第28話 ダンジョンヴァレンタイン(後編)
調理を始めた鳩達は、調理器具と食材を台の上に置いた。
「まずは、ダンジョンにあるチョコレートのようなもの……確かチヨコって言ったかな? これをボールの中に入れて溶かしながら砕きます!」
「砕くのは俺に任せろ!」
「温度管理は既にデータを持っている私がやる」
「なら私は混ぜるね! RPGゲームで長年培ってきた料理技術をみんなに見せる時が来た!」
―――チャット欄―――――――――――――――
『不安過ぎる……』
『チヨコってあいつか。あのジャングル型のダンジョンに大量生息してるやつ……。あいつ数が多すぎて時々間引かないと大変な事になるんよな』
『チヨコって食えるんだ……まぁ、植物性のモンスターだから毒が無い限り食えるか』
『チヨコは無残に散れ! くたばれ!』
『なんか猿はやらかしそうやな』
『猿って料理できないだろw』
『データを持ってるって、なんのデータだよw』
『まとも枠っぽい狂人枠』
『ミルクはどこから来るんだ? その自信』
『RPGゲームで長年培った料理技術とか、家庭用のレースゲームを長年してきた無免許がリアルで車を運転するってくらい信用無いわw』
『全然培ってねぇよw』
―――――――――――――――――――――――
「じゃあ田中さんは、こっちで私と一緒に生クリームの準備をしようよ!」
「了解!」
鳩は田中さんと一緒に、ダンジョンの深層に居る NEW牛のミルクを泡立てていた。
NEW牛はダンジョンでも有名なモンスター。
遺伝子、体の組織、全てが未知の新種の牛だったためNEW牛と名付けられた過去がある生き物。
この牛から取れる乳は、加工無しでもまろやかなコクがあり、絶品とされている。
100mlで4000円もする高級な牛乳だ。
そしてチヨコは、過去に軍が動いたほどの凶悪な植物性モンスターだ。
チヨコは植物性モンスターであるため、知性が無く、視界に入った生き物を襲ってしまう。
繁殖性も高く、ダンジョン内で自然に生まれる純粋な自然種のモンスターとは違い、チヨコは交配してから生まれる交配種と自然種の2つの生態を持つモンスターなため、見つけたら討伐するという暗黙の了解がある厄介なモンスターだ。
これほどまでに厄介なモンスターを配信で調理するのは、視聴者に日本魂を感じさせた。
―――チャット欄―――――――――――――――
『あれ? なんか美味そうじゃね?』
『つうか、バレンタイン配信のためにわざわざチヨコを狩って(買って)来たのかよw』
『こいつまじで害悪モンスターだからこんな感じで有効活用されてたらほんま嬉しいわ』
『ほらっ! チヨコも喜んでるよ! 人間様の役に立てて! ね? そうだよね? そうと言え』
『なんかチヨコのヘイト高くて草』
『チヨコとかいうまじ害悪モンスターを調理するのか……でもいい感じやな……なんか悔しいわ』
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それから3分が経ち、チヨコは溶けてチョコレートに、NEW牛も綺麗な生クリームになった。
「チョコレートできたよ!」
「生クリームもできた!」
「じゃあ、混ぜよう!」
ダンジョン産の高級生クリームとダンジョン産の元害悪チョコレート。
その2つが交わった時にどうなるのか。
答えは一つ。
「あれ……なんか良い匂いじゃね?」
「見た目も匂いも美味しそう!」
「フッ……だから言ったろ美味くなると」
「ハトるんちゃん。あとは固めるだけだよね?」
「うん! そうだよ!」
田中さんは、チョコレートと生クリームを混ぜたボールを持ち、ハートの型に入れた。
―――チャット欄―――――――――――――――
『意外と早かったな……』
『まだ配信が始まって30分も経たんな』
『あれ? いつもより盛り上がりにかけてね?』
『チャット欄の奴ら過激求めすぎて草』
『こう言うので良いんだよ』
