scene51 裏切りの価値
王城を抜けた俺たちは夜の町に身を紛らせていた。
喧噪の中に紛れれば、追手の目も多少は鈍ると考えたからだ。
でも...さすがに気が重い。
フレグラが展開したフィールド...あの中で俺は無力だった。
その事実は大きい。
どこかで俺の力なら何とかなると思っていた...それが完全に打ち砕かれた感じだ。
「何も出来なかった...」
思わず言葉に出た。
「そうね」
ルナも否定しない。
「でもね。現象には何かしらの原因があるのよ。資格制御装置と一緒よ。あの魔法が何に作用して無効かしているのか...それがわかれば打開できるわよ」
「わかれば...な」
レディアナの声は暗い。
「資格を持っているルナが無効かされるとなると今のところ思い当たるものがないぞ」
「何か思い当たるものないの?姉妹でしょ」
「ないな。あいつとは気が合わない。魔法オタクだったから何らかの魔法であろうことは想像できるが...」
「今のところ打開策なし…か…」
俺は深いため息をついた...その時、人混みの中に見覚えのある顔があった。
俺は足を止めた。
「…ギブス?」
そこには、かつて共に戦った男がいた。
だが、その姿は変わり果てていて俺が知っている男ではなかった。
質のよさそうな衣服に装飾の施された装備。
背後には、数人の部下を従えている。
別人...?
いや...あの顔は...。
俺は無意識に歩み寄っていた。
「ギブス...」
呼びかけたが、男はしばらく気が付かなかった。
しばらくの間...ふと男の視線が俺に向いた...。
「ん、ああ...無資格の...」
完全に興味がなさそうだった。
目を細め怪訝そうな顔で俺を見た。
「なんだ...生きてやがったのか」
「は?生きてやがっただと...?これは。どういう事だ!」
声は抑えたつもりだった。
それでも、怒りは隠しきれていないのが分かった。
ギブスは肩をすくめ、軽く笑った。
「資格がよ。資格が手に入ったんでな。しっかり金を稼がせてもらってんだ」
資格?
「その資格...どうした?」
一歩詰め寄った。
「さあな」
ギブスは視線をそらした。
その曖昧な返答が、疑惑を確信に変えていった。
「…売ったのか...仲間を売ったのか?」
怒りがあふれだしていた。
「まあ...資格の為にな」
ギブスは、あっさり認め言い放った。
その一言で俺の中ですべてが崩れていく。
「お前のせいでニールは...仲間たちは...!」
「知らんな、そんな奴は」
ギブスの視線が宙を仰ぐ。
ひどく軽い否定...その瞬間俺の中で何かが弾けた。
ギブスの胸倉をつかみ上げる。
「てめえ…!」
拳を振り上げ叩きつけようとした右手は2つの手に止められた。
ルナとレディアナが同時に俺の腕をつかんでいた。
「こんなところでやるな!」
我に返ると周囲の視線が一気に集まっていた。
ざわざわとしたざわめきが広がっていくのがわかる。
「これだから無資格は暴力的で困るぜ」
ギブスは俺を見て鼻で笑い、周囲に聞こえるように大きな声を出す。
「真面目に暮らす一般市民に手を出すなんてよ。通報しないだけでも感謝してもらわねえとな」
「なんだと...!」
あふれ出す怒りの感情が押さえつけられない、俺はギブスにとびかかろうとしていた。
レディアナは俺を必死に押さえつけていた。
「やめろ!通報されたら終わりだぞ!」
かろうじて踏みとどまったが町の人々の視線は冷たかった。
疑念、恐怖、そして...軽蔑。
俺は歯を食いしばり、拳を振るわせた。
それでも、何もせずにその場を離れるしかなかった。
ギブスに背を向け一歩また一歩と離れていく。
後ろからギブスの笑い声が微かに聞こえていた。
ギブス...あいつだけは...絶対に...。
胸の奥で怒りの炎が静かに燃える。
より黒く深く心の中で燃えていた。




