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人生  作者: yoshi88
:1.17 第一章 始まりの物語
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9.弱い心

 ――JR尼崎駅を南下し、僕達は国道2号線を目指して走っていた。


 ナイキのボストンバックを両肩に掛けて自転車を漕いていたが、30分も過ぎてくると救援物資の重みで、手提げ部分が肩に食い込み段々痺れてきた...。


 僕は自転車の前かごにバックを縦に押し込み、痛みを少し軽減して懸命に中西に食らいつく。


 小学生から野球をやっていた中西は、体力は人一倍あり身体の作りも僕とは違うのだろう。リュックサックの重み等物ともせず、どんどんスピードを上げていく...。


(...小学校の先生というより、体育教師の方が向いている。彼奴(あいつ)にピアノが弾けるはずがない...。)


 心の中で毒づきながら、中西に置いて行かれまいと必死にペダルを踏む。


 ――僕達はやっと2号線に差し掛かった。あとは神戸を目指して西に進めば良い。


 ラジオ情報では、


「国道2号線は地震で道が分断しており、崩れている箇所がある為通行できません」


 と聞いていたが、実際は大渋滞だか通行可能、現地情報の方が正確だった。


 街道沿いに建っているはずの木造住宅は、殆ど壊滅的な被害を受け、普通に原型を留めている民家は数える程しかない。


 屋根瓦は崩れて剥がれ落ち、その上に雨水の侵入を防ぐ為、ブルーシートが張られていた。


 報道ではこのブルーシートを通常の5倍以上の価格で販売している闇業者もいるらしく、注意を呼び掛けていた。が、自宅を修復に来てくれる業者を今から待っても半年以上は掛かるだろうし、修復代を法外に請求される事は一目瞭然。何も対策を施さず構造部分が腐ってしまったら元も子もない。


(...ブルーシートの費用くらい些細なものだ...。)


 ふと横を見ると多方面からの県外ナンバーの車が渋滞に(つか)まっている。皆家族や親戚、友人の安否を気遣い一路神戸へ向かっているのだろう。


 全く正しい情報が入手出来ない中、もうもうと燃える神戸の街の様子、真冬の寒さに凍える何の整備も整えられていない急ごしらえの"体育館(ひなんじょ)"で、段ボールを寄せ集めて避難を余儀なくされている人々の映像を、何度も繰り返し繰り返し見させられると、


(...自分にも何か出来る事はないか、神戸を救いたい!...。)


 そう思う人は少なくないはずだ。


 この震災の傷跡が生々しい風景を、カメラで撮って写真に残しておけばもしかしたら、"震災カメラマン"として有名になるかも知れないと、頭の片隅にちらりと想像してしまう。


 しかし、自宅を焼け出され何も無くなってしまった人――、手の施しようがない程壊れた瓦礫の山の前で、ただ呆然と立ち尽くす人――、家族の安否が今だ知れず懸命に探す人々を見てしまうと、悪ふざけの気持ちで無神経にカメラを向ける気持ちにはとてもなれない...。


 "震災から(わず)か2日で救援物資を持って駆けつける人"が、もしも自分でなかったら、


(...行動力がある熱いやつだ...。)


 と尊敬していただろう。しかし、実際の僕は中西の純粋な正義感に付いてきた、"ただの引き立て役B"だ。


 ――尼崎を出てから一度も休憩する事も無く1時間半も経ってくると、卑屈な自虐心がまた頭をもたげてくる...。


 受験で失敗し、プライドが粉々に破壊されやっと自然体の自分に生まれ変われた気がしていたのに、まだこんな心が残っているようだ...。


 どうせ、受験1週間前にインフルエンザに罹った事も心の何処かで言い訳しているのだろう...。


(...あぁ、嫌だ...。)


 自分で自分の事がどんどん嫌いになる...。


  そんな事は露知らず中西は、


「もうすぐ神戸だ」


 後ろを振り向きながら僕を励ますのだった。


(...あぁ、嫌だ...。)


 心の中でもう一度、僕は独り()ちた。

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