『まぁ、ハトるんならなんかやりそう』
『ってか、ハトるんの人姿見れるんじゃね?』
『人姿!? 忘れてた。見れるのか?』
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「鳩ちゃ〜ん……なんかチャット欄の人らが鳩ちゃんの人姿を求めてるんだけど?」
「俺……見たい!」
「鳩が人に……原子を一旦分解した後に再構築して変身するのか……それとも、原子自体を変形させて変身するのか……気になるな……」
チョコレートを冷やしている間は、鳩の人姿を求める声でチャット欄がいっぱいになり、3人も見たいと言い出した。
だが、唯一人化できない理由を知っている田中さんは鳩の言葉を代弁した。
「……そういえばみんなは知らなかったね。ハトるんちゃんは、今はまだ人になれないんだよ」
「なんでだ? 田中は鳩になってたじゃねぇか」
「え〜なんで〜?」
「どういう理屈か……説明してくれ」
「理屈って言われたら無いんだけど、ハトるんちゃんが人の姿にまだ慣れてないっていうか……人の姿が恥ずかしいというか……まだ心の準備ができてないっていうか……そんな感じかな」
「ごめんみんな……田中さんの前では出来るんだけどね……なんか恥ずかしくて……」
―――チャット欄―――――――――――――――
『それは……仕方ないか……』
『ええんやで』
『可愛いかよw』
『モジモジしてるな……俺でも分かるw』
『ハトるんのモジモジ姿良いね』
『なら楽しみにしとくか』
『田中さんは事前に練習してたらしいけどハトるんもそうなら田中さんだけ先出しじゃねぇかw』
『あれ? ってことはハトるんの人姿は田中さんだけが見てるってこと? 羨ましいな……』
―――――――――――――――――――――――
チョコレートが固まるまでの間は、4人と1匹で他愛もない雑談をした。
◆◆◆
「完成!」
チョコレートは綺麗にハートの形で固まった。
ほぼ初めてなのに、思ったよりも上手く出来たチョコレートを全員で5等分に分けた。
「俺このデカいやつな!」
「私は2番目にデカいやつ!」
「私はこれで良い……糖分は控えているからな」
「田中さんはどれにする?」
「じゃあ、僕はこれにするよ」
「なら私はこれだね!」
みんなで作ったチョコレート。
『頂きます』の合唱と共に口に含んだ。
「うめぇ……なんだこれ!?」
「んっ……美味しい!」
「データ通りの大成功だな」
「ハトるんちゃん……これ、大成功だよ!」
「うん! ほんとに……甘くて美味しいよ!」
みんなあっという間に完食した。
――チャット欄――――――――――――――――
『美味そうやな……』
『マジか……中とろ系やん……』
『俺が一番好きなチョコレートの種類……』
『あれ? そんな作り方やったっけ?』
『あれだ! チヨコの耐性がチョコに出たんだ』
『確かに……チヨコって冷耐性あるからな。外側が先に固まったから中がとろとろしたのか……』
『良いなぁ……』
『もう配信が終わるのか……』
『いや! まだ終わらないで!』
『まだ1時間も経ってないぞ!』
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みんなでチョコを作り、みんなチョコを食べ終わったので、チャット欄は配信が終わって欲しくないの声で溢れたが……一方で鳩達は……
「あ! ごめん! 視聴者のみんなに心配させちゃったね……配信はまだ終わらないよ! これからある方達にチョコレートを渡しに行くから。そのために今はダンジョンの中に居るんだからね」
何故かニヤニヤしてるミルクココア。
チョコを置いてた皿を舐めている西郷の猿。
ドヤ顔を見せているDサイエンサー。
そして、まるで母親のように食べ終わった皿の片付けをして、西郷の猿に『汚い』と言いながら皿を取ろうとする田中さん。
彼らと共に、ダンジョンの下に向かうのだった。




