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人生  作者: yoshi88
:22歳 第四章 葛藤を謳え、因果をねじ伏せる欺かざる魂は世界線を越える
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14.面接

「失礼します」


 白を基調とした清潔ある室内空内に、1.5m程成長したオーガスタ―の緑の葉が室内の天井を目掛けて何処までも何処までも成長し続けている。


 その隣に幹が三つ編みのように捻じれた特徴を持つパキラ、それから南国を想起させるような葉に切れ込みの入ったモンステラが僕を歓迎するかのように"おいで、おいで"と緩いエアコンの風に揺らいでいる。


(...所長と2人で使っている西区の事務所を少し広くしたくらいかな...。)


 少し狭いなと思いつつも中に入ってもう一度挨拶し直し、目の前のお兄さんに促されながら左の打ち合わせ室に案内されて、直ぐに驚愕した――。


 狭い打合せ室に所狭しと今まで設計した建築模型や完成写真が飾られている。その驚くべき精密さ完成度の高さは学生時代僕達が建築模型として作成していたものと全く別物、雲泥の差があった。


(...レベルが違う...。)


 その素晴らしい模型や戸建て住宅の竣工(しゅんこう)写真の中に僕が建築雑誌で観たものと同じ作品が飾られていた...。


「珈琲で良いかな?インスタントしかないけど」


 (ほう)けたように見入ってしまっていた僕に、にっこり笑顔をさし向けながら優しそうなお兄さんが話し掛けてきた。


「はい!」


 僕は少しの緊張と興奮した自分に変な声で応じてしまった。


 と、同時に


「どうも吉沢(よしざわ)です...。」


 と先程の低い声の主、この事務所の所長がお兄さんが立ち去ると入れ違いで打合せ室にやってきた。


 少ししかめっ面の表情で眉間にしわが寄っている。口元に少し短めの口髭(くちひげ)を蓄えており、一見して商社に勤めているようなサラリーマンではない事が伝わってくる。


 慌てて立ち上がった僕は、


「今日は、御時間を取って頂き、ありがとうございます」


「そんなの良いから履歴書と卒業作品見せて」


 と、せっかちに僕を急がせた。


(...うちの社長もそうだけど、社長という人はこういう陰気な表情の人が多い。気難しい人だな...。)


 僕は鞄の中の履歴書の入った封筒と学生の時使っていた黒い筒型の図面ケースから卒業作品を取り出し、所長に手渡した。手渡しながら、


「職場ではJW_CADジェイダブリューキャドで図面を書いてます」


 と、さり気無くアピールする事も忘れない...。


 それには何も答えてくれず、履歴書を一瞥したあとじっくり僕の卒業設計を見入っていた。一言も発しない...。


 シーンと静まり返った空間に先程お兄さんが珈琲ともう一つは緑茶を載せたお盆を抱えて中に入ってきた。僕の前に珈琲と砂糖、ミルクを置き、それから所長に緑茶を置く。


「どう、思う?」


 所長は面接相手の僕がまるでこの場に存在しないような口ぶりで何やらお兄さんと話し始めてた。


 お兄さんも真剣な真顔になり、じっと僕の卒業作品を見始めた。


「・・・まぁ、熱心さは伝わってきますよ」


「字が汚い」


「そうですね。・・・まぁ練習すれば何とかなると思いますよ」


「そうか」


(...こういう話は僕が帰ってからするものでは?...。)


 と思いつつも、所長が全幅の信頼をこのお兄さんに寄せているのは明らかだ。

 じろりと僕の方へ初めて向いた所長は、僕に


「交通費別で、日給4500円。土日休みで平日朝の9時から夕方の6時まで。残業しても残業代は付かない。どう、来れる?」


 と単刀直入(たんとうちょくにゅう)に聞いてきた。


「はい!・・・行けると...思います...」


 僕は迷っている風を装いながら頭の中で必死に暗算し、


(...8時間労働+1時間の昼休み。実質時給600円切るくらいかと考えていた...。)


 今の給与と社員である社会保険の待遇も考えると、不安定な生活になってしまう事は明らかでとてもじゃないがやっていけそうにない。が、僕には夢があった。”今の待遇と自信の夢”(おの)ずと答えは決まっている!


「はい、やります!」


「いつから、来れる?」


「今の仕事引継ぎもありますから、大体一ヶ月後だったら出社できます!」


「あぁ、ここは会社じゃないから、アトリエ事務所だから」


「はい、分かりました」


 ・・・たったの30分程で僕の採用は決まった。


 帰りにお兄さんが

「僕の名前は清水(しみず) (つかさ)。宜しくね」


 とまた、気持ち良い笑顔でエレベーターホールまで送ってくれる。


「宜しくお願いします」


 と挨拶してエレベーターに乗り込む。


「ふぅ....」


  緊張状態から解放された僕は取り敢えず第一段階の面接をクリアし、その場で採用も決まった事に安堵した。スーツの中のシャツが秋だというのに汗で張り付いている。


 事務所から出るとそのまま本町駅には向かわず、僕は本町駅とは反対方向の難波(なんば)まで御堂筋を歩きたい気分になっていた。


 ・・・御堂筋の両側に林立する銀杏(いちょう)並木から木枯らしに()かれて、ひらひら黄色に葉が舞い落ちる。足元も銀杏の葉と鼻につくツンとしたギンナンの実の匂いが充満している。


 "コツ、コツ"と革靴の音を響かせながら僕は足元に気を付けながら歩いていた。


 今の僕には匂いは全く気ならない。それよりも色々と考えたい事がある...。


 まず、給与が減る。これを父や母に伝えなければならない。そして、ここで実務を身に着け一刻も早く独立しなければならない。


 僕は20歳で一応建築系の専門学校を卒後したので卒業後、実務経験を最低4年間積む必要があり最短で24歳で受験できる。つまり、あと2年間と少しここで修行しなければならない。


 これは4年生の大学を卒業した人達がその後2年間の実務経験で受験資格が可能になる為、同じ24歳で最短受験が可能になる事に変わりはない。


(..."現役大学生"に追いつく人生最後のチャンス...。)


 交差点の赤信号は青に変わり、僕と同じサラリーマン風の人々が一斉に目的地に向かって歩き出す。ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら僕も一緒に歩き出した。

 遥か先の未来を見つめて...。

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