専属騎士
「お待たせしました、ジーク」
「いいえ。全然待ってませんよ」
私は門の前で待っていたジークフリートと朝の挨拶を交わす。こうして、彼に会うのは何度目だろうか。門の前で待ち合わせをした私たちは、少し離れた庭園のベンチまで移動する。彼とまた会う約束をしたのは最初はアルタイル騎士団の騎士達についてもっと良く知りたいと思ったからだった。でも今は彼との何気ない会話が楽しくもあった。
「昨日も素振りばかりしていたのですか?」
「そうなんです。お陰で腕の筋肉ばかりついてしまって。その代わりこうしてレイナと話も出来るのですけど」
ジークは苦笑を交えながら言った。
「護衛仕事についていても会おうと思えばいくらでも会えますよ」
非番の時にでも、ゆっくりと。
「レイナ」
ジークは嬉しそうに私の名を呼んだ。
私はいつもジークから騎士の話を聞く。騎士の話になれば彼は目を輝かせて語った。誰々が戦の鬼神だと言われているとか、団長が男らしくてかっこいいとか、まるで絵本の中の英雄を語るようにジークは騎士について教えてくれた。そう、アルタイル騎士団も全てが腐っている訳ではない。上層部は先の内戦で活躍した立派な騎士達だ。それが末端にいくほど、腐った人間になっていっている。私の騎士にとピックアップされた者達は、内戦が終わってから入団した騎士だ。騎士としては先ほど述べた末端の人間にあたる。
(そんな騎士ばかり候補にされるなんて。誰が選んだのか知らないけれど、私が舐められているのか。試されているのか)
「その中でも現陛下は凄いんです!」
アレクシスの話になり、私は少しドギマギする。
「へ、へぇ?」
「王族にも関わらず戦の最前線に参加して、その剣さばきは正に神技の様だったと伝え聞いてます。私も見てみたかったです」
「まぁ。そんなに? 実は私も陛下が剣を振るっているのは見たことがないのです。やはりお強いのですね」
好きな人が褒められるのはやはり嬉しい。
「はいっ!いつか陛下の近衛騎士は皆の目指す場所です」
「そういえば、最初に会った時も言っていたわね。今、妃殿下の護衛騎士を募っているけれど、ジークはそちらに興味はないのかしら?」
遠回しにジークの意思を確認してみたが、思いっきり首を横に振られてしまった。
「まさか! 私が選ばれるはずが有りません。王妃様になる方の専属騎士ですから品位を落とさないためにも男爵令息の私などではダメなのです」
「そんなものかしら。陛下の近衛騎士だって様々な位の方がいるはずよ」
「陛下は内戦を共に戦い、腕が立ち信頼の置ける各団の騎士を近衛騎士としましたから」
私だって貴族階級よりも人柄と力量をみるのに! っと叫びたい衝動をぐっと我慢し肩を落とす。
「それに四六時中高貴な女性の側にいるなんて、きっと緊張で耐えられません」
「そう」
彼を私の専属騎士にと、この頃は考えていたが近衛騎士の夢があるなら、諦めた方が良いのかもしれない。
「レイナは私がずっとヘリオス国の王女殿下のお側にいることをどう思いますか?」
ジークは少し恥ずかしそうに私を見る。もしかして、私の専属騎士のこと思い直してくれているのだろうか。
「とっても素敵なことだと思うわ!!」
最大限のウェルカムの意思を伝えたが、今度はジークが肩を落としてしまった。
「レイナは気にならないんですか?」
何のことかわからず私は首を傾げる。
「だから、……そのっ!私が他の女性の側にいても何とも思いませんか?」
ジークはだんだんと消え入りそうな声になる。私は余計意味がわからなくて一層深く首を傾げる。
「レイナ!! 私は君のことがっ……」
ジークが何か言おうとした瞬間、私の視界にとある人物が映り、さっと下を向いた。そう、無駄な抵抗と分かっていても。いつも陽気な彼から珍しく怒りのオーラが出ている。
「見つけましたよ、ドロ……」
私のただ一人の専属騎士が名前を言いかけた。
(いけない、ここで本名を言われては)
わたしは、きゃーと叫んで、シモンの言葉を遮った。
「どろ……、泥汚れはありませんよ。ね? ジーク」
最近の私の行動をシモンが怪しんでいるのには気づいていた。初日に部屋に居なかったことも要因の一つだろう。早く目が覚めたので散歩をしていたのだ、と適当にごまかしたが、どうやら彼はごまされてはくれなかったみたいだ。
「ええ。今日も綺麗な真っ白い服で……ってシモン様!?」
ジークは喜びに目を輝かせた。
「元近衛騎士のシモン様ですよね!? うわぁ、うわぁ。会えるなんて光栄です。握手してください」
ジークは頭を下げて右手を差し出した。
(おお。シモンがモテている)
私が知らなかっただけで、結構騎士の間では有名だったりするのだろうか。
何かを察したシモンは口を尖らせつつも、ジークの握手に応じた。
「ジーク……。ジークフリート・ド・シャマル?」
「はいっ!何故私の名を?」
「怠惰のルーキーだと、報告に上がっています。アルタイル騎士団はもう勤務時間でしょう?制服を着ていますが、貴方は非番なのですか?」
「……いいえ」
返す言葉もない、とジークは俯いた。余りの彼の落ち込みように、私はフォローに回った。
「シモン様、実はジークは……」
私は今まで彼に聞いたことを掻い摘んでシモンに話した。
「そうだったのですね。しかし、こんな所で女性と油を売っていては怠惰のルーキーと言われても仕方ありませんよ」
「申し訳ありません」
ジークはショボンと頭を下げた。
「貴方の境遇については、僕からアルタイル騎士団の団長に話してみます。今まで不貞腐れずよく頑張ってきましたね」
シモンが先輩騎士らしく、ジークの頭を撫でるとジークは嬉しそうに口を綻ばせた。
(よかった、よかった。これでジークがようやく日の目を浴びることが出来そうだ)
一件落着と頷いていると、ジークはあれ? っと言って疑問を口にした。
「そういえば、シモン様は今は王女殿下の専属騎士なんですよね? レイナに何の用で来たのですか」
(全然一件落着ではなかったわ)




