scene19 死の資格
細い裏路地の先に、人だかりが出来ていた。
ざわめきは、恐怖と焦燥が入り混じっていた。
俺は壁伝いにそっと近づき、隙間から様子を伺う。
粗末な家の土間に、一人の老人が横たわっていた。
顔は穏やかだ。
争った形跡はない。
老衰ーーーそれは誰の目から見ても明らかだった。
それなのに...家族の表情は悲嘆より先に、恐怖に染まり必死の形相だった。
「とにかく隠せ!」
男が震える声で言う。
「どこによ。どこに隠したって......」
女は泣きながら老人を見ていた。
隠す?何を言っているんだこいつらは...どう見たって老衰。
隠す必要があるようには見えない...。
言いようのない違和感と不安感が胸のあたりを走った。
そのとき。
路地の入口に魔法陣が展開した。
金属靴の足音とともに監察兵が来た。
「違法な死の警報が鳴っているぞ」
無機質な声。
「この辺りに無資格で死んだ人間がいるはずだ」
「そ、そんな人は...」
「どけ」
女性が突き飛ばされた。
監察兵が躊躇なく奥へと踏み込んでいく。
「発見したぞ!無資格で死亡した老人、一名を確認」
魔道具にデータが記録され監察兵が集まってくる。
「直ちに回収する。移動式安置装具をもってこい」
「やめてください」
女性が縋りつく。
「父を…連れて行かないで…もう、もう安らかに…」
泣き崩れる女性を、男性が抱きしめる。
監察兵は眉一つ動かすことなく、冷ややかに告げる。
「認めるわけにはいかない。
死ぬ資格のないものが、死ぬことは許されない」
一人の観察兵が駆け寄ってくる。
「処理場の空きはどうか?」
「この先のレーベル保管所に空きがあります」
「わかった。早急に遺体を搬送、資格取得が確認されるまで当該施設で保存する」
「そんな...ゾンビになって資格なんて...」
絶望の衣が女性を覆う。
兵士は手慣れた手つきで魔法式を起動し、老人の身を安置装具に固定する。
淡い光に包まれ安置装具が浮かび上がり、遺体は運び出されていく。
家族の悲痛な鳴き声だけが、狭い家に残っていた。
路地の影で、去って行く遺体を見つめ拳を握りしめた。
爪が掌に食い込み血がにじむ。
(資格、資格、資格...生きるのも、歩くのも、そして死ぬことさえも...資格)
「そんなに資格が大事かよ…」
声にならない声が漏れる。
あの王の言葉。
ティアの宣言。
ナザエルの笑み。
今までの事が複雑に交差し頭を駆け巡る。
それはどす黒い感情へと変換され、全て集約されていく。
こんなの...秩序じゃない。
支配だ。
人を支配する完全管理社会。
俺はフードの奥から観察兵を睨みつける。
このまま、逃げ続けても何も変わらない。
全身に力が入る。
俺は...無資格だ。
それでも無資格のまま、この世界に抗う。




