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人生  作者: yoshi88
:22歳 第四章 葛藤を謳え、因果をねじ伏せる欺かざる魂は世界線を越える
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17.退職

 ――面白い映画だった。が、内容が難しすぎる...。


 その中でも一番目を引いたのは光学迷彩(こうがくめいさい)という技術だ。正式名称は「熱光学迷彩ねつこうがくめいさい」と言うらしいが、周囲の景色を投影して姿を消す「光学迷彩」に、赤外線センサー対策を加えたSF上の技術である。


「人間の透明化」が具体的に実現できそうな化学的忍術であり、実際使えたら一般庶民にとって、"一体何に使おうか"と迷ってしまうような「謎の技術」でもある。


 因みに余談ではあるが、この原作から着想を得て、――とういうかそのままだか――東京大学や慶應義塾大学の研究陣によって技術が開発・特許化されており、実用化に向けた開発プロジェクトが進んでいるらしい...。


  帰りに旭屋(あさひや)書店に行こうという事になり、僕達は梅田にある旭屋書店本店に向かった。


 ここはビル全体が本屋であり、吉田建築研究事務所へ入社するきっかけとなった建築士事務所名簿を購入したのもここだ。


 扱う書籍数で言えば紀伊国屋書店に遠く及ばないがマニアックな建築専門書であれば、旭屋書店以上の本屋はない。


 僕達は何時ものように入って左側の狭いエレベータに乗って最上階まで上がり、最上階から本屋の真ん中にある螺旋階段を使ってグルグルと降りて来るのだ。こうすることで体力的にも楽だし、全フロアの目星(めぼ)しい書籍を余す所なく見る事ができる。


 1959年に開館した世界的に有名なフランク・ロイド・ライト設計のニューヨーク、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館方式だ。


  当時ニューヨーク市当局が建築基準法に触れる為に許可を出すのを渋った事情もあり、1943年にライトに委託されてから竣工(しゅんこう)するまでに実に16年もの歳月を要した。


「かたつむりの殻」のような特殊な建築物で、見学者はまずエレベーターで建物の最上部に上がり、螺旋状の通路の壁面に掛けられた作品を見ながら順路を進むうちに自然に階下へ降りるようになっている。死ぬまでに一度は訪ねたい建築物の一つだ。


 ――僕は建築雑誌に掲載されている戸建て住宅の月刊誌をパラパラとめくり、今度僕がお世話になる予定の事務所の作品を見ながら、"ここの屋根と硝子(ガラス)の配置が素晴らしい"とか、"杉板型枠打放(うちっぱな)しのコンクリートが美しい"とか田川君に見せた。


「良かったじゃん」


 とにこにこしならがら僕を見つめてくる。自分の夢を語り、それを応援してくれる友がいる...。僕はとても幸福な気持ちに包まれながら、いつまでもこのまま田川君と話し続けていた...。


 ――翌日、退職届を上司に貰った鞄に入れて何時もより早く家を出た。昨夜両親にも会社を退職する旨を告げた。


 父は、


「そうか...。まぁ。頑張れ」


 と一言。


 母は、


「給料、安いのんと違うの、大丈夫?」


 と言った。そのあと、僕が言い訳する間もなく、


「ずっと、家に居たらいいやん」


 と重ねて言ってくる。


 父が、


「家賃は下げたるけど、数年でちゃんと就職せんと1.5倍にするからな」


 と笑いながら脅してきた。僕は自分で働くようになり、家賃プラス食事代として薄給(はっきゅう)から5万円だけ、毎月母に手渡していた。それが当面出来なくなる...。


 3歳年下の弟は去年現役で国公立の姫路工業大学に現役合格し、さっさと実家を出ていた。


 友達と予定があるとかなんとか言って、家族でちゃんとした合格祝いもせず、僕が仕事に行っているうちに弟はいつの間にか家を出ていた...。


(...自分は社会人だし、また今度会った時にでもお祝いでもしてあげよう...。)


 とこの時は思っていたが、翌年の正月に1度だけ彼女を連れて帰って来たっきり、その後30年間以上、一度も話す事も互いの連絡先も知らなくなる運命になろうとは、この時の僕はまだ夢にも思わなかった...。


 ――何時もはそのまま3階に上がるのだか、今日は2階に寄って事務の高橋さんに朝の挨拶もそこそこに、


「社長はもう来てますか?」


 と尋ねた。


「ええ...。さっき来たばかりですよ」


 と教えてくれた。僕は自分の気持ちを強くもって、コンコンとノックをして、


「失礼します!」


 と、ずかずかと中に入って社長に


「一身上の都合により、退社させて頂きます!」


 と、しっかりはっきり社長に告げ、鞄から一通の「退職届」取り出してそのまま手渡した。


 そして、頭を下げた...。


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