第一幕(5)
その後、ロボットはジャズというのはー、と歴史から始まり、歌手の説明、曲構成を淡々とした口調で説明を始めた。
それに対してイルクはロボットの説明は耳に入らず、曲だけを集中して聞いてた。
聞いたことのない言語だが、不思議と不快な気持ちは生まれない。
ー素敵な歌
それどころか、ゆったりとした歌声が心地良く、心の傷が少しずつ埋まっていく感覚がした。
気づくと瞼が重くなり、うとうと頭を回すように揺れ動く。
「ー結果、このアルバムはヒーリングアルバムとして一躍有名に」
説明が終わる前にイルクとアルクは寝息を立てて眠ってしまった。
襲撃にあった日から悪夢に苛まれていたが、2人の姉妹はようやく、心地よく眠ることができた。
ロボットは起こさぬようにアルクの隣にイルクを寝かせ、静かに見守った。
翌日、アルクが眠たい目を擦りながら先に目覚め、横で静かに眠っている姉を見やると胸がざわつき始めた。
ーお姉ちゃん。
もう起きてこないのではないかと思い、肩を揺すって起こそうとした時、
「安心しろ。眠っているだけだ」
静かに見守っていたロボットはアルクに言った。
「ほんと?」
心配そうに尋ねるアルクの目を見ながら、ロボットは小さく頷いた。
「嘘をつく機能は備えていない」
その時、イルクの体が身震いした。
アルクとロボットの話し声に反応するかのように、上体を起こした。
「お姉ちゃん。おはよう」
アルクはイルクの目を真っ直ぐ見て言うと、イルクはアルクの頭を優しく抱え、アルクは強く抱き返した。
「おはようアルク」
イルクは優しくアルクに言い、しばし2人の時間が流れた。
が、ロボットはお構いなしに近づいた。
「目覚めたな」
ロボットは静かに2人に言った。
イルクはロボットの顔を見つめ、次にアルクの顔を見つめる。
ゆっくりと目を閉じて、思案する。
大きく息を吐き、目を開く。
その瞳からは迷いは消え、決意を固めた意思が宿っていた。
「貴方は私達を傷つけない…。間違いない?」
イルクはロボットに確認するようにロボットに問いかけた。
「君達は守護対象だ。俺が傷つける事は絶対にしない」
「なら、私達が行くところに貴方もついてきてくれる?」
「君達を守るのが命令だ」
そこまで確認したイルクは、ゆっくりと口を開いた。
「私…。私達は…」
隣で心配そうに覗き込むアルクに視線を向ける。
「村に…、村に帰りたい。貴方にもついてきて欲しい」
襲撃によって村は崩壊した。それでも、まだ誰か生き残りがいるかもしれない。
もし生き残りがいなかったとしても、最後に生まれ育った村がどのように変わり果てていようとも、この目に焼き付けたかった。
「野盗達がいる可能性が高い。リスクが高い」
リスクという意味は分からなかったが、ロボットの言いたい事は伝わった。
「だから貴方にお願いしているの。私達だけでは無事に村に帰れない」
野盗達を一瞬で倒したロボットが同行してくれれば、この上ない程心強い。
イルクはロボットに深々と頭を下げ、横にいるアルクも真似をするように頭を下げた。
ロボットの赤い瞳が数度点滅を繰り返した。
その姿はまるで考え込む人間のように見えた。
「目標を更新。君達に同行する」
その言葉を聞いたイルクとアルクは顔を見合わせ、小さく笑った。
それから研究所の外に出ると、イルクとアルクは久しぶりの太陽に目をしぼませた。
ロボットはアルクを乗せた荷車を引いた。
「乗るんだ」
イルクとアルクを乗せると、ロボットは指を差した。
「村はこの方角だな」
「ええ。この方角で間違いないわ」
イルクは頷きながら、答えた。
「了解した」
姉妹を乗せた荷車をゆっくりと引き、村へ続く道を、2人と1体は歩み始めた。




