15.ファストフード
・・日曜日、11時43分。梅田の紀伊国屋書店前の入口横で田川君を待つ...。
梅田はいつ来ても人で混んでいて、特に阪急百他店前と言えば大阪北の玄関口、梅田でも中心地の場所だ。僕達の待ち合わせ場所は梅田ならこの場所と決めている。
梅田の皆が知ってる紀伊国屋書店の横には「BIGMAN」と名付けられた阪急梅田駅のランドマーク的な約200インチの大型テレビが設置してあり、通常梅田で待ち合わせとなると、
「ビックマン前に何時ね」
となる。
しかし、地図は不要で誰にでも一言で"意思疎通可能"である反面、待ち合わせに皆が使う為、ビックマン前で待ち合わせる場合、ビックマン前で迷子になってしまう...。だから僕達は紀伊国屋書店前と言えば「小さい紀伊国屋書店」の事で、梅田にあるもう一つの「紀伊国屋」の事だ。
場所も阪急百貨店のメインストリートの対側にある為、雨にも濡れない。おまけに待っている間、阪急うめだ百貨店が全精力を傾けて製作した「コンコース ウィンドー」が見られる。
此処には、巨大な高さ4m・幅6mの7面連なる窓にアート性の高い作品が常設されており、1972年から変わらず毎日通る数十万人の目を和ませてきた。
まさに「街中美術館」である。
その季節ごと最先端の展示を眺めながら待つ事ができるのだ。何時待ち合わせてしてもここで待つ人は誰もいないので分かりやすい。その上、右側に繋がる地下街の入ってすぐ右側に、公衆トイレがある事も誰にも知られていない、僕達だけの秘密である。
今もホワイトクリスマスを先取りしたような展示物が施されており、からくり人形とそこで繰り広げられる斬新でスタイリッシュな一つ一つの「展示物が織り成す物語」はずっと見ていても飽きない。
「ごめん、待った?」
少しはにかみながら、僕よりも少し後に田川君もやってきた。
「いや、僕もさっき着いたとこ」
僕達はまるで恋人同士のような会話をしながら、梅田で一番なお洒落スポットで待ち合わせをし、しかもこれから2人で映画を観に行こうと言うのだから、「変な奴」と他人に思われても仕方がない...。
「取り敢えず、何か食べようよう?」
これまた田川君は本当に嬉しそう僕を見つめて来る...。
「分かった、行こう」
僕達は何時もであれば例の「カレー屋」に向かうのだが、今後も考えると節約も意識しなければならない。
僕は田川君には悪いけど、
「吉牛でも、いい?今日、あんまりお金使いたくないねん」
「おっけー!」
何時もの田川君の「いいよ」を頂き、僕達は「吉野家」を目指ざしてJR大阪駅の方へ歩き出した。
――「いらっっしゃいませ!」
カウンターしかない狭い店舗ではあるが効率を重視した動線、作ったものをそのまま出すスタイルに、異論を唱えるものはないだろう。
僕達は隣り同士に座り、
「御注文は?」
と聞いて来る店員に、メニューも見ずに
「並、つゆだくで!」
田川君も珍しく僕に合わせて、
「同じもので」
「はい!な・み・つ・ゆ・だ・く、2つ、頂きました!!」
と威勢の良い店員が厨房の人に大声でオーダーを通す。
(...牛丼並、税込300円。安い...。)
今年の4月から消費税が3%から5%に引き上げられたのにも関わらず、
(...税込300円から一体どれくらいの利益がとれるのだろう..。)
(...こんな梅田のど真ん中、場所代も高いだろうし、一体どんなカラクリでこの商売が成り立っているのかとても不思議だ...。)
「はい!お待ち!!」
僕の思考を遮るように僕達のカウンターの目の前に先程注文した牛丼並が並ぶ。店に入って注文して、食べれる状態になるまで恐らく10分も経ってない。
「頂きまーす!・・・ヨシ君!ヨシ君!これ、めっちゃ美味しいよ!しかもつゆがダクダクしてる!!」
(.....。)
僕があれこれ考えるよりも早く、隣の田川君の嬉しい悲鳴が聞こえて来る。
"つゆだく"は言わずと知れた吉牛の裏メニューで、牛丼などの丼物の煮汁、つゆを通常よりも多めに入れてもらうことである。語源は「たくさん(だく)」からきており、汁がご飯に染み込んで味が濃くなるのが特徴である。
「裏メニュー」と言えばマクドの誰も頼まない「スマイル0円」と似ているが、これは1980年代に大阪府のある店舗スタッフのアイデアから生まれたもので、まだこの時代には存在していない。
僕達は掻き込むように30分で食事を終えて、お目当ての映画、「攻殻機動隊」が上映されている映画館へ足早に向かって歩き出した。




