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第一幕(2)

 親の仕事を手伝い、妹と絵を描いて遊ぶ。そんな村でのささやかで穏やかな日常は、いつまでも続くものだと思っていた。

——だが、その次の瞬間。

 姉の周りには友人や優しくしてくれた近所のおじさん、おばさん達の屍が積み上がっていた。

 思わず泣き叫び、頭を抱えて逃げ出す。が、走っても、走っても屍は視界から消えない。それどころか、増えている。

 たすけて…、たすけて…、たすけ…。

 屍となった者達から怨嗟の声が脳に直接響き渡る。 

 「やめて、やめてやめてやめて…」

 耳を塞ぎ、地べたに座り込む。

やがて暗闇が包み込もうとした時、誰かに身体を返されたような感覚と共に目を覚ました。

 天井からは降り注ぐ太陽とはまた別の、経験したことがない眩しすぎる光に目を奪われた。

 どうやら柔らかなベッドで仰向けに横になっていたようだ。

 霞ががかった目で周囲を見渡すと、左腕には透明な管が刺さり、透明な液体が身体に流れている。

 「ひっ!」

 得体のしれない物に彼女は再び恐怖し短い悲鳴をあげた。

 「心拍数と血圧が高い。それに酷くうなされていた。休む事を勧める」

 意識を手放す直前に聞こえたあの無機質で感情の無いな声が、再び彼女の脳に響き渡る。

 ゆっくりと声の方に顔を向けると人とは違う、異形の姿をした者が椅子に座り、本を読んでいた。

 「君の妹、アルクもそう願っている」

 妹の名を出した時、脳が一気に覚醒し、ベッドから飛び上がろうとした時、腹部に重い感覚を確かめる。

 彼女のお腹の上で涎を垂らしながら、寝ているアルクの姿があった。 

 妹が生きていることに、彼女の張り詰めた気持ちは切れてしまい、声を押し殺しながら目から涙を零し、大事にアルクを抱きしめる。 

 「アルクは君が起きる少し前まで起きていたが、疲れて眠っている。俺も今アップデートをしている最中で、ここから動くことはできない」

 本のページを1枚1枚めくりながら、異形の者は静かに、抑揚のない声を発した。  

 「…貴方は神様ですか…?ここは一体どこ?この管は一体何ですか?」

 彼女は震える声で、恐る恐る問いかけた。

 「神様じゃない。600年前にボルテクス社で開発・販売された汎用型の家事ロボット。型式番号はPT-63番。550年前に家事以外の事も出来るように改造して頂いた。 

 ここは500年前に起きた、通称【文明崩壊戦争】直後に建てられたボルテクス社の研究所。その管は抗生物質を身体に流す為の管だ。無害だから安心するんだ」

 異形の者は彼女には一瞥もくれず、矢継ぎ早にそう答えるも、聞き慣れない単語が次々と飛び交い、脳の処理はますます追いつかなくなっていた。

 「…ちょっと待って、一体貴方は何を話しているの?」

 彼女は頭を抑えながら、絞り出した精一杯の問いかけ。

 「要は敵じゃない味方だ。今は安心して寝ろ」

 彼の無機質と抑揚を通り越して、ぶっきら棒な言い方に疲れ、彼女はアルクを隣に寝かせた。

 「…私はイルク。妹と私を助けてくれてありがとう」

 イルクは呟くように言うと、再び深い眠りについた。

 先程の眠りとは違い、妹のアルクがいるからか、イルクの顔は幾分か安らいでいるように見える。

 「おやすみ。イルクとアルク」

 ロボットは読みかけの本を置き、静まり返った部屋で独り言のように呟いた。

 そして部屋の照明を消し、ロボットの目から淡い光が当てられ壁には【Sister!2】という題名と共に投影された。

 これは約600年前に流行った映画だ。

 「人間の姉妹についてアップデートを開始」

 ロボットはそう言うと、映画を見始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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