Scene21 無資格の魔法使い
反政府、反資格、その言葉は心に深く刻まれていた。
俺は王都を目指した。
街道を進む中、何度も足を止める。
無資格での歩行を検知され連行される老人。
無資格で発生したとして拘束される子供。
無資格で労働したと罰せられる男。
そのたびに俺は影より現れ、拘束を断ち切り、姿を消していった。
気づかれないように...名前を名乗ることもない。
だが噂は広がっていた。
ーーー無資格を救う勇者として。
同時に、資格制度を破壊する賞金首として。
街の壁には似顔絵が貼り出され、報奨金の金額は日に日に吊り上がっていた。
それでも俺は止まらない。
王都外縁の町について早々だった。
石畳の上、空に浮かぶ水晶柱が赤く光る。
警告音が鳴り響き、空を響かせる。
やれやれ、また誰かが”無資格”で何かをやらかしたようだ。
俺はフードを目深に被り、気配を消す。
人波に紛れ、音の中心へと移動する。
「いたぞ!無資格の魔法使いだ」
怒号が飛ぶ様子を建物の影から伺う。
黒い髪が風に揺れ、その髪の奥に鋭い横顔が見えた。
逃げる女性の行く先...そこは行き止まりだった。
.十数名の監察兵が駆け付け、取り囲んでいく。
よほどの事が無いとこの人数で監察兵が来るなんて事はない。
取り囲む監察兵の動きが妙に慎重なのも気になる。
ただの無資格じゃ無いことは確かだ。
あいつ何をやらかした。
とは言え見殺しには出来ない。
数は多いが問題はない。
そう判断し一歩を踏み出そうとしたその時。
女性が口を開く。
低く、澄んだ声、静かな詠唱。
魔法か!
次の瞬間、空気が震え轟音が鳴り響く。
激流、渦を巻く濁流が監察兵をまとめて飲み込んでいく。
「ぐあっ!」
「陣形をーー!」
叫び声は水にかき消され、監察兵は装備ごと押し流され壁、地面に叩きつけられ地面に転がっていく。
通りは一瞬で水浸しになる。
無資格を知らせる警報だけが止まらずに鳴り響く。
おいおい、派手にやりすぎだろ。
無資格でこんなに堂々と魔法を使うのか。
水煙の向こうで、黒髪の女がゆっくりと振り返る。
その顔は冷静でいて、どこか楽しそうでもあった。
そして俺の存在に気付いている...。
女の目は確実に俺を見ていた。
警報に呼応し転移陣の光が遠方で瞬き始めているのが見える。
さすがにここにいるのはまずいな。
俺は建物の影から踏み出し、黒髪の女へと近づき声をかける。
「おい、早く逃げろ、増員が来るぞ」
低く告げる。
女性は何事もなかったように石畳の上に立ったまま、答えた。
「また追い払えばいいわ」
淡々と答える。
「いや、キリがないだろ!」
慎重に周囲の気配を伺い探る。
「それにな...これ以上やったら無資格じゃなくて謀反人だ」
女性は小さく笑った。
その笑みに俺は不思議な感覚を覚え吸い込まれそうになる。
「無資格な時点で重犯罪者よ。
多額の賞金がかけられている人間が、何を気にしているのかしら?」
背筋に冷たいものが走る。
こいつは...俺を知っている...。
身構え、攻撃態勢に入る。
だがそんな俺を見て女性は両手を軽く上げた。
「警戒する必要はないわよ」
口元にわずかな笑みを浮かべて俺を見る。
「無資格同士、仲良く出来ないかしら?」
女性は一歩近づき俺との距離を詰める。
「私の名はニール」
名乗られたとて...警戒心は消えない。
慎重に女性の様子をうかがい、短く息を吐く。
「俺は...」
「知ってるわ」
即答だった。
「無資格勇者セイ。あなた、有名人よ」
水滴が石畳に落ちる音がやけに響く。
「そして私は、あなたを探していたのよ」
「俺を...?」
眉を顰める。
俺を探してる?目的はなんだ...?
「何?賞金目当てか…?」
戦闘態勢に入る。
「まさか、あなたを倒せる気がしないわ。
そんなことよりセイ、力を貸して欲しいの」
遠くで、転移陣が展開する音が聞こえる。
時間はない。
「俺に何をさせる気だ?」
声がやけに低かった。
ニールはさらに一歩、距離を詰め俺をまっすぐ見つめる。
「資格制度を壊すのよ」
ニールの言葉が俺に鋭く刺さる。
確かに逃げるだけでは変わらない。
怒りだけでは壊せない。
それでもこの女…ニールは壊すと言い切った。
無資格の魔法使い...この女...本気かもしれない...。
俺の中で何かが噛み合う音がした。
複数の金属音が大きくなっていく。
監察兵が近づいてくる音だ。
「ニール、要件はわかった。
でもな、今はここから逃げるのが先だ。
まもなく監察兵のご到着だ」
「そのようね。こっちよ」
ニールは笑みを浮かべ、背を向けて走り出した。




