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人生  作者: yoshi88
:1.17 第一章 始まりの物語
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6.だれが為に(その1)

 1月19日。震災から2日目、昼過ぎ――。


 昨日と同様片づけをしながら一日中テレビを見ていた。何度も使いまわされた同じシーン...。それでも僕達は目が離せない。


 時間を追う毎に刻々と死者数が増していく。


 黒煙を上げながら激しく燃え続ける長田地区の商店街。

 給水設備が破壊され燃え盛る炎の前で、じっと立ち尽くしている事しかできない消防士――。


 絶対壊れないと皆が(しん)じていた阪神高速道路はドミノ倒しのように橋脚ごと倒壊し、倒壊した直ぐ真横の反対車線を、まるで何事もなかったように渋滞しながら自動車が通り過ぎて行く...。


 アクション映画の撮影現場のような倒壊した高速道路の上空に取り残された"赤いバス"の前輪は空中にはみ出し、今にも転落しそうな状態で静止していた――。



 "法治国家であるはずの、日本にもはや警察は存在しない"


 そんな暗いニュースばかりがテレビの中で溢れ返っている。


 僕の心はすり減り疲弊していた...。


 成人式を終え、これから大人として社会に立ち向かわなければならないと誰もが少しは自覚していたはずだ、僕もそうだ。それが、たった2日――。


 たった2日でこれ程ショックを受け、未来に希望が持てなくなろうとは誰が予測しただろう。


 ・・・そんな無気力でやるせない時間を悶々と抱えていた時、僕の家に中西が何の予告もなく突然訪ねてきた。


 ずっと音信不通だった。が、たまたま2日前に会ったばかりの友人に、僕はやっと張りつめていた細い糸が和らぐような安堵の気持ちが蘇ってくる。


(...中西...。)


 中西とは小学校からの友人だ――。


 僕が6年6組、中西は7組。担任の先生同士がいつもライバル意識を持っていて、それは生徒にも伝播した。


 昼休みは校庭で毎日野球やドッチボールをクラス対抗で戦う。


 特に毎年12月の恒例行事である「百人一首大会」は絶好の対戦舞台であり、クラスの大半は夏休みが明けたらすぐに放課後、毎日毎日百人一首の実践稽古をさせられ、勝つ為の特訓が始まった。


 百人一首は、百人の和歌を一人につき一首ずつ選んで作られた百首から成る和歌で、歴史を辿れば鎌倉時代まで遡る。


 読み手が上の句をゆっくりと読んでいる間に、下の句を探し出し見つけて取る遊びで、当然上の句を暗記している方が有利なゲーム。


 6組と7組の百人一首のレベルの高さは全クラス中でも突出しており、他の組の付け入る余地などない。


 クラスの半分近くは30~40首を暗記していた。僕も中西も当然100首暗記して、この時は僅差(きんさ)で僕のクラスが負けた。


 ・・・"中西話し"はいくらでも思い付く。


 特に中西と言えば"鉄道オタク"の一言に尽きる。


 蓄膿(ちくのう)。鼻の病気で僕も中西も耳鼻科に通院していた。病院の待合室で僕は「週刊少年ジャンプ」を見ていた時、中西は鉄道の「時刻表」を見ていた。


 何百ページもある時刻表は小さな文字でびっしり縦書きに時間が書いてある。いつ何処の駅から何という列車が何時何分出発し、何処に何時何分に到着するか詳細に記載されたもので、持っているのは僕の知る限り中西だけだ。


 その時刻を見ながら北は北海道から南は鹿児島まで時刻表で"空想の旅"するのがこの上なく贅沢な時間らしく、僕には到底理解できない...。


 ・・・そんな中西とは高校3年最後の学年で、同じクラスになった――。


 卒業後の彼の進路は小学校の教師になる事。


 東北の方の教育大学を受験し見事現役合格を勝ち取った。それらか一度も連絡を取っていなかった。ほんの2日前までは...。

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