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水彩のフィヨルド  作者: 佐藤産いくら
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45、いつもと変わらない

「久しぶり……だね、夢子。元気だった?」

 三ヶ月の間、少し髪が伸びたように見える。ゆるやかな天然パーマが、かすかに肩につくくらいまで伸びていた。

「別に、いつもと変わらないかな。元気といえば元気だけど。」

 素直な気持ちを言葉にする。疲れた様子のマイロニーに、少しだけ笑いかけながら。

 中里は私に目で合図をする。中里のすぐ後ろには、高そうな黒い車が駐車している。このお昼時間に注がれる、目が痛いくらいの光を、そのピカピカしたボディが反射している。

「何してんだよ、さっさと乗れ。」

 専用運転手的な人がいるのではないかと思って車の中を覗いていたら、中里にこづかれた。後ろの席に座ると、運転席には中里が座った。マイロニーは、助手席に腰をかけた。


「中里先輩って、車運転できたんですね。」

「……そんなに驚くことか?」

 慣れた様子でハンドルを切る。言われてからそんなに凄いことでもないかと思い直すが、この高そうな車を平然と運転できるのは、やはり流石というものか。

 マイロニーはケラケラと笑いながら私たちの会話を聞いている。何でだろう、教師と生徒、先輩と後輩という関係ではなくなった今、前よりも上手く話せているような気がする。とくに中里とは。

「……私、これからどうしようかな。」

 ぽろっと口からこぼれた言葉。あっと口を抑える。きっと二人が気を使って話題に出さなかった話を、わざわざ出してしまった。慌てて無理やり笑って何でもないと言ったら、中里は鼻で笑ったが、マイロニーはそれきり車を降りるまで何も喋らなくなった。

 それにしても、どこに行くのだろう。それは外を見ればすぐに分かった。前に通ったことのある道だ。あそこにある短いトンネルをくぐれば、ほら、あの丘が。変わったことといえば、レモンの木は葉が落ちて、痩せこけたことぐらいだった。


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