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無資格勇者  作者: 南蛇井


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55/59

scene55 勇者不要

視界が揺れていた。

頭の奥で、何かが崩れ落ちる音が響く。

…俺は、何なんだ。

その問いが、やけに重く胸の中に沈んでいく。

誰も答えられない問い...。

膝から崩れ落ちそうになる自分を必死に支え自分の手を見下ろした。

「…なんだよ…これ…」

俺の指先が失っていく自信と同様に薄く透けていた。

輪郭があいまいに揺れるその様子は、この世界に定着していない勇者そのもののようだった。

「どういう事だ...?消えて...」

かすれた声が漏れていた。

声そのものも存在と一緒に消えてしまいそうだった。

「だから言ったはずよ」

フレグラが淡々と答える。

その表情はどこか冷静でいて淡々としている。

そこに存在しているはずの感情すら感じさせなかった。

「そもそも、あなたたちはこの世界に存在する”資格”を持っていないのよ」

存在する資格がない...その言葉は俺の心に深く重く突き刺さり、感情をえぐり取る。

結局、俺はこの世界には存在してはいけない...そう言われた気がした。

「...王家は勇者を完全に消し去るつもり...?」

ルナが必死に言葉を続ける。

「勇者の力が不要だとでも...」

その言葉にフレグラは首を横に振る。

「まさか...」

その言葉と同時に杖を天に掲げる。

魔法陣が消え、空間を満たしていた光が消えた。

それに合わせて消えかけていた俺の体が元に戻る。

揺らいでいた輪郭がもとに戻り現実へと引き戻されていく。

「...戻った...のか?」

存在が戻っていくのを感じる。

手を握ると確かな感触を感じることが出来た。

ルナも自分の体を確認して小さな息を吐いていた。

「これでわかったでしょう?」

フレグラの言葉はどこまでも静かだったが、その言葉に奥に、わずかだけど確信と優越が感じられた。

「勇者では魔王を倒せない。魔族に対して無力」

「…にも関わらず、人々は勇者に対して期待するばかりで、自分たちでは何もしなくなる」

一つ一つ、現実を積み上げるように俺の心の中に言葉が落ちてくる。

「勇者は...人々の成長を止める”害悪”でしかないのよ」

「……だからって...だからってさ…」

反論は出なかったそれでも俺は声を振り絞った。

「勇者の力を無効化する必要はないだろ!」

フレグラは目を細め俺を見ながら答えた。

「証明する為よ...勇者が”不要”だと言うことを...人の力で魔王を倒す為に、人が資格を取り、力を得て、自分の足で立つために...必要な事よ」

その言葉に狂気は感じない。

そこにあるのは確固たる信念...一切の否定を許さない決意、それだけだった。

「前王のように、勇者に頼るやり方は間違っているのよ」

その言葉に俺は血の光景を思い出していた。

あの時救えなかった命、守れなかった王。

何も出来ず逃亡者となった自分。

「それでも...勇者の力なら世界を平和に出来るはずだ」

フレグラの表情は揺るがない。

「無意味よ。人の力によって作られた平和でなければ意味がないわ。そこに人の意志が無ければ本当の平和とは言えないわ」

「俺だって...俺だって人間だ」

「いいえ違うわ...勇者は人ならざるものよ」

それ以上否定が出来なかった。

ルナもまた、何も言わない。

事実、人ではないという事、勇者が必要とされていないと言う事実だけが、そこにあった。

俺たちは無言のまま城を後にする。

頬を撫でる風が冷たいはずなのに、どこか遠くで起きている出来事のようだった。

俺は...何なんだ...。

勇者...異物...魔族...それとも”ただの間違い”なのか...答えは出なかった。


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