scene23革命の渦
地下の酒場の奥には、さらに扉があった。
ニールは躊躇なくその扉を押し開ける。
石造りの小部屋。
粗末な机と椅子、壁には古い地図があった。
灯りは魔法石ランプが一つ、淡く光っている。
その光の奥に数人の男女...お世辞にも品がよさそうには見えない。
ガラの悪そうな人たちだ。
「連れてきたわ」
ニールの声に全員の視線が俺を見る。
ざわめきと鋭い視線にちょっと身構えた。
「そいつは...まさか...?」
「本物か?」
若い男性が立ち上がり近づき俺の顔を覗き込む。
「本物...?」
「無資格勇者…」
「やめてくれそんな大層なものじゃない、ただの無資格だ」
ニールが俺を一瞥し説明する。
「彼がセイ...例の勇者よ」
ざわめきが大きくなり、みんなの表情が変わる。
疑いの声、期待の声が入り混じっていた。
やがてその中ざわめきの中から、一人の男が俺に近づいてくる。
背は低いががっしりした体型で、ただそこにいるだけで威圧感を感じた。
「俺はギブス、反資格レジスタンスの一員だ」
そう言いながら武骨な手を差し出してきた。
俺はそれを握り返す。
「ようこそ、地獄へ」
周囲から苦笑が漏れていた。
それでもどこか温かみを感じる空気。
酒が回っているものもいる。
肩を叩いてくるものもいる。
「家族を資格で殺されたんだ」
「無資格ってだけで全然仕事がねぇんだ」
「子供に薬を飲ませる薬も買えなかった」
それぞれが事情を語っていた。
そのどれもが今の資格制度のゆがみを感じさせるものだった。
「俺はよ...金がねぇんだよ」
ギブスが笑いながらぽつりと言った。
「資格がねぇからよ。金を稼げねぇんだよ」
その目は笑っていなかった。
「だからよ母親の治療も出来ねぇんだ。
医療資格がある医者に頼む金も資格もねえんだ。
ただ弱っていく親を見守る事しかできねぇ」
ギプスは拳を握り苦痛の表情を浮かべていた。
そうだ、この世界は間違っている。
理不尽で不平等で救われない世界…俺は...認めない。
「それで俺に何をさせる気だ」
ニールを見た。
机の上に地図を広げ地図の一点を指さした。
「資格制度を破壊するわ。
その為に宰相ナザエルを倒す」
「ナザエルを倒しても資格制度はなくならない。
大した意味がないんじゃないか」
ニールは、うなずきながら答える。
「ええ...確かに変わらないわ。
それでも...変えていくことは出来る」
「…確かに...」
きっかけにはなるかもしれない。
小さく息を吐き、いったん外した視線を戻す。
「俺もナザエルには貸しがある」
王城を脱出した時、不敵な笑みで笑っていた男。
あの冷たい目。
自然と言葉が強くなる。
「だけど、倒すといっても、どうやって倒す。
王城は兵が多すぎる。流石に兵を殺さずにナザエルの所にたどり着ける気がしない
出来れば俺は無関係の兵を殺したくない」
ニールが小さく笑った。
「優しいのね。
大丈夫、あるのよ。王城に入らずにナザエルを倒すチャンスが」
ギブスが前に出て地図の一点を指さす。
「ここだ。地方都市ドエル。
来週、ナザエルはここに視察に来る」
「視察?こんなところにか?」
「そうよ。資格制度をさらに強固なものにする為、重要な何かが開発されたらしいわ
それを確認しに来るらしいとの情報が入っているわ」
「その情報大丈夫なのか?」
「ギブスの情報よ。当てにしていいわ」
「おう、信頼できる情報屋からの情報だ。まちがいねえ」
「なるほど...情報が確かだとして、警備だってそんな手薄じゃないはずだ」
ギブスはにやりと笑い拳を握る。
「だがよ。城にいる時よりは確実に手薄だ」
確かに手薄、それでも...大勢の死人が出るかもしれない。
「うまくいくのか?」
ニールは迷わず答える。
「いかせるのよ。
誰も死なせない。その為に、あなたの力が必要なんじゃない」
ニールの視線が俺の正面に来る。
地下室の灯りが揺れ、影が揺らめく。
ナザエルの暗殺...この世界を変えるきっかけになるのだろうか…。
何も変わらないかもしれないという不安、今度こそ人を殺してしまうのではと言う恐怖。
入り乱れた感情の中、俺は革命の渦の中に踏み込んで行く。




