第26話 鳩の配信裏で
鳩の異世界配信後。
国境を超えて世界中でも鳩が話題になっていた。
配信の視聴者自体はまだ少ない。
が、
鳩を知った各国は確実に動きを見せていた。
一国が動けばまた一国が動く。
他国に出し抜かれては、今まで辛うじて安定していた世界の均衡が崩れる。
でも相手は鳩。
人類のルールが一切通用しない生物。
そして、現人類は観測すらできない異世界に、観光気分での日帰り旅行。
各国は、どんな力を持っているかも分からない未知数な鳩に、強く出ることが出来なかった。
【ホワイトハウス】
まるで戦争前のような顔で資料に向き合っているのは、世界一の軍事力を持つアメリカの大統領。
トラン大統領。
彼は、自国のある研究機関と手を組んで鳩との接触を図ろうとしていた。
「それで……MASAはなんと?」
「MASAから出せる正式な書簡は今月の半ば、早くても20日以降に出せるとのことです……」
「20日か……早くても13日後……。なら中国やロシア……アジア圏の動きはどうなっている?」
「どうやらあちらも20日以降になりそうです。なにせ今回はどこも対応が難しいとのことで……」
「そうか……」
「ですが、本当にMASAで良かったのですか?」
「今回はMASAがいち早く気付いて対応を進めていたからな……本来ならダンジョン探索者の関係の企業や我がホワイトハウスからの書簡でも良かったのだが……それだと時間がかかってしまう」
「では万が一のため、例の鳩と無理やり接触を図りますか? 相手はただの小動物……書簡でなくともやりようはいくらでもあると思いますが?」
「いや、それは駄目だ……。あの鳩は異世界に日帰り旅行できるほどの力を持っている……どんな勢力が味方にしてるかも分からない。それに、今回の衛星にすら映らなかった鳩ノ島……そして何故か衛星に映らない鳩……理由は分からないが人類の科学で証明できない以上焦りは危険だ……」
「それは…………そうですね……他国も同じ考えなのでしょうか……」
「近年情勢が不安定なロシアは無理だろう。あの国が不安定な今、他国を、未知数な鳩を敵に回すような事はしないだろう……。それと、今や我国を超えるほどの勢いを見せている中国は強硬な手段に出るかもしれないな……。だが、あの国にいる密偵からそんな報告はない……恐らく鳩の危険性を知っているだろう……。日本には、中国の関係者が五万といるから……どの国よりも知ってるはずだ……他の国だと……特に目立った動きは無い……恐らく今は機を見ているのだろう……」
「では、20日までにMASAから書簡を出せるように急いで取り掛かりますが……良いのですね?」
「あぁ……それで頼む」
世界一の大国であるアメリカでさえ、鳩に関して慎重な動きを見せた。
来たる2月20日。
その日に送る書簡のために……。
「今回の件……荒れるのは間違いない……が、私の任期までにある程度終わらせておかないといけないな。これが長引けば安定とはほど遠いものになる。それまでMASAには頑張ってもらおう。それと諜報部からの密偵を増やせ。最重要事項だ」
「承知しました」
【首相官邸】
日本政府は危機感を覚えていた。
国会議員から地方議員に至るまで……。
目の前にいるのは、自分達議員を飛躍させる金のなる木、日本の技術進歩を併せ持った小動物。
これは今までの裏金なんて目じゃない。
関われば確実に巨万の富を手に入れることができる小動物に、日本の裏で色々と動いていた。
それらの為、内閣総理大臣やその周りにいる人達は、今までに無い焦りを覚えていた。
「では、その鳩が今回の発端だと?」
「えぇ……。どうやらこの鳩と会うためだけに各国が動いているらしく……各国に関わろうと議員らが裏で色々と取引をしているようです……」
「まさかそんな事が裏で動いていたのか。先日から起こっている議員同士の裏金取引と捏造の発覚の原因……その鳩を止めることはできないのか」
「日本国民であれば融通が効いたでしょう……厳重注意するか、警告をするかして……しかし今回は人外……鳩であるため、無理でしょうな……」
「なら、そのリリアルという配信サービスのアカウントを削除することはできないのか?」
「それも無理でしょうな……。リリアルはアメリカの企業が創設しているサイトですから……」
「…………はぁ……これから忙しくなりそうだ」
「仕方がありません……」
「……………………」
「どうされましたか?」
「胃薬……持ってない?」
【鳩の家】
世界が鳩を慎重に扱う中で、田中さんは鳩の家に泊まってフランクに接していた。
「ハトるんちゃん……もしかして僕と一緒のベッドで寝るの?」
「駄目……かな?」
「いや、なんか寝返りを打ったら潰しちゃいそうで……僕が気を付ければいいだけの話だよね」
「なら、私は田中さんの毛布の上で寝るよ」
「……それが良いよ」
海外の情勢は慎重に、
国内は情勢は荒れ、
視聴者は盛り上がる。
やがて、今は到底交わることのない三者はいずれ交わることになる。




