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第一幕(3)

 イルクとアルクが目を覚ますと、2人に新しい服が用意されていた。

「この服は…?」とイルクが聞くと、ロボットは作ったとだけ答えて会話を終わらせた。

 姉妹の服は至る所が破け、服として機能を果たしていなかった。

 そこでロボットは2人が眠っている間に研究所中から布を集め、一晩で縫い上げた服だった。

 肌着の上から羽織る服は、手首から脛までを覆う丈で、はだけないよう腰を赤い紐で結ぶ作りになっていた。

 「姉妹が着る服はリンクコーデが常識なんだろ。Sister2のキャロがそう言っていた」とロボットは相変わらず感情のない声で説明する。が、イルクは、ロボットがなにを言っているか理解できず、辟易した。

 「また分け分からないこと言ってないで、部屋から出て」

 イルクはロボットに語気を強める。

 だが、ロボットは「俺は人間ではない。そこらの物と同じだ。気にするな」とイルクの伝えたいことが通じていない。

 「いいから出て!」

 イルクはまだロボットという概念が分からず、1人の人間として見ていた。

 人が見ている前で素肌を見せる事は、恥ずかしい事だと顔を真っ赤にしてロボットを部屋から追い出した。

 追い出されたロボットは、イルクが羞恥心から自分を追い出したことは理解していた。

「羞恥心…。反抗期…。やはり人間とは難しいな…」俯きながらとつぶやく姿は、どこか哀愁を漂わせている。 

 それから数十分、部屋前の廊下で着替え終わるのを待っていると、自動ドアが開く。

 開いた自動ドアの後ろには着替え終わったイルクと、イルクの後ろに隠れたアルクが不安と恐れをなした目で、覗き込むようにロボットを見つめている。

 アルクがよく読んでいた絵本に出てくる、悪魔とロボットの顔が重なっていたからであった。

 そんなアルクの事など気にもとめず、ロボットは青い光線を放ち、再び姉妹のスキャンを始めた。

 「怪我の完治、バイタルに異常なし。空腹値の上昇を確認。こっちへ来るんだ」

 ロボットは姉妹を先導し、また別室に入った。

 そこは椅子とテーブルが置いてあるだけの質素な部屋。

 ロボットは2人を置いて、部屋の奥に消えていく。

 置いていかれた姉妹は、何も告げずに去っていくロボットの背中を見送り、困惑したまま立ちすくんでいる。

 「お姉ちゃん…」

 アルクが不安そうにイルクを呼びかける。

 アルクを抱き寄せ、いざという時に逃げられるようドアへ近づいた。

 そんな緊張感が漂う中、ふっと香りが奥の部屋から流れてくる。 

 ーこの匂いは何?。彼は一体何をしているの。もしかして私達を…!

 イルクは最悪な事態を想像した瞬間。

 ロボットが奥の部屋から出てきた、その両手には野菜を煮込んだスープを携えて。

 「消化に良い料理を作った。食べるんだ」

 料理とスプーンをテーブルに置き、ロボットは座りやすいように椅子を引いた。

 警戒していた2人はテーブルに近づこうともしなかったが、

余りにも美味しそうな匂いを放つ料理につられ、お腹の音が鳴り響く。

 空腹に勝てない。

 2人は観念し椅子に座り、震える手でスープをすくい上げ、口に運ぶ。

 優しい味が口の中で広がると同時に脳が美味しさを感じ、空っぽだった胃が少しずつ満たされていく。

 村を脱出してから、初めて口にした温かい料理に、冷たく、強張っていた足の爪先まで温もりが行き渡り、気づけば2人は、乱暴にスプーンを扱いながら無我夢中で食べていた。

 ロボットは夢中で食べる2人を、黙って見守っている。 

 「…助けてくれて…、服も食事も作ってくれて…、ありがとう…」

 食べ終わったイルクは細い声で感謝の言葉を伝えた。

 「感謝は必要ない。命令に従ったまでだ」

 「命令?誰の?」

 「ご主人の命令だ」

 「ご主人……?貴方のご主人様がここにいるの?」

 イルクが不思議に思い尋ねると、

 「ここにいるのは、俺達だけだ」と、またよく分からない答えが返ってきた。

 イルクは頭を傾げたが、彼が言っている意味を考えても答えは出そうになかったので、別の質問をすることにした。

 「貴方の名前は?」

 以前、同じ質問をした時、よくわからない単語が飛び交い、怪我で冷静さを失っていたため、頭に入らなかった。

 今は冷静さを取り戻し、彼ももう少し分かりやすく説明してくれるだろうと期待していたが、

 「俺はボルテクス社で開発・販売された汎用型の家事ロボット。型式番号はPT-63番。また、シリアルナンバーは26854…」

 「待って」

 ロボットが言い切る前に、イルクは眉間に手を当て会話を遮った。

 イルクの期待は見事に裏切られた。

 「つまり私達は貴方をどう呼べばいい?」

 「今、君が考えているような名前はない。好きに呼べばいい」

 −名前がない。そんなことがあるのかと数瞬言葉を失った。

 イルクは納得が行かず、続けて問いかけた。

 「名前がないなんておかしいわ。ご主人様からはどう呼ばれていたの?」

 「君、またはロボット君だ」

 「ならロボットが名前?」 

 「ロボットは種族名で、個人に与えられた名ではない」

 ロボットの答えはイルクにはますます分からなくなり、

 困惑した表情を浮かべた。

 「つまり、人間に対して貴方の名前は人間ですね。と言っているようなものだ」


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