Scene20 宣戦布告
身体が、思考を超え勝手に動いていた。
気が付けば俺は路地を飛び出し、監察兵を突き飛ばしていた。
安置装具の魔法が解け淡い光が消える。
そのまま老人の遺体を肩に担ぎあげる。
「俺が...俺が必ず安らかに死なせる」
声に力がこもる。
一瞬...夫婦が俺を見て驚きの表情を見せる。
だがすぐに、男は頭を深く下げた。
「お願いします...父を安らかに...」
女は涙を流しながら、必死にうなずいていた。
俺は力強く大地を蹴り走り出す。
「待て!」
背後から怒号が響く。
「貴様!無資格を擁護する気か!」
フードが揺れ、顔があらわになる。
監察兵の表情が変わる。
「その顔...無資格勇者!」
空気が重く凍った。
「重犯罪者を発見した。
直ちに捕獲しろ!
生死は問わない!報奨金は思いのままだぞ!」
欲望を含んだ声が魔道具で通達され、複数の魔法陣が展開される。
詠唱の光、放たれる閃光。
俺は振り返り、片手を振りぬき呪文を唱える。
爆ぜる炎が路地いっぱいに炎の壁となって立ち上がる。
轟音と熱風が監察兵を押しかえす。
(これで...逃げられる)
そう思った瞬間、甲高い警報音が鳴り響く。
「無資格魔法を検知!
無資格魔法を検知!」
空に浮かぶ監視水晶が真っ赤に点滅している。
追跡の刻印が展開され、逃走経路が解析される。
このままで、逃げ切るのは...俺は老人の遺体に目をやる。
それでも置いて行くことなんか出来ない。
その時背後から女性の叫び声が聞こえた。
「父を置いて逃げてください!」
炎の揺らめき越しに、涙にぬれた顔。
「勇者様の炎で...父を...父を...」
言葉が途切れる。
「ゾンビになるぐらいなら…永遠に保管されるなら...
…今、ここで...」
足が止まる。
夫婦の顔、老人の顔、追ってくる監察兵...俺は歯を食いしばる。
「勇者様!」
夫婦の声が俺の中で繰り返される、
肩に背負った老人がやたらに、重く感じられた。
「…くそっ」
炎の壁を振るえる手で押し広げる。
震えが止まらない。
老人の体を、静かに、その中へ。
炎が老人を包み、やがて穏やかな光へと変化する。
声は聞こえない。
ただ、燃え尽きていく音だけが響く。
俺は老人に背を向け走り出した。
振り返らない。
ただ、ひたすらまっすぐ前に...。
警報がなり続ける街を抜けていく。
(このままじゃ...このままじゃ、ダメだ)
逃げ続けるだけでは何も変わらない。
救えば、罪が増える。
生きることも、死ぬことも管理される世界。
それが正しいとする世界。
身体が熱い。
炎の熱なのか、それとも俺の中にある何かなのか…わからなった。
ただ闇の中を駆け抜ける。
「俺は...資格制度を認めない」
これは宣戦布告。
この世界に対しての宣戦布告だった。




