Scene22 成立
ニールと言う女性...まだ完全に信用はできない。
それでも他に行く当てがあるわけじゃない。
このまま、一人で逃げ続けてもいずれ限界が来るのは確かだ。
俺は黙ってニールの後を追う事にした。
町の外れ、崩れかけた倉庫の裏に着くと、ニールは躊躇なく石畳の一角を蹴る。
重い音を立てて床がずれる。
そこには地下へと続く階段があった。
「こんなところに...」
「良い場所でしょ?こっちよ」
俺はニールの後を追い階段を下りていく。
ひんやりと湿った空気の通路。
薄暗い中を進むと、突然、灯りが広がった。
そこには......酒場があった。
古い木製カウンター。
粗末な丸テーブル。
酒瓶が並ぶ棚。
そして、数人の客人。
誰もがフードを被り、静かに酒を飲んでいる。
「......魔法は無資格なのに、酒を飲む資格は持っているのか?」
ニールは鼻で笑った。
「そんなものあるわけないじゃない」
椅子を引き座るように促しながら言う。
「資格なんて取らないわよ」
俺は周りを見回す。
「無資格で飲んだら即、通報だろ。大丈夫なのか?」
カウンターの奥から、白髪の男がグラスを磨きながら答えた。
「問題ない。俺だって無資格だ」
「資格なんて持っていたらこんなところにいないわよ」
ニールの言葉にマスターは肩をすくめた。
「それにここは結界が張ってあるわ」
ニールは天井を指さす。
「奴らの資格監視システムはここでは機能しないわよ」
俺は唖然としながら天井を見ながら自然と笑みが浮かぶ。
「マジか...」
俺は椅子にドカッと座る。
「久しぶりに飲めるって事なのか?」
「そうなるわね」
ジョッキが二つ置かれる。
黄金色の泡。
俺はそいつを掴んで、一口飲んだ。
喉を、冷たい感触が通る。
「……っはあ!うまい!」
自然と笑ってしまう。
このまま、心行くまで飲み続けたい気分ではあったが…。
「...で本題だ」
「そうね」
「資格制度を壊すって言っていたけど、具体的には...どうやって壊す?」
自然と声は低くなっていた。
「奴らの監視システムは、完璧に近い...俺も最近は行動範囲が限られている」
ニールはゆっくりと酒を飲みながら静かに答えた。
「そうでもないわよ」
ニールは指でカウンターを叩きながら
「スキはあるわよ...現に、この場所が存在しているわ」
「確かにそうだが...」
そのスキが致命的なものとは考えにくい。
「でもな...」
ニールの俺を見る目が鋭くなった。
「今の腐った資格制度を破壊する」
はっきりと言う...。
確かに言っている事は正しい...それでも...。
「その為に...宰相ナザエルを倒す」
「しかしな、ナザエルを倒しても資格制度はなくならないだろ。
しかも……無くしていいのかどうかもわからん」
ニールは首を横に振った。
「なくなりはしない」
まっすぐな瞳で俺を見つめる。
「それでも...今より少しだけ...いい方向へ持っていけるはす」
そっと差し出された手。
「協力してほしいの」
すぐには返事が出来なかった。
酒場のざわめきが遠くに聞こえる。
老人の遺体。
泣き崩れていた夫婦。
死ぬ資格、呼吸する資格。
資格がないゆえに生きづらい思いをしている人々。
……確かにこのままで良いわけがない...こんな世界...。
拳をゆっくりと開き握手を交わす
「…わかった...協力する」
「成立ね」
ジョッキをもう一度持ち上げ一気に喉に押し込む。
(確かに今の資格制度は最悪だ...このままで良いわけがない)
ジョッキを置きにニールを見る、
(この世界...少しでも良くできるなら...)




