あるいは概念に近いもの...」

魔法陣が光り淡い球体を浮かび上がらせる。

「その意思を、この世界の”魔素”が具現化している...つまり、あなたたちは”作られた存在”なのよ」

作られた...だと...。

「だったら、俺はなんなんだよ」

フレグラはよどみなく答える。

「そうね...魔力の塊、言ってしまえば、魔族に近い存在ね」

「俺たちが...魔族だと…!?」

自分で発した言葉が心に闇を灯す。

「そこまでは言ってないわ...近しい存在...同じ原理で存在しているという事よ」

「だとして...この空間で力が使えないのは、なんでかしら?」

ルナの問いはもっともだ。

受け入れがたい事実が事実だとしても力が使えない理由にはならない。

使わせないメリットも感じない。

「”資格”よ」

フレグラは迷いなく答えた。

「この世界に存在する資格...この光の中では…この世界に”存在する権利”を持つ者しか力を使えない」

「…ということは、つまり?」

「魔族に対して、勇者は無力」

ルナの顔が険しくなる。

フレグラの出した結論が俺たちに重くのしかかる。

「マジか...じゃあ俺はなんでこの世界にいるんだよ」

俺の問いに対して誰も答えなかった。

そこに答えが無いのかもしれない..そのことが不安感をあおり、足元がぐらついていくのがわかる。

少なくとも、俺は俺が思っていた”人間”では無い...。


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